人口減少都市・夕張 〜生き残りをかけた住宅団地のまちなみ〜

◆人口減少都市・夕張

北海道夕張市はかつて炭鉱産業で栄えた都市で,1960年の最盛期には人口が10万人を超えていましたが,エネルギー政策の転換により現在は1万人を切るという急激な人口減少に直面しています.夕張市では,地方部にも関わらず集合住宅の団地が多い点が特徴です.かつて炭鉱会社が従業員とその家族に提供していた炭鉱住宅が,現在では市営住宅となり,夕張市の住宅戸数の約半数を占めています.ただし,風呂無しの住戸も多く若い人のニーズにあっていない等の事情もあり,空き家が増加しています.

◆古くからの団地群

夕張市には,平屋建て〜3階建て程度の市営住宅団地が多く存在しています(写真1・2).住棟間隔は広く,一戸当たりの間口も広く,広々とした印象です.積雪が多い地域のため,車は車庫に入っており,煙突があり燃料タンクや雪かきシャベルが準備されています.
建設されてから30?40年が経過しているために老朽化が進んでいる団地も多く,地面も舗装されておらず物寂しい印象も受けます.現在,夕張市の市営住宅は供給過多となっており,空き住戸が50%を超えるような地区も存在します.そのため,効率的な建物利用のために新規入居を停止させ,居住者を集約させている地区もあるとのことです.


写真1:平屋建ての住宅団地


写真2:平屋建ての住宅団地

◆団地集約:真谷地(まやち)地区

 夕張市は,まちの将来像である「安心して幸せに暮らすコンパクトシティゆうばり」の実現に向けて,全国的にも先進的な政策を推進しています.主要幹線道路沿いの拠点地区から離れた団地では,空き住戸の多い住棟を閉鎖し,居住者を特定の住棟に集約することで,効率化に努めています.
拠点地区から離れた真谷地地区では,実際に閉鎖された住棟があります(写真3).集約の実現には,夕張市の置かれている財政状況や費用負担などについて,住民の方の理解が必要となります.市職員だけでなく大学生も関わり,約2年という短期間での交渉の結果,同じ住宅団地内の比較的新しい住棟に集約されました(写真4).閉鎖される住棟にお住まいの方は引越しが必要になるにも関わらず,これまでと同じ地区に住み続けたいという声が大きかったようです.集約先の住棟は3階建てですが,高齢化の進んでいる現在,2階までしか住民は住んでいないとのことです.
集会所(写真5)の裏には共同浴場があります.各住戸には風呂はついていませんが,炭鉱住宅として昔から共同浴場を利用する慣習であったことから,住民同士が顔を合わせる場として今でも続いているそうです.こうした共同浴場は他の住宅団地にもあり,実際に利用されている住民の姿が見られました.高齢化が進む団地において,このような日常的な関わりがあることが,生活の安心につながっているといえそうです.


写真3:真谷地地区の閉鎖された住棟



写真4:真谷地地区の集約先の住棟



写真5:真谷地地区の集会所


◆南清水沢歩(あゆみ)団地

集約先の拠点地区である南清水沢歩団地では,新しい市営団地の建設が進んでおり,古くからの団地の住民や若い家族世帯の入居が進んでいます.平屋建てで住棟間隔も広く,大きな窓で明るい印象を受けます(写真6).庭先では,家庭菜園を行う住戸も見られます(写真7).じっくりとではありますが,新しい夕張市としての歩みが始まっていました.


写真6:南清水沢歩団地



写真7:南清水沢歩団地


◆おわりに

夕張市は戦後まもなく急激な人口減少に直面しましたが,日本の大都市郊外の住宅団地でも,少しずつ人口減少の影響が顕在化してきています.既存のコミュニティを大切にした団地集約の実現等,夕張市の集合住宅団地には今後の人口減少都市のまちづくりに対する多くのヒントがあるように思われます.

◆謝辞

お忙しい中,貴重なヒアリングの機会をいただきました夕張市役所住宅建設課の草野様,笹崎様,夕張市の皆様に感謝申し上げます.

(文責:鈴木,馬場)