札幌市近郊 人口増加を支えた住宅とまちなみ

◆概要

 北海道札幌市は、石狩平野の南西部に位置し、明治2年(1869年)の開拓使設置以来、北海道開拓の拠点として発展を続けてきました。現在では人口190万人を超える大都市となっています。今回は、その人口増加を支えるべく開発されてきた数多くの住宅地の中から3つを取り上げ、寒冷多雪の北海道気候にあったまちなみとすまいを少し覗いてみることにしましょう。
 今回ご紹介する3つの住宅地は、1)補強コンクリートブロック造の三角屋根住宅(手稲区金山)、2)パストラルタウン美しが丘第T期(清田区美しが丘)、3)しんえい四季のまち(清田区真栄)です。それぞれの位置関係は、下の地図をご覧ください。

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◆補強コンクリートブロック造の三角屋根住宅(手稲区金山)

 この住宅は、高度経済成長期の北海道における代表的な住宅です。寒冷地住宅の建築計画学の第一人者、故足達富士夫北海道大学教授には「北海道の民家」と言及されるほどで、北海道の住文化を築きました。開発の経緯には、1953年に「北海道防寒住宅建設等促進法」が制定されたこと、及び、1954年洞爺丸台風による森林倒木被害から、木材の代わりに道内で大量産出される火山灰を活用したコンクリートブロックが注目されたこと、が挙げられます。それ以前の住宅に比べ機密性が高く、防火性にも優れていたため、道内のニュータウン戸建住宅の多くで採用され、1950年代〜60年代に財団法人北海道住宅供給公社などが積極的に建てました。ただ、屋根への積雪を地面へ落とすよう屋根を急勾配にしたため2階部分の居室スペースが少ないこと、壁内結露などが問題となり、現存しているものは少ないようです。今回は、現存する希少な三角屋根住宅群の1つである札幌市手稲区金山付近を訪れました。
 写真1は、単独でみた様子です。近くで見てみると、ブロック造であることがわかります(写真2)。複数並んだ状態で眺めると(写真3)、急こう配のトタン屋根の連なりが、快いリズムを生み出しています。まちなみに連続性があると同時に、大屋根や壁の色の多様さ、家屋の前にある庭木が程よい個性も与えているように見えます。ブロック造と聞いた当初は、灰色のブロック塀に覆われたような暗い家をイメージしたのですが異なりました。壁と屋根の色使いから温かみを感じるとともに、隣家や道路との塀がとても低いあるいは無いことから開放感を得ました。庭がキレイに保たれているのも、この塀の低さが関係しているのかもしれません。竣工から月日は経っていますが、良好なまちなみという印象です。


写真1 三角屋根住宅の外観


写真2 ブロック造


写真3 快いリズムを生み出す三角屋根住宅

◆パストラルタウン美しが丘第T期(清田区美しが丘)



 この住宅は、当時の道内有力建築家4名(倉本龍彦氏・小室雅伸氏・圓山彬雄氏・宮下勇氏)の設計により作らました。具体的なデザインコード(デザインに関する決まり事)は設けず、建築家がつくると良質なまちなみになるとのコンセプトで計画されました。この斬新な企画は、1980年代、宅地需要は落ち着きつつも、周囲で同種の住宅街開発が目白押しで販売激戦という状況の中、宅地販売を成功させる策という意味もあったようです。個々の家はあくまで個性的で競い合いつつも、全体のまちなみは調和させるというテーマのもと建てられた家々の様子を覗いてみることにしましょう。
 写真4〜7は4枚とも当該住宅地の写真で、先ほどの「三角屋根住宅」と比較すると、まず、屋根の形状が、切妻、招き造り、片流れ、平屋根、と多様な点が目につきます。色合いもそれぞれ異なり、1戸の中でも壁面が多色な場合も多く、鮮やかです。確かに、それぞれの建物は個性的ではあるものの、色のトーンや屋根の向きから統一性を感じました。また、ここでも塀がありません。塀を無くす目的は、除雪の効率性を上げるためでしょうが、それは、まちなみの繋がりの向上にも一役買っていると言えそうです。
 総じて、個性と調和の両方を追求する建築家の葛藤を感じられる面白いまちなみでした。1点、残念に思えたのは、路上駐車している自動車の多さです。子どもが成長し所有台数が駐車スペースを上回ったか、休日で来客が多かったのかもしれません。


写真4 パストラルタウン1


写真5 パストラルタウン2


写真6 パストラルタウン3


写真7 パストラルタウン4

◆しんえい四季のまち(清田区真栄)



 この住宅街は、「身近に四季を感じるまち」をテーマとし、緑・まちなみ・安全・冬・ライフスタイル・便利の6つをキーワードとしています。街区中央に住戸で囲まれた公園を配置し、ハルニレ(札幌を代表する木)を群生させて植栽しています。また、計画策定のプロセスが特徴的で、民間会社による開発でありながら、「まちづくり委員会」を組織し、都市計画・建築・土木・造園・造形・生活文化・植物などの9名の専門家が集まり、議論を積み上げ計画を進めました。質の高い住環境と落ち着いた緑豊かな景観等から、第5回札幌市都市景観賞を受賞しています。では、「四季のまち」を訪ねてみましょう。
 写真8はメインストリートです。上述の街路樹(ハルニレ)及び、歩道のタイル舗装、歩道と家屋の間の緑帯が良い雰囲気を醸し出しています。また、電柱がありません。それらのことから、1戸あたりの大きさが先ほどの「パストラルタウン」より大きめですが圧迫感がありません。カーポートを家と一体化させた上、隣と揃えた場所もあり、統一感があります(写真9)。


写真8 メインストリート


写真9 連続するカーポート

 家の裏手に回ると、散歩道と緑地公園が広がっています。写真10は「春通り緑地」、さくらなどの春に開花する植物が植えられ、5基の彫刻も設置されています。写真11は「秋通り緑地」で広葉樹やススキを植栽、大型木製遊具も設置しています。また、撮影地点は小高い山で、冬にそりで遊べるよう工夫がされています。このように、各住宅から公園を見渡せる配置は、安心して子どもが日没まで遊ぶことが出来て、子どもにとっても嬉しいですね。


写真10 春通り緑地


写真11 秋通り緑地

◆おわりに

 今回は、札幌市近郊の住宅街を3つ取り上げ、その形成背景やまちなみの魅力を紹介しました。北の大地北海道の寒冷多雪気候に合った住環境を模索しながら、良質なまちなみも追求した人々の思いに触れられる旅、皆さんもぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?

◆参考文献

・木原淑行ら(1986)「札幌パストラルタウン美しが丘プロジェクト 清水建設+倉本龍彦 +小室雅伸+圓山彬雄+宮下勇」, 新建築社, 新建築住宅特集 1986-11 (7), pp.104-110.
・足立富士雄(1990)『北の住まいと街並: もうひとつの生活空間』, 北海道大学図書刊行会.
・斎藤浩二(1997)「北海道における住宅地開発 : 札幌市SEIYOしんえい『四季のまち』計画の理念と実際」, 日本デザイン学会, デザイン学研究 特集号(5)1, pp.32-33.

(文責:森岡渉)