考察1:地形的な表現を含む、地名と地形の関係について

このページの目次

はじめに・・・
それぞれの地名は、どこに、どれくらい存在するのか?
地形と地名の関係性について考察する
「台」・「丘」・「山」の存在する地形の高さに特徴はあるのか?

◆はじめに・・・

 このページでは、今回の調査対象である「台・丘」が含まれる鉄道駅が立地するであろう地域の地名と、それに加えて、同様に地形的な要素を地名に含んでいる地域の地名について着目してみたいと思います。具体的には、以下の3グループの地名に着目します。

 1)「台・丘・山」を地名に含む地域

 2)「沢・谷」を地名に含む地域

 3)「坂」を地名に含む地域


そして、これらの地名を持つ地域が、東京23区においてどのような位置関係あるのかについて考えてみたいと思います。
 まず、「山」を地名に含む地域を考えるのは、今回の調査対象の「台・丘」を地名に含む地域と同じく、比較的高い位置にある事を表す言葉であり、それらと対になると考えられる、「沢・谷」との位置関係をよりとらえやすいという推測によるものです。
 さらに、「坂」を地名に含む地域を考えるのは、「台・丘」と「沢・谷」の間には地形的に「坂」があるので、それが地名にも少なからず反映されるのでは、という推測から来ています。
 また、ここで駅名ではなく、地域名を対象としたのは、駅よりも地域の方がより面的な広がりを持つため、互いの隣接関係がよくわかる、と考えたためです。

 

◆それぞれの地名は、どこに、どれくらい存在する?

 さて、東京23区に存在する、同名の町丁目群を一つの地域とします(例:本郷1~7丁目:本郷地域)。
 すると、東京23区では、「台・丘・山」を地名に含む地域が74、「沢・谷」を地名に含む地域が60、「坂」を地名に含む地域が10存在していました。 以下の図は、地名に、それぞれ「台・丘・山」を含むもの、「沢・谷」を含むもの、「坂」を含むもの、の分布を地図に表現したものです。


図1:各地名のグループと
その分布の関係
(クリックで拡大します)

 これを見ると、「台・丘・山」グループどうしの隣接や、それらのグループに属する地域と「沢・谷」グループどうしに属する地域との隣接が、多く見られる事がわかります。
 ここで、同グループのものが隣接して、連なりあっているものを「連担地区」と呼び、連続した一つの地域とした数え方に改めます。すると、東京23区は、「台・丘・山」を含む地域が47、「沢・谷」を含む地域が39、「坂」を含む地域が7つとなります。
 これらのうちで異なる地名グループとの隣接関係を数えてみますと、「台・丘・山」グループは、「沢・谷」と隣接している地域が、20 / 47と約4割でした。中でも特に、「台・丘・山」グループには連担地区が全部で13ありましたが、その全てが「沢・谷」グループの地域と隣接していました。高い地形を意識した地名が連なる場所は、より高台などの広がりや周囲の高低差などを意識した地名になっているのかもしれません。
 また、「坂」を地名に含むグループと他のグループの位置関係では、7地域中、「台・丘・山」グループだけとの隣接が1地域、「谷・沢」グループだけとの隣接が2地域、両グループと同時に隣接が3地域となっていました。今回扱った対象だけからでは、該当する地域の数がそう多くないので明確に断定する事はできませんが、「坂」を地名に含む地域は、「台・丘・山グループと、「沢・谷」グループの両方の間に存在するものが約半分を占めており、各々のグループ間の高低差がまさに変化している部分に由来して地名がつけられていると考える事ができるのではないでしょうか。

 

◆地形と地名の関係性について考察する

 先ほどの図から、東京23区における分布を考えると、「台・丘・山」を地名に含むグループは、東京23区の東側には、あまり存在しておらず、そこでは、「沢・谷」を地名に含むグループが孤立して分布しているように見えます。これは、東京23区の地形と重ねてみると、その理由が考えるとよくわかります(図2)。



図2:それぞれのグループと、平均標高の分布の関係
(クリックで拡大します)

 東京は西側の平均標高が高く、東側に向かうにつれて低くなっていきます。「台・丘・山」を地名に含むものが西側に集中しているのは、この東京の地形上の特徴に理由があると考えられます。
 さらに、この図からもう一つ気になる点があります。それは、「台・丘・山」グループの地名は、東京23区の東側の様に、平均標高の高い部分に集中している反面、「沢・谷」グループの地名は、標高の比較的低い場所だけでなく、「台・丘・山」グループが立地するような、標高の高い所にも存在している事です。
 ここから考えられるのは、『「沢・谷」は、絶対的に標高が低くなくとも、「台・丘・山」のつく地名が存在しているような地域との相対的な高低差が地名に反映される事がある』、という事です。(図3)。辞典によれば、「沢」は「山あいの比較的小さい渓谷、浅く水がたまり、草が生えている湿地」、「谷」は、「地表にできた狭くて細長いくぼ地」というように、必ずしも、低いことが絶対条件にはなっていません。






















図3:イメージ図


◆「台」・「丘」・「山」を地名に含む地域が、存在する地形の高さに特徴はあるのか?

 さて、今回、調査対象として挙げられるような、「台・丘・山」を地名に含む地域は、ある程度の標高を持つ場所に存在するという事が推測されましたが、「台」・「丘」・「山」のそれぞれを地名に含む地域の間では、存在している標高に違いがあるのでしょうか?それを調べるために、以下の表に示すように、各標高帯ごとに、「台」・「丘」・「山」のそれぞれを地名に含む地域が、どのくらい分布しているかを数えてみました。なお、一つの地域で、複数の標高帯にまたがるものは、簡単のため重複してカウントしています。



 表1:平均標高帯ごとの、「台」・「丘」・「山」それぞれを地名に含む地域が分布する数



 この結果を見ると、「台」は、0m以上であれば、全ての標高帯において一定数見つける事ができました。特に、20~40m位の標高の地域に多いこともわかります。「山」は、20m以下の標高帯ではあまり見られず、それ以上の標高帯では、あまり偏りなく存在しているようでした。その一方で、「丘」はこの3種類の中で、最も分布が限定的で、ほとんどが、20~40mの標高帯のところにある事がわかりました。


◆まとめ

 以上、見てきたように、今回、私たちが調査の対象とする、「台・丘」を地名に含む鉄道駅が立地するような地域は、地形的な要因に地名が由来するところが大きく、また、その周辺には、「沢・谷」や「坂」といった、「台・丘」などとの地形の標高差を示すような地名が付くことも多い事がわかりました。
 今回は、東京23区について、町丁目を単位として、マクロな視点で考察してみました。次の仮説からは、より焦点を絞って、「台・丘」を含む鉄道駅を選びだしたうえで、その駅周辺のまちなみの特徴について考えていきたいと思います。 お楽しみに!
 (文責:関口達也)

参考文献・データ

・標高・傾斜度5次メッシュ (国土交通省国土政策局国土数値情報ダウンロードサービス)
・平成12年国勢調査(小地域)(総務省 e-stat 政府統計の総合窓口 地図で見る統計(統計GIS) )

※付録

 以下のリンクをクリックすると、上の地図にある、①北西部、②北東部、③南西部、それぞれ該当する地域が、具体的な地名付きで拡大表示されます。
① 東京23区 北西部
② 東京23区 北東部
③ 東京23区 南西部