講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


11.居住者が入れ替わる郊外モデルとは?
鈴木:  冒頭で松村さんが触れた「リフレ岬」は、単に監視カメラなどを導入しただけでなく、住民のコミュニティ活動を通してセキュリティを高めようとしていると聞きました。地域ぐるみのセキュリティとなると、ライフスタイルに影響せざるをえない。近所づきあいも変わったりするんじゃないですか?
松村:  ある程度年数が経った状態を見ないと、分からないでしょうね。供給したては、どの住宅地でも何かと活動が盛んな時期ですから。
横山(勝):  パブリックスペースの監視の目のあり方で一番良いのは、奥さんやお年寄りが立ち話しているような道だと思います。ところが郊外住宅にそういうライフスタイルを求めている人は少ないですよね。自分のリビングルームで紅茶でも飲みながらお話しましょう、というイメージでしょう。それが悪いとは思いませんが…。
鈴木:  その人たちのイメージとして求めているものと考える部分は違うということですよね。僕はジェーン・ジェイコブス・モデルが好きなので、千里ニュータウンなどももっと店を入れた方がいいと思うのですが、それを望んでいない感じがする。街から逃げてきたって感じがします。
横山(ゆ):  そういうモデルを実際に体験したことがないのかもしれませんね。
鈴木:  街のにぎわいを避けたい人が郊外に住んでいる可能性が高いから、街で守りましょうといってもやりにくいんじゃないかと思います。
横山(勝):  路上で立ち話をするような、昔の下町のライフスタイルが郊外で成り立つかというとほとんど想像できませんよね。
横山(ゆ):  私たちは東京郊外のT市に住んでいますが、子育てをきっかけにした近所づきあいは今でも生まれているように思います。子供が赤ちゃんの頃、ある時間帯は公園にいようと決めておくという実験をしてみたのですが、そうしたら、なんとなくそういうことに親和性のある親子が集まってきて、自然とつきあいが始まりました。その延長で、最近でも母親同士路上で話していることがありますね。
松村:  港北ニュータウンに住んでいた頃は、確かにお母さん同士が学校で起きている問題などを道ばたで話し合ったりしていましたね。もっとも、子供が違う高校に行ったり、大学生くらいになって、それぞれ違う道を歩み始めると、子供のことで話すことがなくなるらしいです。共通の話題じゃなくなってしまいますから。
鈴木:  古い町だとお祭りとかもあるので、また別のつきあいもあると思いますが…。京都では、登録すると子供安全情報というのが送られてきて、子供に声をかける不審なバイク男が出没しているといったことが分かります。昔に比べるとそういうのが多くなったなと思いますね。
松村:  思い出すと、港北ニュータウンではいろいろなコミュニケーションがありました。全員が一斉に引っ越してきたからでしょうね。出来上がった街に反対されながら建てられたようなマンションに引っ越したら、そうはならなかったでしょう。そういた意味では、ニュータウンはすばらしいと思いましたね。
鈴木:  そのあとが大変なんですよ(笑い)。最初はみんな一緒に入ってくるから協力するけれど、入れ替わる仕組みがない。例えば、欧米では教会を足がかりにコミュニティに入っていける。今後、郊外に空き家が増えて新しい人が入ってきたとしても、そこの社会に入っていくのは物凄く難しいと思います。居住者が入れ替わる郊外モデルはまだ成立していませんよね。
松村:  歓迎会でもやらないと駄目なんじゃないでしょうか。
鈴木:  アメリカにはそうした行事があると聞きましたよ。バスケットにいろいろなプレゼントを入れ、引っ越してきた人にあげるらしいですね。
松村:  土地を無料提供するから来てくださいという活動が、過疎の村にありますよね。その成功事例を取材して、地域の人があれやこれやと大事にしてくれて本当に助かっています、といったニュースを見ることがあります。そうしたところは人に来てもらわないと大変なことになるから、地域ぐるみで新しい人を迎える体制を作っている。これまではよそ者がきたという潜在意識がありましたが、今後はそういった感じになっていくんじゃないでしょうか。



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