活火山との共生 鹿児島・桜島

◆はじめに
 桜島は、鹿児島県の薩摩半島と大隅半島に囲まれた錦江湾の中に位置する火山である。現在は大隅半島と陸続きになっているが、1914年の大正噴火までは、大隅半島との間に幅330~400mの瀬戸海峡が存在した。自治体としての桜島町は2004年に薩摩半島の鹿児島市に編入された。本記事では、鹿児島市街地と桜島の住民がいかにして活火山と共生しているかを紹介する。

◆鹿児島市街地で火山の存在を感じる
 鹿児島市街地と桜島は一番近い部分でも約4kmの距離があるが、鹿児島市街地を歩く中でも桜島の存在を感じることができる。一つ特徴的なものとしては、各所における火山灰への対応策が挙げられる。鹿児島市街地を歩いていると、図1のような、「宅地内降灰指定置場」と書かれた看板をしばしば見かける。桜島が噴火し、その火山灰が鹿児島市街地まで及んだ場合、住民はあらかじめ配布された「克灰袋」に火山灰を入れてこの指定置場に置くそうだ。


図1 宅地内降灰指定置場の看板(鹿児島市街地で撮影)


図2 克灰袋(桜島ビジターセンターで撮影)

 また地形からも桜島の存在は感じられる。九州南部は火山噴出物からなるシラス台地が広く分布しており、鹿児島市街地にも急崖に囲まれた標高100m程度の台地が存在する。そのうちの一つである城山に登れば、展望台から雄大な桜島の姿を望める。私たちが訪問した日はあいにくの天気だったが、ボランティアガイドの方が天気の良い日の写真を見せてくださった。


図3 城山から望む桜島


図4 ボランティアガイドの方が見せてくださった天気の良い日の桜島の写真

◆鹿児島市街地から桜島へ
 現状鹿児島市街地と桜島を陸路で直接結ぶ交通手段は存在しないが、桜島フェリーが鹿児島港から桜島港までを片道10分で結んでいる。図5の時刻表からわかる通り、桜島フェリーは24時間夜通し運行している。鹿児島市船舶事業経営計画によれば、桜島フェリーは平時の交通手段、物流手段としての役割に加え、救急医療を支える役割を果たしている。夜間はドクターヘリが運行していないことから、桜島フェリーの24時間運航体制は桜島・大隅地域からの迅速な搬送や医療の地域格差の解消などに大きく貢献している[1]。


図5 桜島フェリーの時刻表(鹿児島港で撮影)

 鹿児島市街地と桜島を橋またはトンネルで結ぶ計画も存在する。鹿児島県が2009年度から行った「錦江湾横断交通ネットワーク可能性調査」の調査結果とりまとめによれば、薩摩半島と大隅半島を結ぶ3つの道路案(図6の①鹿児島市街地~桜島案、②鹿児島市街地~垂水案、③指宿~南大隅案)のうち、鹿児島市街地と桜島をトンネルで結ぶ案が最も効率的であると結論付けられた[2]。しかしながら2021年に、鹿児島県が20~30年後を見据えて作成した「かごしま新広域道路交通計画」でも、錦江湾横断道路は構想路線のままであり、実現の見通しは立っていない[3]。城山のボランティアガイドの方によれば、鹿児島市街地と桜島を結ぶ道路の計画は「出たり引っ込んだり」という状態だそうだ。


図6 薩摩半島と大隅半島を結ぶ3つの道路案(地理院地図[4]を基に筆者作成)

◆鹿児島市街地から桜島へ
 桜島に降り立つと、所々で火山の脅威を感じることができる。例えば桜島東部の腹五社神社には、冒頭で紹介した大正噴火の際に噴出した火山灰で埋没した鳥居があり、噴火の大きさを今も伝えている(図7)。


図7 腹五社神社の埋没鳥居。地中の部分を含めれば3mの高さがある

また島を一周するバスに乗ると、噴火時に一時的に避難するための退避壕(図8)や、流下した土砂を捕捉、抑制するための砂防堰堤(図9)を複数見ることができる。桜島は今も頻繁に噴火する活火山であるとともに、約3,400人の住民の生活の場でもある(2023年1月時点)。活火山である桜島と共生するためにはこうした設備が必要不可欠であることがわかる。


図8 退避壕


図9 砂防堰堤(桜島国際火山砂防センターから撮影)

◆おわりに
 ここまで鹿児島市街地と桜島の住民がいかにして活火山と共生しているかを紹介した中で、鹿児島市街地に比べ桜島ではより苛烈な噴火被害に対応する必要があることがわかった。桜島の人口は2013年から2023年にかけて32%減少しており、背景の一つとしては噴火に伴う被害リスクの高さが考えられる。鹿児島市内にフェリーでしかアクセスできないことも通勤通学の妨げとなり、鹿児島市街地に移り住む人もいるようだ[5]。
 ところで、鹿児島市の都市計画区域は鹿児島、吉田、喜入、松元、郡山の5区域に分かれており、立地適正化計画の中でそれぞれの区域に居住誘導区域が定められている。桜島の東南部半分ほどの区域は都市計画区域に定められており鹿児島都市計画区域に含められているものの、居住誘導区域は定められていない[6]。立地適正化計画策定においては、防災対策と連携して災害リスクの高い地域を居住誘導区域から除外することが重要であり、桜島に居住誘導区域が指定されていないのは災害リスクの高さが背景にあると考えられる。しかしながら、活火山と住民の共生する様を見ることのできるまちなみは大変貴重である。まだ鹿児島及び桜島を訪れたことのない読者の方々には、ぜひこの貴重なまちなみを実際に感じていただきたい。
(文責・写真:福島渓太)

◆参考資料
[1]鹿児島市: 第2期鹿児島市船舶事業経営計画,
https://www.city.kagoshima.lg.jp/sakurajima-ferry/gaiyo/documents/keieikeikaku_dai2ki_zentaiban.pdf
[2]鹿児島県: 錦江湾横断交通ネットワーク可能性調査(H21~H23調査結果とりまとめ),
https://www.pref.kagoshima.jp/ac01/infra/kotu/kinkouwanoudan/documents/23601_20120213110320-1.pdf
[3]鹿児島県: かごしま新広域道路交通計画,
https://www.pref.kagoshima.jp/ah04/documents/88382_20211029092606-1.pdf
[4]国土地理院: 地理院地図, https://maps.gsi.go.jp/
[5]南日本新聞: 「このままでは住む人いなくなる」…世界に誇れる活火山に暮らす島民が”夢の架け橋”に懸ける熱い思い,
https://373news.com/_news/storyid/185766/
[6]鹿児島市: 立地適正化計画の概要,
https://www.city.kagoshima.lg.jp/kensetu/toshikeikaku/toshikeikaku/machizukuri/toshikekaku/rittitekiseika.html