観光都市小樽の魅力を探る?水辺空間の利用を端緒として?

◆はじめに

小樽市は日本を代表する観光都市である.市町村魅力度ランキングでは,京都市,函館市,札幌市に次ぐ4位(2017年)である.過去の街並み探訪で紹介されたまちの中でも最も魅力度が高い都市の一つともいえるのである.その魅力を探った.


◆観光都市小樽の一番の目玉:小樽運河

観光都市小樽の一番の目玉といえば,小樽運河である.石造りの倉庫を背に水面に映るガス灯は,日没が早く,寒い北国の夜を優しく照らしてくれる.
小樽運河の起源は明治時代にさかのぼる.明治になり蝦夷地を北海道と改めて本府を札幌に定めると,海の玄関口である小樽にヒトやモノが集まるようになった.1880年(明治13年)には北海道内初となる鉄道が手宮 - 札幌間に開通し,小樽港は道内各地への開拓民の上陸や物資陸揚げの港となったのである.1923年(大正12年)には,小樽運河が建設され,艀(はしけ)が倉庫の近くに直接接岸できるようになり,大量の物資を捌けるようになった.小樽運河は,海岸の沖合い埋立て方式で造られているため,一般的な直線ではなく,緩やかに湾曲しているのが特徴である.


◆小樽運河埋め立て論争

 戦後,大型船舶のための埠頭が整備され,運河は使命を終えてしまった.使われなくなった小樽運河の水質は悪化してしまい,町の恥部と言われるまでになった.そこで交通渋滞緩和のため,運河を埋め立てて道路とすることが,倉庫群の解体とともに1973年都市計画決定された.その一方で,同年「小樽運河を守る会」が設立され,小樽運河の埋め立てを巡り10年以上に及ぶ議論が続いた.初めは埋め立て派だった小樽市も,北海道初の景観条例となる「小樽市歴史的建造物及び景観地区保全条例」を制定するなど歩み寄りの姿勢をみせることになる.紆余曲折の末,最終的に運河の幅の半分を埋立てて道路とし,残りはポケットパークの配置や散策路を整備することで議論が決着.1986年に今の運河が完成した.(これらの経緯に関しては田村(2009)『小樽運河ものがたり』が詳しい.)


「水辺空間の活用」は都市計画ではしばしば議論になる.私が視察に訪れたことのある近江八幡市でも,使われなくなって水質の悪化した掘を埋め立てるか否かの議論が過去にはあった.しかし,現在は観光資源や地域の景観の形成,時代劇のロケ地等で有効活用されており,それがまちの魅力になっている.
観光地に存在する水辺の空間では,「汚くなってしまったし,役に立たないから埋め立ててしまおう」という議論は過去に数多くあった.観光で水辺空間に訪れた際には,その歴史と紆余曲折,住民の苦労を知り,今後の観光資源としての利用や水運での利用可能性等まで思いを馳せると,表面的な美しさだけでなく,深みを持った美しさを水辺空間から感じとることができるのではないだろうか.

◆明治・大正・昭和の名残その2:鉄道


小樽運河沿いに北へ1.5kmほど歩くと,小樽市総合博物館がある.この博物館は旧手宮駅の跡地に作られたものである.手宮 - 札幌間は,北海道最初の鉄道「官営幌内鉄道」(後の手宮線・函館本線)が開通した場所であり,これは日本国内の鉄道でも新橋-横浜,京都-大阪に次ぎ3番目に早く作られた鉄道である.当時の北海道の開発にかける期待の大きさがわかり,石炭や海産物の積み出しで賑わったことが偲ばれる.
現在は廃線跡のほとんどが保存されており,踏切や踏切での一時停止の不要を知らせる看板もある.廃線跡のうち,約1.6 km が線路や遮断機などの遺構を残しながら歩きやすく散策路として整備されている.小樽運河を北上して歩いた後,廃線跡に移動して歩いて総合博物館に行くのがオススメのルートである.


◆明治・大正・昭和の名残その3:「北のウォール街」

かつて小樽が明治・大正の近代化による繁栄に沸いたことは,金融業の集積からもわかる.1876年に旧第四十四銀行が小樽支店を構えて以降,大正・昭和初期まで多くの銀行が小樽に造られ,「北のウォール街」と呼ばれるまでに繁栄した.旧北海道銀行本店,旧北海道拓殖銀行小樽支店,日本銀行旧小樽支店,旧三井銀行小樽支店,旧安田銀行小樽支店,と名だたる銀行の本店や支店の名前がずらりと並ぶ.私はもともと小樽に対しては小樽運河のイメージしかなかったため,かつての繁栄ぶりにとても驚かされた.それらの建築が取り壊されることなく残っているのも小樽の特徴であり,今では土産物店やカフェなどに利用されている.

おわりに

 まちを代表する小樽運河をきっかけとして,鉄道,銀行,埋め立ての地形,石造りの倉庫,等から明治・大正・昭和初期の繁栄を垣間見ることのできるのが小樽というまちの魅力である.小樽が市町村魅力度ランキングで上位にくる理由の一端はこんな所にあるのかもしれない.

◆参考文献
・岡本哲志, 日本の港町研究会(2008)『港町の近代―門司・小樽・横浜・函館を読む』学芸出版社
・田村喜子(2009)『小樽運河ものがたり』鹿島出版会
・小樽散策 〜小樽運河歴史の散策路〜 http://www.saboten.sakura.ne.jp/~suzu/ota_unga.htm (2017年11月17日閲覧)
・ブランド総合研究所 (BRI)地域ブランド調査2017 http://tiiki.jp/news/05_research/survey2017 (2017年11月17日閲覧)
・小樽市 :小樽市のあゆみ https://www.city.otaru.lg.jp/sisei_tokei/otaru/profile/ayumi.html (2017年11月17日閲覧)


(文責:M田貴之)