このような美瑛町独自の景観は、平成元年(1989年)に始まった土地区画整理事業を契機に形成されてきました。昭和後期まで、美瑛町の観光業は市街地から離れた白金温泉を中心に発展していました。しかし、農業景観がテレビCMなどで注目を集めるようになり、観光客数は年々増加していきました。周辺地区の富良野のリゾート開発とともに観光振興が進められる中、移住者や観光客の増加により無秩序な開発が進むことが懸念され、住民を中心に景観保全の動きが活発化しました。土地区画整理事業では、等辺切妻の三角屋根や、美瑛軟石の積極的な活用を推進し、景観の統一が図られました。また、街路樹の整備や電柱の地下化など、環境面でも質の高い景観づくりが進められました。
平成27年(2015年)には「美瑛の美しい景観を守り育てる条例」が施行され、本通りは「本通景観育成区域」に指定されています(図3)。これらの取り組みは、住民主体で進められてきたものであり、現在ではどこかヨーロッパの街を思わせるような、メルヘンチックな街並みが形成されています。
図3:景観育成区域(参照:北海道美瑛町「美瑛町景観計画2」)
本通りのほかに、美瑛町のメインストリートといえるのが「丸山通り」です。丸山通りは美瑛駅から十勝岳に向かって伸びる街路で、本通りと同様に景観育成区域に指定されています。本通りのように土地区画整理事業は行われておらず、三角屋根の建物は少ないですが、電線の地下化や景観に配慮した舗装の整備が進められており、天気が良ければ駅から出てすぐに十勝岳の雄大な姿を望むことができます。
近年建てられた建物でも、本通りと同様のデザインが取り入れられている例が見られます。写真6は、本通りから少し離れた美瑛駅の裏手に位置する住宅で、「2024」の数字が刻まれています。このように、本通りだけでなく、美瑛町全体で統一感のある街並みを形成しようとする姿勢が感じられます。
もともと、これらの取り組みは観光客の増加に対応し、自然と調和した街並みを整えることを目的として始まりました。しかし、20年以上にわたる継続的な活動の結果、現在ではこの統一感ある景観が観光客を惹きつける要素の一つとなっています。
写真6:駅の裏手に位置する住宅 2024の文字が刻まれる
◆地元の素材・美瑛軟石を生かした建築
美瑛町のまちなみの統一感を形成する要素として、建物に使われる素材があります。美瑛町や中心市街地の公共施設の外壁には、「美瑛軟石」と呼ばれる白っぽい色の石が使用されています。
市街地の中心に位置する美瑛駅(写真7)は、昭和27年に美瑛軟石を用いた石造りの建物として建築されました。昭和63年に一部改修され、現在では美瑛町の観光の玄関口として、魅力的な建物となっています。
写真8は、美瑛駅近くに位置する道の駅「丘のくら」です。この建物は、昭和6年に建てられた農業用倉庫を物産館として改修したもので、施設内ではご当地のお土産や食料品が販売されています。
写真9は、近年開館した複合施設「丘のまち交流館 bi.yell(ビ・エール)」です。この施設は、美瑛町の中心地にあった古い建物をリノベーションして、地域のための複合商業施設として整備されました。館内にはギャラリーや図書コーナー、子ども用遊びスペース、カフェがあり、町民や観光客が気軽に利用し、交流できる場となっています。
このほかにも、本通りをはじめとする中心市街地では、美瑛軟石を用いた建物が数多く見られ、美しい景観を形成しています。地元の素材を生かした景観づくりは、美瑛町のまちなみの魅力の一つです。
写真7:美瑛駅
写真8:道の駅「丘のくら」