栃木県宇都宮市 ~LRTはまちをどう変えるのか~

◆はじめに
 宇都宮市は栃木県の県庁所在地であり、2024年10月時点で人口50万人超を有する中核市です。北関東三県の県庁所在地の中で最も人口が多く、また市内には宇都宮二荒山神社や大谷資料館、餃子の街としての名所や日光エリアへの近接性、新幹線による東京からの好アクセスなど観光目的においても魅力的な都市であると考えられます。
 今回訪問した理由としては、後述する芳賀・宇都宮LRT、通称ライトラインの開業後のまちなみを観察するためでした。そこで、本記事においては宇都宮市の簡単な歴史、および中心部である宇都宮駅西部とLRTが開業した駅東部について紹介します。

◆地区の歴史
 古事記や日本書紀に記される古代には豊城入彦命がこの地を開き、二荒山神社の門前町として栄え、湿地が広がっていたことから「池辺郷」とも呼ばれていました。地名の「宇都宮」は、藤原宗円が二荒山神社の名を氏としたことに由来します。江戸時代には城下町として栄え、「小江戸」と呼ばれるほど繁栄したようです。江戸時代には宇都宮の中心市街地を「宇陽」と呼んでいたことにちなんで、昭和初期の土地区画整理事業の際につけられた「陽南」「陽西」「陽北」「陽東」という地域名は現在でも残っています(1)(2)。
 明治17年に栃木県庁が栃木市から移設され、以降は県の政治経済の中心として発展を続けました。戦後は戦災復興と区画整理を進め、昭和30年には周辺町村と合併、商業都市としての基盤を整え、鉄道・道路アクセスの向上や周辺自治体との更なる合併を経て現在へと至ります(1)(2)。

◆市中心部(宇都宮駅西口~東武宇都宮駅)
 JR宇都宮駅西口から東武宇都宮駅付近までの地区が宇都宮市の中心市街地となっています。駅西口から県道1号線、大通りが伸びており、東武宇都宮駅付近までの約1kmは日中2-10分おきに路線バスが通ることからその需要と重要性が伺えます。駅西口にはペデストリアンデッキで改札フロアから東口や大通りへと抜けられるようになっており、また地上レベルにはバスロータリーや駐車場があり交通量がとても多くなっていました。

写真1 宇都宮駅西口ペデストリアンデッキから西側を望む

写真2 宇都宮駅西口地上道路 車でとても混雑していた

 駅北西のすぐには国指定重要文化財・市指定有形文化財である旧篠原家住宅があり、醤油醸造業や肥料商を営んでいた明治時代の豪商の姿を今日に伝える貴重な建造物となっています(3)。黒漆喰や大谷石を用いた外壁や3棟の石倉などがとても印象的でした。

写真3 旧篠原家住宅

 駅西口から田川を渡り、東武宇都宮駅に近づくにつれ繁華街となってきます。オリオン通りは東武宇都宮駅から二荒山神社の間の大通りに並行して約500mの長さとアーケードを持つ商店街であり、北関東随一の広域型商店街として「商業都市宇都宮」を象徴する商店街に成長したとされています。さらに「デジタルまんが祭りinうつのみや」を実施し、宇都宮発信文化事業に取り組むなど、新たな切り口とする「文化」による商店街再生事業も着手しているようです(5)。市民の憩いとふれあいの場を提供することを目的として2006年に誕生した「オリオンスクエア」(宇都宮市オリオン市民広場)においてはさまざまなイベントが行われており、来訪した日はコスプレなどをテーマとしたイベントが行われていました(6)。

写真4 オリオン通り

写真5 イベントが開催されていたオリオンスクエア

 東武宇都宮駅は東武百貨店の内部に駅を持つ構造となっており、その点において東武線の東京におけるターミナルである浅草駅と共通した構造を持っています。

写真6 東武宇都宮駅

 二荒山神社は前述の通り長い歴史を持ちますが、鳥居の前に広場があるのが特徴となっています。これは再開発事業に伴い誕生した「バンバひろば」(宇都宮市バンバ市民広場)です(7)。休日にはフェスティバルやスポーツ大会などの大型イベント会場として使用されるようで、2024年5月に訪れた際にはオリオン通りと一体となってアニメフェスが開催されていました。

写真7 二荒山神社鳥居とバンバ広場

 そのほかにも、大通りの南北に城址公園や八幡山公園といった公園が存在しています。宇都宮城址公園は大通りの南に位置し、かつての宇都宮城の櫓以外は芝生の広場となっていました。歴史展示室も併設されており、文化活動の場として位置づけられているようでした。
 八幡山公園は大通り北の丘陵部に位置し、市内を一望できる宇都宮タワーや遊園地、動物舎などを含んだ公園です。自然の丘陵を活かした園内は花見の名所としても知られています(7)。

写真8 宇都宮城址公園

写真9 宇都宮タワーから南東方向(宇都宮駅方向)を望む

◆芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)の概要
 芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)(以下LRTとする)は2023年8月26日に開業した新規軌道路線であり、宇都宮駅東口駅と芳賀・高根沢工業団地駅の約15km間を結んでいます(8)。

図1 芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)路線図((9)から引用)

 導入の背景と目的としては、人口減少と高齢化が進む中、都市機能や人口を特定の拠点に集約し、これらの拠点を公共交通や道路で連携・補完することで、持続可能な都市を構築することが一点として挙げられています。また、宇都宮市東部地域では特に朝の通勤時間帯に慢性的な渋滞が発生しており、LRTの導入により公共交通機関への転換を促進し、渋滞緩和を図ることが期待されていました(8)(9)。

◆LRT開業後の宇都宮駅東部
 宇都宮駅東口はLRT開業と平行して再開発が行われ、交流拠点施設やホテル、都市型の商業施設などを持った都市拠点の形成を目的としていました。県都の顔である駅東口地区全体を象徴的な都市空間とするため、街区のあらゆる場所からLRTが見えるとともに、LRT停留場と広場が直結するなど、LRTとの一体感が重要されていました(10)。

写真10 宇都宮駅東口

 宇都宮大学陽東キャンパス駅が最寄りとなるベルモールは、2004年には日本製鋼所宇都宮製作所跡地に開業した大型商業施設です(11)。LRT開業までは主な来訪手段が自家用車、路線バスでしたが、LRT開業後は同施設の来店客数、売り上げは共に1割上昇したようです(12)。特に土休日には、LRTを利用してベルモールへ向かう人がとても多いことを確認しました。

写真11 ベルモール

 鬼怒川を渡ると、清原工業団地や芳賀町・高根沢町にまたがる地区に本田技研の工業団地が立地しており通勤需要がとても旺盛な地区となっています。この通勤需要が道路渋滞の一因でした。こうした需要に応えるため、平日の朝時間帯には宇都宮駅東口から工業団地方面に向け高密度運転や快速運転などの施策が取られています。
 また、沿線にはゆいの杜などの住宅地も発達しており、駐輪場やパークアンドライドのための駐車場やLRTに合わせたフィーダーバスの運行などが行われています。駐車場については前年度と比較し利用者が増加していることが確認されているようです(13)。

写真12 清原地区市民センター前駅とフィーダーバス停留場、P&R駐車場

◆おわりに
 本稿では、宇都宮市中心部のまちなみとLRT開業後の沿線のまちなみを紹介しました。栃木県では、通勤・通学における公共交通の交通手段分担率が低く、自動車に依存している傾向にあることが示されており、2020年国勢調査結果による人口100人あたりの自家用車保有台数は全国第2位であり、特に県北地域の自動車依存度が他地域よりやや高い傾向にあることも指摘されています(14)。
 そんな中で、昨年11月時点においてLRTは当初予測を上回る利用が確認されており、今年度においても利用は増加しています。また、開業後の効果として開業前と比較して住民の外出頻度が増加していることや1日あたりの平均歩数が増加し健康促進が期待されることが指摘されており、また沿線地域の来訪頻度と消費額の増加や地価上昇、人口における転入超過などが確認されています。また、鬼怒川を渡る道路や市街地部での道路における交通量が減少している箇所も複数確認されており、理由の一つとしてLRTへの転換が推測されています。2024年12月時点ではLRTが開業して1年弱となりますが、自動車依存社会脱却という観点において一定の効果が得られていることが確認できました(13)。
 一方で、道路との境界があいまいであるというLRT特有の特徴上自動車などとの事故はどうしても起こりやすく、数件の事故がすでに起こっています。また、踏切が原則新規設置できないということもこうした背景の一つです。このような特徴を社会全体が認識し、個々人が慣れていくことにより、LRTと車、自転車、歩行者が共存できる社会になると考えられます。
 図1にも示されている通り、LRTは東武宇都宮駅方面への延伸が計画されています。また、東武宇都宮線とLRTの直通も視野に入れた接続も検討されています(15)。LRTの開業効果が高かったことは示されており、延伸によってオリオン通りや東武百貨店などへの来客数の増加が期待できます。また、東部と同様に自家用車利用からのシフトが起こり、都心部における自動車交通量の減少も同様に期待されます。将来、宇都宮駅西部と東部がLRTという公共交通機関によって結ばれることで、宇都宮はさらに魅力的なまちになるのかもしれません。

写真13 宇都宮駅東口のLRT推進ポスター

(文責・写真:中村圭汰)

◆参考文献(すべて2024/12/03最終閲覧)
(1)宇都宮市HP 宇都宮市の人口・面積など https://www.city.utsunomiya.lg.jp/shisei/gaiyo/1007461.html
(2)宇都宮市HP 宇都宮の歩み(宇都宮市の歴史) https://www.city.utsunomiya.lg.jp/shisei/gaiyo/aramashi/1007463.html
(3)宇都宮の歴史と文化財 歴史・文化Q&A https://utsunomiya-8story.jp/archive/contents_09/
(4)宇都宮市 旧篠原家住宅 施設情報 https://www.city.utsunomiya.lg.jp/event/rekishi/1035012/1016832.html
(5)宇都宮オリオン通り商店街振興組合 オリオン通りとは http://www.orion.or.jp/what/
(6)オリオンスクエア(宇都宮市オリオン市民広場) 施設紹介・Q&A https://orion-square.com/gaiyou/
(7)八幡山公園 HP https://hatimanyama.jp/
(8)栃木県 改善・充実への取組(LRT) https://www.pref.tochigi.lg.jp/h03/town/koukyoukoutsuu/koukyoukoutsuu/documents/4_lrt.pdf
(9)芳賀・宇都宮LRT HP ライトラインについて https://u-movenext.net/about/
(10)宇都宮市 事業概要(JR宇都宮駅東口地区のまちづくり) https://www.city.utsunomiya.lg.jp/shisei/machizukuri/higashiguchi/1031797.html
(11)財務省 路線価でひもとく街の歴史 https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202112/202112h.html
(12)下野新聞digital LRTの経済効果、商業施設は「想定以上」 際立つ沿線地価上昇 https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/9487744QV5KE3GKZMCLJY45O5YKRNCNE/
(13)宇都宮市 東西基幹公共交通(LRT)の実現に向けた取り組み https://www.city.utsunomiya.lg.jp/kurashi/kotsu/lrt/1028856/1006078.html
(14)栃木県 栃木県地域公共交通計画 https://www.pref.tochigi.lg.jp/h03/documents/20240321121638_1.pdf
(15)日本経済新聞 栃木県、LRT接続へ東武・宇都宮市と協議 25年度にも https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC2770X0X21C24A1000000/