小樽 –街並みにみられる景観形成の努力と今後の課題–

◆はじめに

 小樽市は札幌から北西に車で40分ほどに位置する人口10万人ほどの町です。古くから港湾都市として栄え、その街並みは豊かな歴史と文化を反映しています。特に、明治から昭和初期にかけて建てられた石造りの倉庫や建物、運河沿いの景観でよく知られています(写真1)。これらのノスタルジックな街並みの美しさと歴史的価値から、日本有数の観光都市として発展し、現在も多くの観光客をひきつけています。市としても観光産業に力を入れており、美しい景観を守るために多くの取り組みを行っています。本稿では、街中に垣間見える小樽の街並みを形成してきた取り組みについて紹介していきます。


写真1. 小樽運河と倉庫群の景観

◆小樽の景観形成:都市景観賞

 前述の通り、小樽には数多くの歴史的建造物が現存しており、小樽市歴史的建造物として指定され、建物および景観の保全が図られています。市によると、現在小樽市指定歴史的建造物には79件の建物が指定されています。
 他にも、写真2のように様々な建物の外壁に「都市景観賞」の看板がかかっているのを目にします。小樽市は、美しい景観を維持する取り組みの一環として、小樽の歴史と風土に調和した都市景観を作り出している建築物やイベントを「小樽市都市景観賞」として表彰しています。この賞は昭和63年に創設され、現在74の物件が受賞しています。この賞により、都市環境を向上させるとともに市民のまちづくりへの関心を高めていくことを目的としています。
 また、良好な都市景観形成への積極的な姿勢と努力が認められた個人・団体に対して、都市景観奨励賞を贈呈しています。このように、市民と行政が一体となった努力があり、現在の魅力的な街並み形成につながっていることを感じられます。


写真2. 北一硝子入口の都市景観賞および小樽市指定歴史的建造物の表彰

◆小樽の景観形成:歴史景観区域

 小樽市は市域全域を景観計画区域に定めていますが、その中でも観光の中心となるエリアを「歴史景観区域」に指定しています。歴史景観区域は、歴史・文化などから見て小樽らしい良好な景観を形成している区域に対して独自の制限を定めているものです。図1のように15のエリアが設定されており、それぞれの地域に適した建築規制が定められています。街中にも歴史景観区域の案内看板が複数見られました(写真3)。
 例えば、小樽運河と倉庫群が位置する区域では、14メートルの高さ制限や空地や駐車場が道路側から見えにくいようにするなど街並みの連続性に配慮した規制があります。また、建築物の色彩基準なども設けられ、歴史的な雰囲気が損なわれないように具体的な規制が実施されています。写真4・5に示すのは、観光地の中心スポットであるメルヘン通り付近の郵便局と、小樽運河の裏通りです。郵便局は周囲の外壁の色と調和しています。また、小樽運河沿いでは運河に面する側面に空地や駐車場ができないような配慮がなされており、駐車場を目立ちにくくし、写真1のような連続的な倉庫の景観を維持しています。


図1. 小樽市歴史景観区域図(図は小樽市[4]を参照)


写真3. 小樽市歴史景観区域の看板


写真4. メルヘン通り周辺の郵便局。周囲の景観と調和している


写真5. 小樽運河の裏通り。倉庫を駐車場に活用することで運河側の景観の連続性を保つ

◆小樽の直面する課題

 小樽は観光都市として、国内・海外から観光客を惹きつけていますが、一方で課題も存在します。第二次小樽市観光基本計画では、宿泊観光客の少なさが課題として挙げられています。札幌から40分というアクセスの良さや小樽市の観光コンテンツの性質上、通過型の観光が主流となっているため、域内消費が少なくなっています。インバウンド観光の発展で海外観光客の宿泊は伸びているものの、全体の観光入込客数に対する宿泊率は依然低い水準のままとなっています(第二次小樽市観光基本計画を参照)。
 そこで市としては観光の高付加価値化を掲げ、宿泊観光を盛んにすることを目指しています。2022年には星野リゾートが手掛ける「OMO5小樽 by 星野リゾート」というホテルがオープンしました。このホテルは歴史的建築物が並ぶウォール街のエリアに位置しており、ホテルの北館は旧商工会議所(写真6)の外観を残しリノベーションした建物です。この建物と取り組みは先述の小樽市都市景観賞として表彰もされました。今後も街並みと調和した、小樽独自の宿泊体験ができるホテルが増えていくかもしれません。


写真6. 旧小樽商工会議所の外観。リノベーションを経てOMO5小樽の南館となっている(写真は小樽市[7]を参照)

◆おわりに

 歴史と文化を反映したノスタルジックな景観から観光都市として人気を集める小樽ですが、実際に街を歩くと、景観賞や景観区域の看板など、街並みを維持するための取り組みがアピールされており、景観の美しさだけでなく、景観を作るための努力を知ることができました。
 魅力的な観光都市である小樽市も、他の地方都市と同様に人口減少や建物の老朽化といった課題を抱えています。観光地としての発展と歴史的な建造物の保存を両立させるためには、市民と観光客を含めた社会全体の取り組みが必要です。今後も小樽の魅力的な街並みを支えていく取り組みに注目していきたいです。
(文責・写真:宮岸凌也)

◆参考文献

[1]小樽市: 小樽市指定歴史的建造物, https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020101500269/
[2]小樽市: 小樽市都市景観賞, https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020112000239/
[3]小樽市: 小樽市歴史景観区域, https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020111600836/
[4]小樽市: 景観計画区域の行為の制限, https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020111600843/
[5]小樽市: 小樽市観光基本計画, https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020101000233/
[6]星野リゾート: OMO5小樽 by 星野リゾート, https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/omo5otaru/
[7]小樽市: 小樽市指定歴史的建造物 第10号 旧小樽商工会議所, https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020101500399/