伊勢神宮・内宮前 おはらい町・おかげ横丁 江戸~明治期の風情を感じられるまち

伊勢おはらい町は、日本でも有名な神社の一つである、伊勢神宮の鳥居前町として有名です。江戸時代から、伊勢神宮に参拝する客が多く訪れ、そこに滞在中・参拝の世話をする「御師」と呼ばれる人々が館を連ねて、客人をお祓いなどでもてなしたことから、「おはらい町」と呼ばれるようになったようです。
この地域に存在する、約800mの通りが、今回紹介するおはらい町通りです。土産物を売る店が多く、伊勢の名物である、赤福の本店もこの通りにあります。民家や銀行などの施設も含めて、建物の構えが木造建築で統一され、伝統的な雰囲気を醸し出すまちなみが特徴的です。休日などには、大量の参拝客で通りが埋め尽くされる、非常に賑わいのある観光名所として有名です。

 

◆その衰退から再活性化まで

おはらい町通りは、古くから伊勢神宮の参拝客でにぎわっており、江戸時代には、年間200万人以上の人が訪れていました。しかし、それが1970年代には20万人にまで落ち込んでしまったそうです。この危機に対して、「伊勢おはらい町会議」が結成されました。老舗の赤福が中心となり、10年ほどで、現在のまちなみのような切妻・入母屋・妻入り様式の町並みがみられるようになりました。
その後、1993年(平成5年)の式年遷宮(神宮の建物を新しく建て直すとともに場所を遷し、すべて新調する行事)に合わせて、「おかげ参り」と「商いを続けてこられたのは伊勢神宮のおかげ」という2つの意味を込めて「おかげ横丁」と名付けた地区がつくられる事となりました。このおかげ横丁もおはらい町の伝統建築様式取り入れています。さらに、伊勢河崎の蔵、桑名の洋館などを忠実に、再現・移築した建造物群もあります。これらは、お蔭参りで賑わった頃の町並みという統一したテーマの元で造られています。

 

写真1:おかげ横丁の入口


おかげ横丁の設立により、おはらい町通りは客足が次第に戻りはじめ、おかげ横丁ができる前に約32万人まで落ち込んでしまっていた来客者数は、2002年には年間300万人までに増加したようです。筆者が訪れた2013年10月は、ちょうど式年遷宮が終了した時でありまして、たいへん多くの人が訪れていました。まちなみの統一感に加え、他にも思わず訪れたくなる理由がどこにあるか、以下で少し考察してみます。

一つには、建物や道などの都市的要素の統一感とは対照的な、店舗の多様さがあると考えられます。お土産物屋さんも、各店舗により異なる品物を扱っており、各店舗に個性が感じられますし、また、食事処、食べ歩きのための軽食を販売しているお店の種類も多岐にわたります。おはらい町とおかげ横丁をあわせれば、実に100店舗近い店舗がありますから、当然、一度の来訪で全てのお店を訪れる事は難しくなります。これもリピーターを増加させる理由になっているのでしょう。

さらに、おかげ横丁では、毎月何らかの地域行事が開催され、まちが観光に訪れる人々をもてなします。たとえば、毎月1日に行われる「朔日詣」という行事は、伊勢に古くから伝わる風習で、早朝から参拝する人々を、朝市や各店が特製のお粥を作り、早朝からたくさんの参拝客をもてなすようです。このような、来客をもてなす心と、街の統一感を出す整備が合わさることで、おはらい町・おかげ横丁で働く人々が一丸になって再活性化に向かい、それを成し遂げることができたのではないでしょうか。


写真2:多くの人でにぎわうおはらい町通り


◆実際に歩いてみての気づき

おはらい町からおかげ横丁にかけて散策をしてみると、先に紹介した伝統建築様式に加えて、細部に遊びや工夫を凝らした趣向を見つける事ができます。その代表的なものがこの屋根の上の瓦性のサルたち(図@)。日航の東照宮の見ざる・聞かざる・言わざるを模したものでしょうか。このほかにも、瓦で作られた動物や縁起物の神様たちなど、多くの要素が隠れています。街をあるきながらこのような工夫を見つけてみるのも面白いのではないでしょうか。


写真3:店舗の屋根の上の猿の像

おはらい町中ほどの、おかげ横丁の看板から先に進んでいくと、さらに江戸情緒あふれる街並みが広がります。おはらい町よりもさらに江戸時代にタイムスリップした感覚をより強く感じるのは、店舗の商品陳列、飲食可能なスペースが、所せましと沿道にせり出してきているからではないか、と筆者は考えました。建築様式だけではなく、店と客の関わり合い方がより当時の様子に近いことでで、我々もその時代にいるような感覚を覚える事ができるのではないでしょうか。



写真4:沿道にせり出したおかげ横丁の店舗



◆景観維持のためのとりくみ

さて、これらの伝統を感じるまちなみは、都市計画としてどのように整備、維持されてきたのかを、最後に紹介しておきたいと思います。
具体的な景観形成事業としてのきっかけになったのは、平成元年の「伊勢市まちなみ保全条例」、その翌年に制定された「内宮おはらい町まちなみ保全地区並びに同保全計画」であるようです。ここから、通りの無電柱化や石畳舗装の整備が始まりました。また、これらを含む保全事業の中では、「保全地区内において新・増築・改築等の修景を行う場合は、保全整備基準に基づき、伊勢の伝統的家屋形態(切妻・妻入り、または入母屋・妻入り)を再現・維持(主に外観部分)すること」というように、伝統的なまちなみ形成への誘導を図るとともに、その工費の一部を市が負担してきました。この保全事業は、景観法に基づく伊勢市景観計画(H21~)の中の重点地区の指定、都市計画法による景観地区への指定へと移行しました。おはらい町、おかげ横丁周辺は「内宮おはらい町地区」として一体的に建築行為に対する建築物・工作物の形態意匠の制限が課され、さらに高度地区指定により、建築物の高さの最高限度を原則10mと定める事で、特徴的な伝統建築群の立ち並ぶまちなみの維持を行っているようです。



写真5:チェーン店も店の外装に配慮を行う


写真6:伝統的な意匠の雰囲気を残す建物


◆おわりに

今回のレポートでは、伊勢のおはらい町、おかげ横丁について、その形成過程の概略をたどりつつ、その魅力を紹介しました。
このような賑わいのあるまちを訪れて感じるのは、通り沿道の建築物だけでなく、人々が楽しそうに 行きかう姿も含めて、その場所のまちなみであるという点です。そのためには、建物、道といった街のハードとしての都市施設に加え、店舗の暖かい対応や地域全体のイベントなど、ソフト面でも充実した街である事が重要と考えます。その意味では、皆さんも多くの個性的な店が立ち並ぶ中、伊勢の味や文化、土産物を楽しむことで伊勢のまちなみの一部になれるのではないでしょうか。ぜひ一度訪れて肌でその良さを感じてほしいところです。


参考文献

伊勢市の都市計画(伊勢市 ウェブサイト)
伊勢市まちなみ保全事業(伊勢市 ウェブサイト)
伊勢市観光協会ホームページ
住民が共に育てる観光まちづくり事例 21 三重県 伊勢市 有限会社 伊勢福
(文責:関口達也)