湯浅町 〜醤油発祥の地の伝建地区〜

◆はじめに

湯浅町は和歌山県有田郡にある人口約1万人の町で、紀伊半島西部の入江の奥に位置しているため、古来より物流の中心地として発展しました。湯浅湾は天然の良港として、あじ・さば・しらすなどが豊富に水揚げされ、山々では温暖な気候を生かした三宝柑などの柑橘類が栽培され、湯浅港から全国へ輸送されています。湯浅町は醤油発祥の地ともいわれ、旧市街北西部は特に醤油醸造が盛んであったため重要伝統的建造物保存地区(以下、伝建地区)に選定されています。

◆これまで 〜湯浅の歴史と伝建地区の形成〜

古くは仏教が隆盛した時代に熊野三山が信仰を集めていたため、湯浅には京などから熊野参詣のため多くの人が往来し、重要な宿所として発展しました。江戸時代には熊野街道の宿駅や紀伊水道の港町として栄えました。明治時代に入ると、湯浅は陸運・海運の交通利便性を生かして商業都市として発展し、特に醤油を商品として紀伊藩の保護を受けて発展しました。こうして形成されたまちなみは、平成18年に全国初の醤油の醸造町として湯浅町湯浅伝建地区に選定されました。当伝建地区は東西約400m、南北約280mの地区であり、醤油醸造業で栄えた「通り」と「小路」とで形成され、土蔵をはじめとする伝統的なまちなみ(写真1)が残っており、現在も多くの人に愛されています。


写真1:湯浅伝建地区のまちなみ

◆これから 〜伝建地区と少子高齢化・防災との折り合い〜

湯浅町の人口は近年減少傾向にあり高齢化率も28%近く、少子高齢化が深刻化しています。加えて若い世代の人口流出も続いており、湯浅町の今後の担い手について対策が必要になっています。伝建地区を未来に残すためにも、湯浅町に住む人々を惹き付けるとともに、高齢化した住民と伝建地区とが共存できるように方針を定める必要があります。例えば、湯浅町は移住定住促進のために定住支援制度の整備を行っている他、空き家バンクの創設や移住促進ツアーの開催などを行うことで少子高齢化対策を行っています。  さらに、伝建地区は防災面でも課題を抱えています。伝統的なまちなみは魅力的である一方で、建物は老朽化し防災性能が非常に低いため、地震などの災害時に深刻な被害を受ける危険が高いと言えます。伝建地区を保存したまま防災面での課題を解決するために、ハード対策とソフト対策を上手く組み合わせて対策する必要があります。湯浅町では景観に配慮した消火器(写真2,3)を備えるともに、防災訓練や避難訓練を積極的に行って防災コミュニティを形成することで、ハードとソフトの両面から伝建地区と防災との折り合いを図っています。


写真2,3:まちなみにとけ込んだ消火器

◆おわりに

湯浅町は醤油醸造発祥の地として発展してきた伝統的なまちなみを残す一方で、少子高齢化や防災等の課題を解決しようと努力しており、伝建地区と地域の課題との折り合いのひとつの形を見ることができました。

◆参考文献

・湯浅町HP http://www.town.yuasa.wakayama.jp/ ・文化庁HP http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/pdf/r1392257_070.pdf ・和歌山県HP https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/tokku/s_ichiran_d/fil/281129-1.pdf

(文責:廣中)