考察2: 「台・丘」を駅名に含む鉄道駅周辺の標高は、相対的に高いのでしょうか?

このページの目次

はじめに・・・
「台・丘」を駅名に含む鉄道駅は、どこに、どれくらい存在するのか?
現地での考察
データ分析での考察
結論

◆はじめに・・・

 考察1では、東京23区の各町丁目を対象に、マクロな視点から、地名と地域の関係性を考察しました。その結果、「台」・「丘」・「山」を地名に含む地域は、東京23区の中でも、標高の高い所に比較的多く存在するということがわかりました。

今回は、もう少し焦点を絞って、「台・丘」を駅名に含む鉄道駅周辺の地形の特徴を考察します。前回の分析に基づけば、「台・丘」を地名に含む鉄道駅周辺の地域は、他の地域より標高が高いと考えられます。本当にそうなのでしょうか。

 

◆「台・丘」を駅名に含む鉄道駅は、どこに、どれくらい存在するのか?

 東京23区には、「台・丘」を駅名に含む鉄道駅は合計23つあり、「台」が含まれるのは18駅、「丘」が含まれるのは5駅です。それらを、23区内の位置関係から、以下の5つのエリアに分類しました(表1、図1)。



 表1:東京23区に存在する「台・丘」を駅名に含む鉄道駅


図1:「台・丘」を駅名に含む
鉄道駅の分布
(クリックで拡大します)

「台・丘」を駅名に含む鉄道駅のほとんどは23区の西側にあります。前回は、地名からの考察でしたが、鉄道駅名に着目しても、「台」・「丘」を駅名に含むものは、多くは東京23区の西側に多いという事がわかりました。

 

◆現地調査を交えて

上の23駅のうち、板橋区の「ときわ台駅」と「西台駅」を対象に、現地調査から考察される結果を以下に示します。

まずときわ台では、駅の北口から出ると、商店街と2・3階の戸建て住宅が多くある住宅街の街並みが広がり、駅前には小さな広場が見られます。その広場から伸びる5つの放射状の道路が、なだらかな坂になっています(図2)。









図2: ときわ台駅の周囲の風景

そして西台駅の周辺は、大型商業店舗や集合住宅が多く、駅前には幹線道路が通っており、ときわ台駅とは異なる街並みとなります。駅の周りでは、高低差はほとんど見つかりません(図3)。









図3:西台駅の周囲の風景


今回、現地調査に赴いた、ときわ台駅と西台駅は、「台」という字が駅名に含まれているにもかかわらず、駅周辺が周辺より高い場所にある、と断定できるような標高差はありませんでした。

◆データ分析での考察

 さて、今回、調査対象として挙げられるような、「台・丘・山」を地名に含む地域は、ある程度の標高を持つ場所に存在するという事が推測されましたが、「台」・「丘」・「山」のそれぞれを地名に含む地域の間では、存在している標高に違いがあるのでしょうか?それを調べるために、以下の表に示すように、各標高帯ごとに、「台」・「丘」・「山」のそれぞれを地名に含む地域が、どのくらい分布しているかを数えてみました。なお、一つの地域で、複数の標高帯にまたがるものは、簡単のため重複してカウントしています。

ときわ台駅周囲の地形は、部分的に高い所もありますが、全体的に標高の高い所にあるとは言い難い結果となっています(図4)。西台駅周辺はその外側の地域よりも標高が低くなっています(図5)。




図4:ときわ台駅周囲の地形  



図5:西台駅周囲の地形  


それでは、現地調査では紹介の出来なかった、他の「台・丘」を含む鉄道駅周辺はどのような状況なのでしょうか。ここでは、「台・丘」を地名に含む鉄道駅の集中している東急大井町線・池上線エリアに着目します。このエリアでも、「台・丘」を地名に含む駅と、そうでない駅との間には、周囲の標高は、あまり差がないということがわかりました(図6)。




図6:東急大井町線・池上線エリアの駅と地形  



◆結論

今回は、着目する範囲を限定し、前回よりもミクロな視点から、東京23区内の「台・丘」を含む鉄道駅の周辺の標高について考察しました。全ての駅について考察したわけではありませんが、「台・丘」は駅周辺での標高差はあまり見られないことがわかりました。

前回の考察の結果と合わせて考えれば、地名の様に、空間的に広い単位で認識され、決定される名称の場合には、「台・丘」が含まれているものは、相対的に標高が高いところに存在するという事実は確認されました。しかし駅名に「台・丘」が含まれるものに着目して、その周辺を眺めるという、より空間的な単位を限定して調査をした場合、必ずしも、駅周辺の地域は、それより外側の地域よりも標高が高いわけではない、という事がわかりました。

なぜこのような結果になったのでしょうか?今回のコンテンツの一つとして以前に公開しました、駅名の由来のコンテンツを合わせて考えました。「〇〇台」や「〇〇丘」といった駅名にも、現在の様に名づけられた由来があります。ただし、その「台」か「丘」が指し示す範囲と位置は、様々です。

例えば、「ときわ台駅」に着目すると、駅名の由来に関連する「武蔵野台地」は、関東平野西部の荒川と多摩川に挟まれた地域に広がる面積700km²の台地です[1]。また、「西台」という地名は、この地が志村城の西の台地にあったということから因んで名付けられましたが、「西台駅」は志村城の北西にあり、約2km離れています。

上記の例の様に、駅名の由来になった「台」や「丘」が指し示す規模や範囲は様々で一律ではありません。「駅周辺」というより空間的に詳細なスケールで見た時、駅の周囲数kmにわたり広がる台地の上に駅があれば、駅周辺は台地の平坦な部分に位置していて、駅周辺での高低差が見られない事もあると考えられます。また、駅にほど近い台地の名前を冠している場合、駅の名前が、その近くに位置する台地の名前から取っていたものであったとしても、必ずしも、その台地の上に位置している、というものでもありません。 このような理由から、今回調査を行った駅周辺での高低差が見られなかったのではないか、と考えました。

(文責:張貝貝、関口達也)

参考文献・データ

・基盤地図情報 数値標高モデル(国土交通省国土政策局国土数値情報ダウンロードサービス)  
・Googleマップ