サンフランシスコ スタートアップを輩出する都市

はじめに
サンフランシスコは、シリコンバレーを擁する世界的なテクノロジーハブとして知られ、多くの革新的なスタートアップを生み出してきました。テクノロジー企業の集積地としての側面だけでなく、都市計画、観光、ライフスタイルのあり方においても、独自の発展を遂げています。本レポートでは、サンフランシスコのスタートアップ文化の背景にある都市の特徴や、GoogleやAppleの取り組み、都市計画との関連性について考察します。

写真:Google サンフランシスコ本社近くのオープンパークの様子

1 スタートアップ文化と都市の関係
1.1 ベンチャーキャピタルと起業エコシステムによる背景
サンフランシスコは、世界でも有数のベンチャーキャピタルが集中するエリアであり、スタートアップ企業の成長を支えています。特にSoMa(South of Market)地区は、起業家や投資家が集うコワーキングスペース、インキュベーター、テックイベントが活発に開催されるエリアとして知られています。著名なスタートアップ企業:Airbnb、Uber、Twitter(現X)などの企業がこの地から生まれました。世界的な投資ファンドが拠点を構え、次世代のユニコーン企業の成長を支えています。

1.2 Googleの都市設計:スマートシティへの挑戦
Googleは、サンフランシスコ近郊で未来型の街づくりを試みており、特に「ウォーカブルな都市設計」と「テクノロジーを活用したライフスタイルの提案」に注力しています。無料の自転車提供をしており、Googleの社屋があるマウンテンビューでは、社員だけでなく、地域住民向けにも無料の自転車が提供され、車に依存しないライフスタイルを促進しています。スマートシティ構想も掲げており、Alphabetの都市開発部門「Sidewalk Labs」は、IoT(モノのインターネット)を活用した街づくりを進め、エネルギー消費の最適化、交通の効率化を実現しています。この取り組みは、都市計画とテクノロジーが融合し、未来の「持続可能な都市モデル」を創り出す試みとして注目されています。

写真:Google サンフランシスコ近くの様子

Appleの観光革新:ARデバイスによる新たな体験
Appleは、サンフランシスコを訪れる観光客向けに、本社(Apple Park)での様子をリアルタイムで体験できるARデバイスを提供しており、観光の在り方そのものを変えようとしています。リアルタイムのバーチャルツアーを提供しており、Apple Parkの内部やイベントの様子を、ビジターセンターから体験可能です。新たな観光モデルの提案がなされており、実際にその場に行かなくても、都市や企業の魅力を体感できる新しい観光スタイルが生まれつつある。このように、サンフランシスコのテック企業は、単なるビジネス拠点を超えて、都市全体の観光体験を再構築する役割を果たしていると考えます。

写真:Apple本社近くのビジターセンターの様子

2 都市計画と地理的特性
2.1 沿岸部の観光開発
サンフランシスコは、ウォーターフロントエリアの開発が進められており、観光地としての魅力向上が図られています。フィッシャーマンズワーフは、歴史的な漁港が観光地化され、シーフードレストランや商業施設が集積しています。また、エンバカデロ地区ではベイブリッジを望むウォーターフロントエリアで、再開発によりホテルやショッピングモールが誕生し、賑わいを見せています。特に、公共交通機関(BARTやケーブルカー)との連携により、アクセスの良さが維持され、環境負荷の低減にも寄与しています。

2.2 山間部の居住環境
サンフランシスコの市街地は急峻な丘陵地に広がっており、山間部に住む人々のライフスタイルも都市計画の一環として考慮されています。また、ウォーカブルな都市設計がなされており、車社会のアメリカにおいて、徒歩や公共交通を重視する都市計画が進められています。特に沿岸部においては、観光の方法として自転車や徒歩なども充実しており、日本とは異なる観光手段が提案されていました。このように、サンフランシスコは地理的特性を活かし、都市のさまざまなエリアごとに異なる開発が進められています。

3 都市計画と問題解決
サンフランシスコでは、持続可能で利便性の高い都市づくりを目指し、複数の都市計画プロジェクトが進行しています。2018年に開業したトランスベイ・トランジット・センターは、大規模な交通ハブとしてバスや鉄道を統合し、屋上には公園「セールスフォース・パーク」を設置することで都市の緑化を推進しています。また、ミッション・ベイ地区では、旧工業地帯を再開発し、UberやDropboxなどのテック企業のオフィスや住宅を整備するとともに、低所得者向け住宅を一定割合確保し、ジェントリフィケーション対策を講じています。

考察
サンフランシスコの都市開発は、テクノロジーと都市計画が交錯する革新的な実験場であると同時に、今後の都市発展における多くの示唆を含んでいると考えられます。

1. 公共性と民間主導の調和
サンフランシスコでは、Googleの「Sidewalk Labs」によるスマートシティ構想や、AppleのAR技術を活用した観光体験の変革が進んでいるが、こうした企業主導の都市開発は、公的ガバナンスとの調整が求められます。スマートシティの発展は都市の効率性向上に寄与する一方で、公共の利益よりも企業の利益が優先される可能性があると考えられます。実際に、サンフランシスコの都市開発では、企業主導のインフラ整備が進んでいますが、それが格差の拡大につながるとの懸念もあります。例えば、Googleの無料シャトルバス(Google Bus)が一般市民向け公共交通機関と競合し、地価上昇を引き起こしたことが問題視されました。このように、テクノロジー企業の都市への関与が進む中で、公共性の確保と民間投資のバランスをどのように取るかが今後の課題となると感じました。同様に、フィッシャーマンズワーフの観光再開発では、観光優先の開発が、地域のアイデンティティを損なう可能性があり、伝統的な漁業文化の維持が課題となります。また、サンフランシスコではテック企業の集積が進む一方で、住宅価格の高騰や低所得者層の流出が問題となっています。特にミッション地区では、地価高騰によって長年住んでいた住民が退去を余儀なくされる問題が進行しています。
こうした影響を抑えるために、上の「3. 都市計画と問題解決」でも述べたように、都市政策として、企業だけの利便性追求ではなく、様々な階層の人が公平に利用できることを目的とする計画が実現されています。企業の発展とともに進む開発による負の影響を最小限に抑えつつ、地域の文化や社会的ネットワークを維持することを目指しています。

2. 規制の柔軟性とリスクマネジメント
テクノロジーを活用した都市運営は、サイバーセキュリティやデータプライバシーといった新たな課題を伴います。スマートシティ化による大量の都市データ収集が「監視社会」につながる可能性は無視することができない。実際にGoogleのSidewalk Labsがトロントで進めたスマートシティ計画は、市民のプライバシー保護の懸念から頓挫しました。サンフランシスコでも、顔認識技術を利用した都市監視システムが一部導入されましたが、市民団体からの反発を受けて撤回された事例があります。このように、都市開発の規制緩和が進む一方で、新たなリスクに対応するための政策整備が求められます。
サンフランシスコで、どのようにプライバシーを保護し、市民に納得・安心してもらえるセキュリティを構築しつつ、スマートシティを実現していくかは、非常に興味深く、新たな都市開発モデルを確立することにつながると考えられます。

おわりに
サンフランシスコは、単なるスタートアップ都市ではなく、都市そのものをテクノロジーによって進化させる実験場となっています。Googleのスマートシティ構想やAppleのAR観光体験など、企業が都市のあり方を変革しようとしているのが特徴的です。さらに、沿岸部の観光開発と山間部の居住環境を両立させ、「ウォーカブルな都市設計」を推進するなど、持続可能な都市モデルへの転換も進行中です。サンフランシスコの都市開発は、テクノロジーの力で新たな都市モデルを構築する可能性を示唆すると同時に、公共性、文化的持続性、リスク管理といった多面的な課題への対応が求められます。これらの取り組みは、今後の都市開発の方向性を示唆するものであり、他の都市にも影響を与えていく可能性があると考えられます。

写真:Google サンフランシスコ本社近くのオープンパークの様子


文責:藤本秦平

参考文献
1. Conger, K., Fausset, R., & Kovaleski, S. F., San Francisco Bans Facial Recognition Technology. The New York Times, 2019 (URL: https://www.nytimes.com/2019/05/14/us/facial-recognition-ban-san-francisco.html)
2. 八山 幸司, 米国におけるスマートシティに関する取り組みの現状, 2015 (URL: https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/bbaea2a997300b76/reportsNY_201510.pdf)
3. 日本貿易振興機構(JETRO), ニューヨークレポート 2015年10月, 2015 (URL: https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/bbaea2a997300b76/reportsNY_201510.pdf)