伝統的建造物と農、自然のまち ―高知県安芸郡奈半利町―


 奈半利町は、高知県東部に位置する自治体である。人口は2025年12月の住民基本台帳によると2775人であり、人口規模としてはかなり小さな自治体だ[1]。今回奈半利町を訪れた理由は、奈半利町に残存する伝統的な建造物を見に行くためであった。しかし、奈半利町を訪問してみると、伝統的な建造物群以外にも、海や川などの自然や、農と共生した暮らしを感じることができた。今回は、奈半利町にある奈半利駅に車を停め、その周辺を1時間程度散策したので、その様子を紹介したい。

図1:今回散策した奈半利駅周辺の地図(OpenStreetMapより引用)


 奈半利駅は、土佐くろしお鉄道の鉄道路線である阿佐線、通称「ごめん・なはり線」の終着駅である。高知駅から60kmほど離れており、鉄道で移動した場合は約1時間半、車で移動した場合は約1時間で到着するため、車で移動する方が現実的であろう[2]。図2にあるように、奈半利駅の駅舎はとても小さく、周辺の大きな商業施設は道の駅とスーパーのみである。駅舎のすぐ近くには、アンパンマンの作者であるやなせたかし氏がデザインを手がけたキャラクター「なはりこちゃん」の像が建てられていた(図3)。ごめん・なはり線に存在する21駅には、やなせたかし市がデザインしたキャラクターが1体ずつ存在しており、個性豊かなキャラクターばかりなので、皆さんも一度ぜひ見てみてほしい(例えば文献[3])。

図2:奈半利駅の様子



図3:奈半利駅のキャラクター像


 奈半利駅から東側に行くと、奈半利町唯一の小学校である奈半利小学校が見えた(図4)。訪れた日が9月の上旬と夏休み期間だったからか、児童の姿は見えなかったが、校庭の広い立派な小学校であった。奈半利小学校にはかつて、奈半利駅から8km強離れた箇所に米ヶ岡分校という分校があり、その他にも奈半利町には加領郷小学校という小学校が存在したが、どちらも1995年と2020年に閉校となっている[4][5][6]。そのため、奈半利小学校のこの校舎は、奈半利小学校に存在する唯一の小学校校舎となっている。

図4:奈半利小学校


 そこから東側に行くとすぐに、お目当ての土佐漆喰の建造物が見えた(図5・図6)。奈半利小学校から歩いてすぐにこうした建造物があり、日常の生活圏に伝統的な街並みが溶け込んでいる様子に驚いた。奈半利駅周辺には国指定の重要文化財がいくつか存在しているようで、伝統的な街並みを形成していた[7]。それらの建造物を形成する特徴の1つが土佐漆喰である。土佐漆喰は江戸時代に高知県で誕生した比較的歴史の浅い漆喰で、台風など降水量の多い高知県の気候に対応して耐久性が高いという特徴がある。使用する素材の関係で若干色が黄色いのが特徴で、特徴的な漆喰によって形作られた建造物が、奈半利町の良好な街並みを形成しているのが体感できた[8]。

図5:伝統的な建造物①



図6:伝統的な建造物②


 伝統的な街並みを横目に南の方向に歩くと、太陽に照らされた太平洋が眼前に広がった。何隻か船も波止場に付けられていた(図7)。古くからこの地に存在する奈半利港である。図8は奈半利港を上空から撮影した様子であるが、奈半利港はコの字型で囲われているような形状をしている。台風などによって荒れやすい太平洋から守り、静穏な水域を確保する目的でこのような形になっているそうだ。隣接する海岸ではサンゴも見られるようである[9]。

図7:奈半利港の様子



図8:奈半利港の上空からの様子(文献[9]より引用)


 奈半利港から再度来た道を戻り、国道55号を越えるまで北上すると(図1を参照)、住宅地であった。このエリアでは、住宅地の隙間に小さな田や畑が入り込んでいた(図9・図10)。奈半利町では、大規模に広がる農地を複数の農家の方が管理するのではなく、各々が住宅に隣接する農地を管理しているのだろうか。生活と農がより密接している様子を感じ取ることができた。
 奈半利町では、農業経営基盤強化促進法に基づく地域計画が定められており、各農家に対して、現状の経営面積に基づく将来の目標値が設定されている[10]。地域計画によると、今後はこの地域の主要な農産物であるナスやピーマンなどの施設園芸、水稲を中心に農地を維持しつつ、ビニールハウスを使わない露地野菜の栽培も推進していくこと、今後の担い手不足に対応するために新規の就農者を確保し、同時に農地の集約化を進めていく方針であるそうだ。個人的には、現状の農地が点在している現状の奈半利町の風景に愛着があるのだが、今後の農業従事者不足に対応する形で、こうした風景が今後どのような変遷を辿るのか、注目したい。

図9:住宅地に入り込む田



図10:住宅地に入り込む畑


 少し西側に移動すると、太陽に照らされた光り輝く奈半利川が眼前に広がっていた。高知県東部の馬路村の水源から流路61kmを経て、太平洋に注いでいる大河である。上流側は釣りの名所としても知られているスポットがいくつか存在するようである。今回訪れた場所は奈半利町の河口の部分であり、川幅も広く、流れはゆったりとしていた。上流側に目を向けると、四国山地の山々から流れている様子が見て撮れた[11]。太平洋に続く下流側には、橋がかけられていた(図12)。この橋は、先述したごめん・なはり線の鉄道が通る橋であり、奈半利駅から高知県の中心部の西側(写真の右側)に向けて鉄道が移動している。奈半利側の美しさに圧倒されていると、ごめん・なはり線が橋の上を通過する様子を見ることができた(図13)。気づけば1時間ほど散策を行なっており、もう少し奈半利町の雰囲気を感じたい気持ちであったが、猛暑日ということもあり、この日は奈半利川を最後に、奈半利町を後にした。

図11:奈半利川(上流側)



図12:奈半利川(下流側)



図13:ごめん・なはり線の鉄道が通る様子


 今回は、高知県の東部にある小さな自治体である奈半利町を訪れた。当初は伝統的建造物を見にいく予定だったが、気候に対処した形の港や住宅地の隙間に点在する農地、四国山地から流れる奈半利川など、奈半利町の自然やそれと共生した暮らしを感じることができた。次回高知県に行く機会があれば、再度訪れてみたい。
(※)一部の距離・移動時間の計算には、Google mapを使用しています。

(文責・写真:橋本侑京)

◆参考文献
[1]奈半利町「住民基本台帳人口」(https://www.town.nahari.kochi.jp/life/dtl.php?hdnKey=1017) (2026-02-25閲覧)
[2]ゴトゴトWeb「ごめん・なはり線 時刻表・運賃表検索」(https://gomen-nahari.com/tf_search/) (2026-02-25閲覧)
[3]ゴトゴトWeb「ごめん・なはり線オリジナルキャラクター」(https://gomen-nahari.com/character.php) (2026-02-25閲覧)
[4]こうち旅ネット 高知県公式観光Webサイト「米ヶ岡生活体験学校」(https://kochi-tabi.jp/search_spot_event.html?id=1341) (2026-02-25閲覧)
[5]奈半利町「加領郷小学校閉校跡施設の公共施設等運営事業を実施する事業者の選定(公募型プロポーザル)について」(https://www.town.nahari.kochi.jp/life/dtl.php?hdnKey=1574) (2026-02-25閲覧)
[6]奈半利町ホームページ(https://www.town.nahari.kochi.jp/life/dtl.php?hdnKey=1574) (2026-02-25閲覧)
[7]文化遺産オンライン「高知県安芸郡奈半利町」(https://bunka.nii.ac.jp/heritages/region/39/39302) (2026-02-25閲覧)
[8]田中石灰工業オンラインストア「「土佐しっくい」について」(https://www.tanacream.com/shikkui/tosasikkui.php) (2026-02-25閲覧)
[9]一般社団法人日本埋立浚渫協会「PORT REPORT 新みなとまち紀行 奈半利港 みなとまちの活気は、海から生まれる。新たに発見されたサンゴの港。(高知県)」(https://www.umeshunkyo.or.jp/marinevoice21/portreport/254/index.html) (2026-02-25閲覧)
[10]奈半利町「地域計画の公表について」(https://www.town.nahari.kochi.jp/life/dtl.php?hdnKey=1506) (2026-02-25閲覧)
[11]奈半利川淡水漁業協同組合「奈半利川とは」(https://www.naharigawa.jp/cat_naharigawa/) (2026-02-25閲覧)