富士市は静岡県東部、富士山南麓に位置する静岡県の自治体である。富士市の人口は約25万人で、浜松市、静岡市に次ぐ第三の人口を有する[1]。富士市のちょうど北側には富士山があり、天気が良ければ市内のどこからでも富士山の絶景を望むことができるそうである。 富士市の産業といえば、製紙パルプ工業が挙げられる。富製紙業に不可欠である水資源の豊富さから、明治初期から製紙業が発展し、現在は全国のトイレットペーパーの生産量の4割は富士市内で生産されるほどの一大産業となっている[2]。今回訪れた富士駅・新富士駅周辺には、日本の製紙業界の中でトップの売上高を誇る王子HDのグループ会社である王子マテリアと、2位の売上高を誇る日本製紙の工場が立地していた[3]。 地域の交通事情としては、市民の70%が日常的に自動車を利用しているようである[4]。しかし、公共交通が不便かというと、決してそうではない。富士市には新幹線の停車駅であるJR新富士駅が立地し、東京駅から新富士駅までの所要時間は1時間強と、東京からのアクセスは良好であるといえる。加えて、新富士駅から約2kmの位置にあるJR富士駅は、地域の公共交通を支える中心的な役割を果たし、製紙業の発展とともに、産業や人口が発達してきた歴史がある[5]。 富士駅と新富士駅。富士市を支えてきた公共交通の拠点であるが、2025年6月から富士駅の北口で再開発事業が進められることが計画されている[6]。今回の記事では、富士駅と新富士駅周辺を探索することで、富士市の現状と今後の展望を考えたい。
図1: 今回探訪した富士駅と新富士駅周辺の地図[7]
今回、東京から富士駅に鉄道を用いて向かうことを計画したのだが、最も早く移動できる方法が、新富士駅まで新幹線を利用し、そこから徒歩で移動するという方法である。新富士駅は新幹線こだま号が停車する鉄道駅で、東京駅から1時間強の移動で到着することができる。新幹線によって静岡県を通過する際には、北側に富士山の絶景を見られることは、新幹線を利用したことがある方ならご存知だろう。新富士駅に降り立つと、その絶景をより十分に堪能することができる。私が今回富士市に訪れた日はあいにく天候に恵まれず、富士山を見ることができなかったが、天候が良い日は富士山がとても美しく見える(図3)。今回の訪問に限らず私は富士市に何度か訪れたことがあるが、訪れる度に富士山の荘厳さに圧倒される。ただし、富士市から見える富士山のそばには、工場群から立ち上る排気ガスがセットで目に映る。先述のように、富士市は製紙工場が数多く立地している。排気ガスの存在は製紙工場がしっかり稼働している様子を示してくれる。富士山の絶景スポットは多くあれど、その排気ガスが上空に立ち上る様子とセットで富士山を拝むことができるのは、富士市ならではと言っても過言ではないだろう。今回私が訪れた際の写真は図4であり、富士山は雲に隠されてその全貌を見ることはできなかったが、排気ガスが様々な場所で上空に立ち上る様子はしっかりと確認することができた。
図2:JR新富士駅の駅舎
図3: 晴れの日に新富士駅北口からみた富士山[8]
図4:新富士駅から北側を臨んだ様子
新富士駅のすぐ北側には新幹線通りという大通りが東西に通っている(図1を参照)。新幹線通りは新富士駅から歩いて200m弱の位置にあるのだが、図5のように車通りが多く、ロードサイドには住宅やオフィスが並んでいた。そこから北の小道に進むと、図6のような閑静な住宅街となる。新幹線の停車駅ということもあってか、新築の住宅も比較的多い印象を受けた。近くを流れている川は下堀川という、富士市を南北に流れる小さな川である。訪れた時間帯が夕刻ということもあってか、人通りを感じられず、少しもの寂しくも感じた。
図5:新幹線通り沿いの様子
図6:新幹線通り沿いから北側の路地の様子
新富士駅から北に約2km歩くと、富士駅に到着する。まず、富士駅の南口側に到着したのだが、このあたりは新富士駅から連続してオフィスビルや住宅街が立ち並んでいた。図7は、富士駅の南側を通る富士停車場線の様子であるが、住宅やオフィスがシャッターを閉めている様子が伺える。
図7:富士停車場線の街並み
一方、富士駅北口は南口とは少し様子が異なっていた。図8は富士駅北口の駅舎の様子であるが、北口にはペデストリアンデッキが設置されており、立体的な設計となっている。ペデストリアンデッキから富士駅の北側を眺めると、図9のような光景が広がっている。建物自体は老朽化しているものの、アーケード街が北側に伸びており、何とも味のある光景であった。富士駅北口は、製紙業の発展とともに人口が増加し栄えた地域であるそうだ[5]。現在の街並みからは、かつてたくさんの市民に愛された歓楽街であったのだろうと推察される。
図8: JR富士駅北口の駅舎
図9:ペデストリアンデッキから富士駅北口を臨む
図9の写真の左手側、北西方向に進むと、図10のような光景が広がっている。住宅も何軒か存在するが、歓楽街の裏路地のような街並みとなっている。全体的に建物がとても老朽化しており、人通りもほとんどない印象であった。
図10:富士駅から北西部の路地の様子
このように、全体的に建物が老朽化している富士駅北口であるが、現在、再開発事業が計画されている。駅前広場の整備事業と合わせて、2029年には図11のように北口がリニューアルされる計画が立てられており、老朽化した建物を一新し新たな賑わいがもたらされることが期待されている [6]。私が訪れた際には、再開発前に富士駅前の最後の瞬間を共有しようと、「エキキタまちおくり」というセレモニーが行われていた。ここでは、解体が始まるビル群を舞台に、富士駅の歴史を振り返ったり、新たに生まれ変わる富士駅に思いを馳せることを目的に行われたセレモニーであった。当日は解体ショーや、昔と今の富士駅周辺の地図を比べながら昔の様子を思い返すといった、さまざまなコンテンツが行われており、図12のようにたくさんの市民の方々が参加していた。
図11:JR富士駅北口のリニューアル後の計画[6]
図12: 解体ショーを見に多くの市民が集まる様子
富士駅から少し東に歩くと、製紙工場群が見える。図13は王子ホールディングスの子会社である王子マテリアの工場の様子である。新富士駅から排気ガスが排出される様子が見えたが、近くに来てみると結構な量の排気ガスが排出されていることに驚いた。王子マテリアに限らず、富士駅周辺はこうした工場が住宅の近くなどに多く立地しており、こうした風景が日常に溶け込んでいることに、富士市の独自の街並みを感じる。図14は、富士駅東側にある貨物コンテナの様子である。富士駅の駅舎から500mほど東にコンテナが広がっており、たくさんのコンテナが積まれていた。富士駅から東側に富士駅は貨物列車の運行も行っており、富士市で生産された紙を全国に届ける役割を果たしているそうである。富士駅を降りてすぐ東側から工場を中心とする風景が広がっている場所は、日本においても珍しいのではないだろうか。
図13:王子マテリアの工場
図14:富士駅東側の貨物コンテナの様子
今回の探訪では、富士駅と新富士駅周辺を中心に、富士市を探索した。富士駅東側に数多く立地し富士市を支えてきた製紙工場群と、その工場群に支えられて発展してきた富士駅北口、さらに新幹線の開通によって生まれた新たな交通拠点である新富士駅という、様々な歴史や地域事情を感じられる探訪であった。 現在富士駅前で再開発が進められているように、今回訪れた富士市は転換期を迎えていると感じた。かつて富士市の一大産業である製紙パルプ業も、現在デジタル化の影響により紙需要が落ち込んでおり、今後の動向に注視する必要がある[2]。また、富士市も現在人口減少が進んでおり、富士駅周辺に限らず市全体での財政難に見舞われる可能性もある[4]。 今回新富士駅から富士駅まで30分ほど移動したが、新富士駅から富士駅までのアクセスの改善が行われれば、より市内の経済活動が豊かになる可能性があるのではないかと考えた。東京から1時間程度の移動で訪問可能な新富士駅と、富士市の中心地でもある富士駅のアクセスがより良好になれば、移住者や二拠点居住者の増加も期待できるかもしれない。 富士市は、富士山と製紙業という独自の自然環境や産業を持ち、それが街並みに現れていた。現在進行中の再開発事業の動向を注視しながら、今後の富士市の展望に期待したい。
(文責・写真撮影:橋本侑京)