写真5 鶴岡タウンキャンパス
鶴岡市の公園として整備され、「東北公益文科大学大学院」、「致道ライブラリー」も併設されている(4)。
◆中心部に残る様々な史跡
鶴岡公園周辺には、鶴ヶ岡城跡以外に他にも様々な史跡が残っています。
庄内藩校致道館は庄内藩の士風の刷新と優れた人材の育成を目的に、1805年酒井家九代目・忠徳が創設した藩校です。徂徠学(古い辞句や文章を直接読むことによって後世の註釈にとらわれず孔子の教えを直接研究する学問)を教学とし、質実剛健な教育文化の風土を育む土壌となったと言われています。この藩校建築は、現存するものとしては東北地方唯一のもので、歴史的、文化的にも価値が高いものとして知られ国指定史跡として一般に公開されています(4)。江戸時代の面影を強く残す建物や学問に関する展示はとても印象的で鶴岡のメインシンボルの一つとなっていますが、見学が無料であることにとても驚きました。
写真6 致道館 表門
致道博物館は庄内藩主酒井家の御用屋敷地だった場所に立つ博物館であり、国指定重要文化財の旧西田川郡役所や、旧渋谷家住宅(多層民家)、旧鶴岡警察署庁舎など、貴重な歴史的建築物が移築され展示されています(4)。移築ながらも様々な年代の特徴的な建築物が複数揃っており、前述した致道館と並んで鶴岡の主要なシンボルの一つとなっていると考えられます。
写真7 旧庄内藩主御隠殿
酒井家11代忠発の隠居所と伝わる
写真8 旧西田川郡役所
明治初期の擬洋風建築
写真9 旧鶴岡警察署庁舎
写真10 旧渋谷家住宅
出羽三山山麓の民家
写真11 酒井氏庭園
書院庭園という形を取り、鳥海山を借景とする
他にも国指定重要文化財である旧風間家住宅丙申堂や有形文化財である風間家別邸無量光苑釈迦堂など、歴史ある庭園も周辺に立地していますが、冬季は閉館しているため訪問が叶いませんでした。
◆中心部のまちなみ
山王町から鶴岡駅に通じる一体のエリアは、中心市街地活性化計画の活性化区域として、商店街などの商業集積が図られていました。写真12の山王通りは、2008年から2012年の間において行われた山王まちづくりプロジェクトにおいて、歩いて暮らせるまちづくりと称して歩道の拡幅などが行われたようです(5)。実際に歩道が広くとても歩きやすいとともに、遠方に山地を見渡せる開放的な空間となっていました。
写真13の日枝神社は下山王とも呼ばれ、家康の長男信康を祀る復鎮霊社であるとされています(2)。山王通りの名称の由来はこの神社となっています。
写真12 山王通り
写真13 日枝神社(下山王)
市内を観光するうえでとても便利だと感じた拠点が鶴岡駅西側に位置するショッピングモール「エスモール」であり、市内を走るバスの他に空港リムジンバスや遠距離からの高速バスも集う、鶴岡駅を凌ぐ路線数が集うターミナルとなっています。モール内にはスーパーマーケットやフードコート、複数の衣料店や食料品店、書店や雑貨店などが入居しているとともにバスの待合室が併設され、モール全体として集客力があり、活気があるように感じました。
写真14 エスモール
駐車場の反対側にバスターミナルを持つ
◆おわりに
今回は、鶴岡の特徴である中心部に残る史跡を中心にご紹介しました。訪れて感じた印象としては、観光資源がとても豊富であり目的地として魅力的であるという点が挙げられます。その一方で、庄内地方は日本海側や山形県内の他地域との連続性が乏しく、公共交通のみだと周遊が少し難しいことが難点の一つであると感じました。
また、中心市街地の商店街は酒田市と同様に著しい人口減少や商業機能の郊外移転・撤退などに直面し、極めて厳しい環境にあるのが現状となっています。実際に中心市街地の商店街では年々休日の通行量が減る傾向にあることが鶴岡市中心市街地活性化基本計画の検証によって明らかにされています(6)。こうした状況を踏まえ、鶴岡市は2024年に鶴岡市中心市街地将来ビジョンを策定し、中心部を改めて都市機能を誘導する区域に位置づけ、鶴岡公園周辺の観光資源と商店街との回遊性を高める歩行者空間の整備に取り組む方針を明らかにしました(7)。
加えて、鶴岡市では空き家・空き地が増加し、特に狭あい道路が多い中心市街地では車社会に対応できず空洞化が加速しているという問題があります。こうした問題を解決するために「特定非営利活動法人つるおかランド・バンク」が設立され、空き家・空き地、狭あい道路等を一体の問題として捉え、その不動産を動かす際に所有者等ステークホルダーから協力を得て問題を解決することで、暮らしやすい環境に整えるランドバンク事業や空き家・空き地を手放したい人と、取得や活用を望んでいる人との橋渡しをする空き家バンク事業などを行っています。写真16に写る家は空き家を様々な用途へ転換し活用する空き家コンバージョン事業の一環であり、戸建て複合施設「ハチヨコ」として、クラフト作家の方々の活動拠点として活用されています(8)。
写真15 中心部の銀座商店街