三角屋根の低層棟が前川國男の設計です。米軍ハウスを思わせる佇まいです。しかしよく見ると、窓からは障子が見えます。
内部は日本的なのです。
高層棟は公団の設計で、団地ではよく見られる階段室型です。おそらく、高層棟だけでは阿佐ヶ谷団地の魅力は半減したと思います。
低層棟と高層棟が混在することで、おもしろみに富んだ団地が形成されたのだと思います。

(写真4)公団設計の高層棟
日本人の美意識に「色熟れ」というものがあります。色熟れ−「何でもつくられたばかりの時には生々しくて本当の美しさを発揮で
きないが、それが日光や大気にさらされ、人々に使い込まれているうちに自然に古びてしっとりとした味わいが生まれる」この阿佐
ヶ谷団地はまさに「色熟れ」現象が起きている味わい深い団地です。塗り替えられたドアや生い茂った緑、日光にさらされ退色した
赤い屋根。長い年月をかけて人工物が人間の生活と自然に侵食されています。古くて汚い団地に見える人もいるかもしれません。
でも、ここには生活の歴史を感じさせる趣き深い空間が形成されていると私は思います。

(写真5)塗り替えられた玄関のドア

(写真6)緑に覆われた低層棟
残念ながらこちらの阿佐ヶ谷住宅は老朽化に伴い、再開発が決定しています。皆さんもまちなみが変わってしまう前に、
一度訪れてみては如何でしょうか。(文責:平松彩奈)