メルボルンの都市景観:伝統と革新が織りなすまちなみ

◆はじめに
 メルボルンはオーストラリア南東部に位置し、都市圏人口約500万人を有するヴィクトリア州の都市です。その歴史は19世紀半ばのゴールドラッシュに端を発し、金鉱の発見によって多くの移民が流入したことで急速に発展しました。一時はオーストラリアの首都として機能したこともあり、現在もシドニーと並ぶ南半球最大級の都市として名を連ねています。学術都市としても知られるメルボルンは、国際的な移民を多く受け入れています。経済成長と人口増加により、2022年時点で2031年から2032年にはシドニーの人口を追い越し同国内最大の都市になると予測されましたが、実際には2023年に市の境界が変更されたことで、予想よりも早く同国内最大の都市となりました。
 この街の中心地である中心業務地区(CBD)は、ヤラ川沿いに高層ビルが密集しており、コンパクトな範囲に多くの商業施設や文化的なランドマークが集まっています。一方で、郊外に向かうと低密度の住宅地が広がっています。
 メルボルンはその発展の過程で、移民の多様性と経済成長が融合した独特の都市景観を形成してきました。その街並みは、伝統と革新が調和した姿を象徴しており、訪れる人々に多彩な魅力を提供しています。本稿ではそんなメルボルンの街並みについて紹介します。

写真1 展望台からのメルボルン中心地の様子

◆中心業務地区の建築物が織りなす新旧混合のまちなみ
 メルボルンの街に降り立つと、まず目に飛び込んでくるのは、その個性的な高層ビル群です。メルボルン空港からスカイバスに乗り、サザンクロス駅に到着して外に出ると、中層部分のくびれが特徴的なプレミアタワー(写真2)が迎えてくれます。高さ294mのビルが曇り空にそびえ立ち、その頂上は霞んで見えません。

写真2 プレミアタワー

 メルボルンの中心業務地区(CBD)は、基本的に容積率が1800%に設定されており、日本と同様に公共貢献に応じて追加の容積率が与えられます。一方で、特定の地域を除いて高さ規制が設けられていないため、CBD内には多くの超高層ビルが林立しています。図1は中心業務地区周辺の建物高さの図です。多くの建物が100m超の高層建築物であることが分かります。
 高層ビルが集まる都市景観は他の都市でも見られますが、大きな違いとして感じたのは、その建築デザインの多様性です。市街地のすぐ側を通るヤラ川の対岸からCBDを眺めると、一つ一つの建物が異なるデザインをしていることが分かります(写真3)。パリのような統一感はないものの、単調なオフィスビルは少なく、まるで建築の博覧会のように多彩なデザインが共存しています。図2に示すように、メルボルンの市街地には19世紀から21世紀まで、様々な年代に建てられた建物が混在しています。

図1 メルボルン中心業務地区の建物高さ
(参照:メルボルン市, Building Footprintsデータ, 2020年)

写真3 ヤラ川沿いの建物群

図2 メルボルン中心業務地区の建物の建設年
(参照:メルボルン市, Building Footprintsデータ, 2020年)

 この多様性をさらに際立たせているのが、西欧の建築様式に倣ってヴィクトリア朝期(1837~1901年)前後に建てられた歴史的建造物群です。例えば、CBDの南端には、1854年に開業し、1909年にルネサンス様式の駅舎として現在の姿となったフリンダース・ストリート駅(写真4)があります。交差点を挟んでその斜向かいには、1891年に完成したゴシック様式のセントポール大聖堂(写真5)が位置し、街並みに独特のコントラストを生み出しています。

写真4 フリンダース・ストリート駅

写真5 セントポール大聖堂

 一方で、この一角には、現代的デザインのオーストラリア映像博物館(ACMI、写真6左手前)がフリンダース・ストリート駅(写真6奥)と並んで位置し、歴史的建造物と現代建築がシンボリックに共存しています。

写真6 オーストラリア映像博物館(左手前)とフリンダース・ストリート駅(奥)

 聖ミカエル合同教会(写真7)やヴィクトリア州立図書館(写真8)も、ヴィクトリア朝期に建てられた歴史的建造物であり、周囲をビルに囲まれながらも、ゆとりのある空間を提供しています。

写真7 聖ミカエル合同教会

写真8 ヴィクトリア州立図書館

◆歴史的建造物の活用
 歴史的建造物を保存しながら再開発を行った例も見られます。2005年に建設された高さ165mのアーネスト・アンド・ヤング・タワーは、1921年に竣工したヘラルド・アンド・ウィークリー・タイムズビルの上に建てられています(写真9)。これは、歴史的建造物の保存と高層化を両立させる手法の一例であり、1931年に竣工した旧東京中央郵便局舎の躯体を保存しつつ高層化し、2012年に開業した日本のJPタワーとも共通する手法です。
 一方で、旧中央郵便局の建物には、建物の外観そのままにH&Mが入っています(写真10)。伝統的建造物に現代的な店舗を構えている姿は、パリなど西欧諸国でもよく見られる活用法です。

写真9 アーネスト・アンド・ヤング・タワー

写真10 旧中央郵便局の建物に店舗を構えるH&M

 一見すると、こうした異なる時代の建築が混在することで、都市景観に統一感が失われるのではないかとも思えます。しかし、実際のメルボルンの景観は整然としており、美しさを保っています。その要因の一つは、建物のファサードの幅が比較的広く、街路沿いに一定のラインが揃っていることだと考えられます。高さこそ様々ですが、一定規模以上の建物が連続し、壁面線が揃っていることで、街並みに秩序が生まれています。

写真11 セントポール大聖堂周辺の街並み

◆おわりに
 メルボルンの街並みは、過去と現在が融合し、多様な建築様式が共存する独自の景観を生み出しています。超高層ビルが立ち並ぶCBDは、経済成長の象徴であると同時に、個性的なデザインが集積することで、単なるビジネス街にはとどまらない都市の魅力を形成しています。
 今後、人口増加や経済の発展に伴い、メルボルンの都市景観はさらに変化していくことが予想されます。その中で、建築の多様性や都市の秩序がどのように維持され、発展していくのかに注目することで、都市の魅力をより深く理解することができるかもしれません。


(文責・写真:衣笠匠斗・宮岸凌也)

◆参考文献(2025年2月20日参照)
・CNN:「最大都市」はメルボルンに、人口比でシドニー抜く 豪 https://www.cnn.co.jp/world/35202751.html (2025年2月20日参照)
・Victoria State Government: Central city planning provisions https://www.planning.vic.gov.au/guides-and-resources/guides/all-guides/central-city-planning-provisions (2025年2月20日参照)
・Trust Advocate: Bourke Hill/Parliamentary Precinct heritage & height controls https://www.trustadvocate.org.au/bourke-hillparliamentary-precinct-heritage-height-controls (2025年2月20日参照)
・City of Melbourne: OPEN DATA (2024年12月3日参照) https://data.melbourne.vic.gov.au/explore/dataset/2020-building-footprints/information/
・The Australian National Construction Review: Herald & Weekly Times https://ancr.com.au/Herald_Weekly_Times.pdf
・Cbus property: Herald Living https://cbusproperty.com.au/property/herald-living-8-exhibition-street/ (2025年2月20日参照) ・Denton Corker Marshall: Ernst + Young Building https://dentoncorkermarshall.com/projects/ernst-young-building/  (2025年2月20日参照)
・Wikipedia: General Post Office, Melbourne https://en.wikipedia.org/wiki/General_Post_Office,_Melbourne  (2025年2月20日参照)