山形県鶴岡市 ~庄内藩城下町の面影が残るまち~

◆はじめに
 鶴岡市は山形県西部に位置し、2025年1月時点で人口11万人強を有する自治体であり、山形県内では山形市に次いで二番目に多い人口を持っています(1)。米づくりが盛んな庄内平野南部に位置し、酒田市(参照記事:https://www.jutaku-sumai.jp/town/machinami/sakata.html)と並んで庄内二大都市と評されます。そこで今回は、城下町として栄えた鶴岡の歴史を中心に、それが色濃く残る史跡・中心市街地をご紹介したいと思います。

図1:鶴岡市中心部の地図
(地理院標準地図タイルにスケール、方位記号を追加し作成)

◆鶴ヶ岡城とその跡地
 山形県の庄内平野は、前述の通り源を異にする最上川と赤川の流れによって育まれ、日本有数の穀倉地帯です。古墳時代になると、平野部の低湿地にも人々が住みつき、豪族の支配を受けながら米づくりの生活を始めるようになり、平安時代の末期にはこの地方には大泉荘という荘園が置かれました。1591年によって上杉氏の武将直江兼続によって大宝寺城(大泉荘大梵寺の大梵寺が転じた)が政治の拠点として整備され、その後の関ヶ原の戦の結果、山形城主最上義光が1601年に庄内を治めることとなり、1603年以降はその名を鶴ヶ岡城と改めることとなりました。江戸時代に入り、1622 年に最上氏が領地を没収され、代わって譜代大名の酒井忠勝が領主として鶴岡を居城として城下町を整備し、現在の鶴岡の基礎を築きました(2)。
 鶴岡公園(鶴ケ岡城址公園)はその庄内藩酒井家が約250年近く居城とした鶴ヶ岡城址の跡地に立地しています。城の建築物はほぼ残存していないものの、桜の名所として日本さくら名所100選に選定されている他、公園内には荘内神社や大宝館などが存在しています(3)。

写真1:鶴岡公園の池、堀の痕跡といわれる

写真2:荘内神社
1877年に旧藩主を慕う庄内一円の人々によって鶴ヶ岡城旧本丸跡に創建された(4)。

写真3 大宝館
大正天皇の即位を記念して1915年に建てられた。現在は高山樗牛や松森胤保などの鶴岡が生んだ先人たちの偉業を讃える資料を展示している(4)。

 また、城址跡地には鶴岡公園から道路を挟んで反対側に現代的な建築物である鶴岡アートフォーラムや慶應義塾大学鶴岡タウンキャンパスなども立地しており、文教地区としての調和を感じました。

写真4 鶴岡アートフォーラム

写真5 鶴岡タウンキャンパス
鶴岡市の公園として整備され、「東北公益文科大学大学院」、「致道ライブラリー」も併設されている(4)。

◆中心部に残る様々な史跡
 鶴岡公園周辺には、鶴ヶ岡城跡以外に他にも様々な史跡が残っています。
 庄内藩校致道館は庄内藩の士風の刷新と優れた人材の育成を目的に、1805年酒井家九代目・忠徳が創設した藩校です。徂徠学(古い辞句や文章を直接読むことによって後世の註釈にとらわれず孔子の教えを直接研究する学問)を教学とし、質実剛健な教育文化の風土を育む土壌となったと言われています。この藩校建築は、現存するものとしては東北地方唯一のもので、歴史的、文化的にも価値が高いものとして知られ国指定史跡として一般に公開されています(4)。江戸時代の面影を強く残す建物や学問に関する展示はとても印象的で鶴岡のメインシンボルの一つとなっていますが、見学が無料であることにとても驚きました。

写真6 致道館 表門

 致道博物館は庄内藩主酒井家の御用屋敷地だった場所に立つ博物館であり、国指定重要文化財の旧西田川郡役所や、旧渋谷家住宅(多層民家)、旧鶴岡警察署庁舎など、貴重な歴史的建築物が移築され展示されています(4)。移築ながらも様々な年代の特徴的な建築物が複数揃っており、前述した致道館と並んで鶴岡の主要なシンボルの一つとなっていると考えられます。

写真7 旧庄内藩主御隠殿
酒井家11代忠発の隠居所と伝わる

写真8 旧西田川郡役所
明治初期の擬洋風建築

写真9 旧鶴岡警察署庁舎

写真10 旧渋谷家住宅
出羽三山山麓の民家

写真11 酒井氏庭園
書院庭園という形を取り、鳥海山を借景とする

 他にも国指定重要文化財である旧風間家住宅丙申堂や有形文化財である風間家別邸無量光苑釈迦堂など、歴史ある庭園も周辺に立地していますが、冬季は閉館しているため訪問が叶いませんでした。

◆中心部のまちなみ
 山王町から鶴岡駅に通じる一体のエリアは、中心市街地活性化計画の活性化区域として、商店街などの商業集積が図られていました。写真12の山王通りは、2008年から2012年の間において行われた山王まちづくりプロジェクトにおいて、歩いて暮らせるまちづくりと称して歩道の拡幅などが行われたようです(5)。実際に歩道が広くとても歩きやすいとともに、遠方に山地を見渡せる開放的な空間となっていました。
 写真13の日枝神社は下山王とも呼ばれ、家康の長男信康を祀る復鎮霊社であるとされています(2)。山王通りの名称の由来はこの神社となっています。

写真12 山王通り

写真13 日枝神社(下山王)

 市内を観光するうえでとても便利だと感じた拠点が鶴岡駅西側に位置するショッピングモール「エスモール」であり、市内を走るバスの他に空港リムジンバスや遠距離からの高速バスも集う、鶴岡駅を凌ぐ路線数が集うターミナルとなっています。モール内にはスーパーマーケットやフードコート、複数の衣料店や食料品店、書店や雑貨店などが入居しているとともにバスの待合室が併設され、モール全体として集客力があり、活気があるように感じました。

写真14 エスモール
駐車場の反対側にバスターミナルを持つ

◆おわりに
 今回は、鶴岡の特徴である中心部に残る史跡を中心にご紹介しました。訪れて感じた印象としては、観光資源がとても豊富であり目的地として魅力的であるという点が挙げられます。その一方で、庄内地方は日本海側や山形県内の他地域との連続性が乏しく、公共交通のみだと周遊が少し難しいことが難点の一つであると感じました。
 また、中心市街地の商店街は酒田市と同様に著しい人口減少や商業機能の郊外移転・撤退などに直面し、極めて厳しい環境にあるのが現状となっています。実際に中心市街地の商店街では年々休日の通行量が減る傾向にあることが鶴岡市中心市街地活性化基本計画の検証によって明らかにされています(6)。こうした状況を踏まえ、鶴岡市は2024年に鶴岡市中心市街地将来ビジョンを策定し、中心部を改めて都市機能を誘導する区域に位置づけ、鶴岡公園周辺の観光資源と商店街との回遊性を高める歩行者空間の整備に取り組む方針を明らかにしました(7)。
 加えて、鶴岡市では空き家・空き地が増加し、特に狭あい道路が多い中心市街地では車社会に対応できず空洞化が加速しているという問題があります。こうした問題を解決するために「特定非営利活動法人つるおかランド・バンク」が設立され、空き家・空き地、狭あい道路等を一体の問題として捉え、その不動産を動かす際に所有者等ステークホルダーから協力を得て問題を解決することで、暮らしやすい環境に整えるランドバンク事業や空き家・空き地を手放したい人と、取得や活用を望んでいる人との橋渡しをする空き家バンク事業などを行っています。写真16に写る家は空き家を様々な用途へ転換し活用する空き家コンバージョン事業の一環であり、戸建て複合施設「ハチヨコ」として、クラフト作家の方々の活動拠点として活用されています(8)。

写真15 中心部の銀座商店街

写真16 錦町「ハチヨコ」

 2023年度における自家用乗用車の世帯当たり普及台数は、福井県、富山県に次いで山形県は3位となっているなど、鶴岡市も車社会であることが推察されます。今後、中心市街地における鶴岡公園を中心とした観光拠点の整備に加え、人々の賑わいを中心部に取り戻すまちづくりが改めて課題となっています。歴史あるまちなみを観光に活かしつつ、住むまちとしてどのように市街地中心部が魅力を取り戻すのかについて今後も注視していきたいと感じました。

(文責・写真:中村圭汰)


◆参考文献(すべて2025/2/12最終閲覧)
(1)鶴岡市HP 住民基本台帳人口 世帯数
https://www.city.tsuruoka.lg.jp/shisei/gaiyo/tokei/shimin01jinkousetai.html
(2)鶴岡市HP 鶴岡市の沿革
https://www.city.tsuruoka.lg.jp/shisei/gaiyo/soumu-gaiyouenkaku.html
(3)庄内観光サイトHP 鶴岡公園
https://mokkedano.net/spot/30268
(4)つるおか観光ナビHP
https://www.tsuruokakanko.com
(5)鶴岡市HP 鶴岡市中心市街地活性化基本計画
https://www.city.tsuruoka.lg.jp/seibi/toshikaihatsu/syouko01tyukatsu.files/20220825_01.pdf
(6)鶴岡市HP 鶴岡市都市再興基本計画(都市計画マスタープラン・立地適正化計画)
https://www.city.tsuruoka.lg.jp/seibi/toshikeikaku/toshikeikaku-plan/tosisaikou.html
(7)鶴岡市HP 鶴岡市中心市街地将来ビジョンの策定について
https://www.city.tsuruoka.lg.jp/seibi/toshikaihatsu/chukatsu/tosikeikaku0328_01.html
(8)つるおかランド・バンクHP
https://t-landbank.org/
(9) 一般財団法人 自動車検査登録情報協会 令和6年3月末現在における自家用乗用車(登録車と軽自動車の合計)の世帯当たり普及台数
https://www.airia.or.jp/publish/file/v19mrm0000000nk7-att/kenbetsu2024.pdf
(10)国土地理院 地理院タイル一覧
https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html