『甲陽園・夙川・芦屋地域』

兵庫県の甲陽園・夙川・芦屋地域は関西の中でも閑静な住宅街として有名です。今回はこの地域の住宅を調査してきました。 高級なイメージのある地域ですが、大邸宅ばかりではなく、平均的な規模の住宅も多くありました。全体の印象としては、落ち着いており、緑が多く、それでいて個性的な住宅が多いと感じました。

落ち着いた印象の要因としては、近頃のプレファブ住宅にありがちな派手な外観の住宅が少なく、洋風和風の住宅は混在しているものの全体の色調にまとまりがあるからだといえます。また、アプローチや植裁、塀のデザインにそれぞれの居住者の嗜好があらわれており個性を感じさせていました。

中村良夫の「風景学入門」という本には「都市風景の基本に『挨拶』という性格を確認することは重要」とあります。『挨拶』とは人と人の間のものですが、都市風景における場合は建物と通りを歩く人との間のものであり、例えば窓辺の花、お店ならば看板を通して発せられます。

まちなみにおける住宅としては居住者自身が快適である、まちなみを乱さない、といったことも重要ですが、これらを満たした上で『挨拶』を意識している住宅は少ないのではないでしょうか。大邸宅でも高い塀で内部を見えなくしているもの、ブロック塀で区切られた一般的な住宅、塀はなくても庭や窓の装飾において通りからの視線を意識していないものは『挨拶』を意識しているとはいえません。

そこで、今回調査した地域の中から『挨拶』を意識している住宅、つまり通り側への配慮がなされている例を紹介したいと思います。

nakata_01.jpg (写真1)大邸宅の塀と植裁です。塀の内部だけでなく外部にも植裁が施されて塀の圧迫感を和らげ道行く人にも緑を提供しています。


nakata_02.jpg (写真2)モダンな住宅のアプローチです。内部が見えないような高い壁ですが、通り側に小さな庭があり、コンクリートだけだと冷たくなりがちな印象を柔らかいものにしています。


この地域は山手にあるため、段差のある敷地も多く、それぞれアプローチに工夫がされていました。

nakata_03.jpg (写真3)和風の住宅のアプローチです。曲がりくねった階段が内部を隠しつつ、植裁が訪問する人の目を楽しませます。


nakata_04.jpg (写真4)洋風の住宅です。アーチをくぐって階段を上る楽しい仕掛けとなっています。写真は冬に撮ったものなのですが、暖かくなると花を咲かせたりするのかもしれません。


ここからは大きくない住宅でも可能な例です。

nakata_05.jpg (写真5)それほど規模の大きくない住宅の場合は、塀ではなく柵にし、細い素材で透明感を出すと圧迫感がなく、庭も暗くなりません。前庭がなくとも鉢植えを置いて、楽しませることができます、


nakata_06.jpg (写真6)大人の胸の高さほどの小さな門ですが、門灯などのデザインや素材と共にこだわりが感じられます。門は防犯や境界を示すという機能だけでなく、通りゆく人や訪問する人の目を楽しませるものでもあります。


nakata_07.jpg (写真7)上の住宅の塀に記された手形と日付。家への愛着が感じられます。


nakata_08.jpg (写真8)門のデザインと一体となったオブジェ。散歩の途中で立ち止まってしまいそうです。ヨーロッパの都市住宅では壁に像が彫られたりすることがありますが、このような工夫もあってもよいのではないでしょうか。


nakata_09.jpg (写真9)階段の素材、ステンドグラス、植裁と扉全てに配慮が感じられて、こじんまりとしていながらも気持ちのよい空間です。


都市が過密になり、住宅と通りの関係が密接になるほど『挨拶』を意識するということは大切になってきます。効果的に『挨拶』を演出するには、乱雑なものは見えないようにすること、近隣との連続性なども考慮することも大切です。

まずは通りから我が家を眺めてみて、何に一番目が留まりやすいか調べてみて下さい。それは気持ちのよい『挨拶』となっているでしょうか。
(文責:中田早耶)

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