まちなみの色 〜まちなみを特徴づける色の考察〜

はじめに

色はまちなみの大きな要素の一つです。ファサードや路面、植栽など、それらが持つ色は質感との組み合わせによってまちなみの印象や雰囲気を形作ります。まちなみとすまい研究会でも以前、まちなみの色に関するレポートを上げています。
まちなみとすまい研究会
今回はまちなみの色に着目して、様々なまちなみの写真から特徴的な色を抽出できないか試してみたいと思います。このような分析により、まちなみを特徴づけるイメージカラーが分かったり、イメージカラーを共有するまちなみが分かったりするかもしれません。

分析方法

今回の分析の基本的なアイデアは、まちなみ写真を構成する色をいくつかのパターンにクラスタリングするというものです。言い換えれば、まちなみの写真に含まれる多数の色を、少数の色にまとめて表現します。つまり、似たような色をある程度まとめてあげることで、代表的な色を取り出します。
簡単な例を用いて考えていきましょう。図1は分析対象とする写真の一例です。この写真に含まれる色をいくつかの代表的な色にまとめたいと思います。


図1:まちなみ写真の一例

この画像は256(縦)×256(横)=65,536個の小さな箱(ピクセル)できており、それぞれのピクセルには色の3原色(RGB値)によって表現された色が入っています。つまり、この画像には最大で65,536種類の色が入っているわけですが、路面のアスファルトや壁面など、大体似たような色になっている部分も多くあります。よって、使える色の種類がもっと少なくても、十分にこの写真を表現できそうです。このように使える色の種類を減らして写真を作る方法は、画像を「圧縮」する方法の1つです。
画像に含まれる色の集約方法としてもっともシンプルな方法の1つは、k-means法というクラスタリング手法を用いるものです(参考1)。この方法では、色を何種類にまとめるかをあらかじめ指定してあげる必要があります。そこで、色の種類の数(図2ではKとしました)を5ずつ変化させて、どのように写真が圧縮されるかを見てみます。


図2:写真の色集約

図2は圧縮結果です。色の数が少ない場合(K=5、つまり5色だけで図1の写真を再現している)では、確かに元の写真に近いものの、全体的にのっぺりとした印象です。一方で色の種類が多ければ(K=30)、かなり図1に近い画像になっています。全体的に見ると、15色か20色あれば、だいたい元の写真を再現できているのではないでしょうか。

分析対象と分析の流れ

分析対象とするデータは、まちなみとAI その3でも使用した本郷・西片・根津のまちなみ写真です。データの収集方法や詳細については以下のリンクを参照してください。
まちなみとAI その3
当該データセットは75,085枚のまちなみ写真を含みます。それぞれが65,536個のピクセルを含むわけですから、全体のピクセル数はこれらをかけた4,920,770,560個になり、そのまま扱うのは現実的ではありません。そこで、以下のような2段階の方法で特徴的な色を取り出しました。
まず上記の例に倣い、すべてのまちなみ写真から代表色を20種類ずつk-means法で取り出します。これによって、75,085(枚)×20(色/枚)=1,501,700色のまちなみ代表色が取り出せます。しかしこれらはある程度近い場所で撮影された写真から取り出した色ですから、似ているものも多いだろうと考えられます。そこで、これらの代表色を再度k-means法でクラスタリングし、更なる代表色を抽出しました。代表色の数は、3地区から撮影したので20×3=60色としました。
このような2段階の色集約を行った結果が図3です。2段階の色集約を経た後も、十分に元の写真を再現できていると思います。


図3:(左)元の写真、(中)1段階の色集約結果、(右)2段階の色集約結果

結果

抽出した60色を見ていくと、特定のまちなみ構成要素に対応した色が多数取り出されたことが分かりました。一番取り出された色が多かったのは、路面のアスファルトや壁面のコンクリートに対応する色です。図4はその一例で、路面のアスファルトの大部分に対応した色が取り出されています。日の当たり具合や路面状況に応じて様々な路面色が代表色として取り出されました。今回使用した写真では路面が占める面積がかなり多いこともあり、このような結果になったものと考えられます。
一方で、写真の中で占める面積としては路面の割合が多いものの、建物の外壁の色も路面色と共通で抽出されたものがかなり多いようでした。壁面の色は路面に比べて複雑なので、壁面を表現するには多数の代表色を混ぜる必要があるため、面積としては小さくなったようです。逆に言えば、環境次第で白に近いグレーから黒に近いものまで、路面の色もかなり変化することに気づかされました。


図4:路面色の例(左)元の写真、(中)2段階の色集約結果、(右)集約された代表色のみ表示

次に多く見られたのは、空に対応した色です。これも空の青さに応じて何パターンかの代表色が抽出されました。空の青は本郷・西片・根津のファサードと比べるとかなり特徴的な色であり、また太陽の位置によってその濃さを変えるので、このような結果となったのでしょう。


図5:空色の例(左)元の写真、(中)2段階の色集約結果、(右)集約された代表色のみ表示

壁面として大面積が得られた代表色もあったので、いくつか示します。今回は色と被写体の関係までは分析できていませんが、壁面に対応する色を集めれば、どのような色の建物が多く、どのような色の建物がまちなみのアクセントになっているのか分かるかもしれません。図5の他には、赤や黄色の建物も見られました。




図6:壁面に対応する代表色

また、植栽に対応した代表色も何色か見られました。樹木は部位や見る角度によって色が異なるため、同じ場所の樹木でも複数の代表色が使われている場合も見受けられます。



図7:植栽に対応する代表色

最後に、抽出した60種類の代表色を示します。路面に該当するグレー系の色や、空色が多く取り出されていることが分かります。

図8:代表色

おわりに

今回は、まちなみを構成する色に着目し、まちなみ写真に含まれる色を集約して代表色を抽出しました。結果、路面に代表されるグレーが多数代表色として取り出されました。これは、路面が分析に使用したまちなみ写真に必ず大面積で映っているためであると考えられます。まちなみ・景観の整備などでは道路舗装を工夫しているところもよく見かけますが、必ず目に入るという路面の特性を考えると、まちなみの雰囲気づくりに効果的なのでしょう。また路面の色はあまり代わり映えがないように思いがちですが、今回の分析を通して、環境に応じて細かな路面色の変化があることにも気づかされました。
一方でまちを歩く際の目線などを考えれば、路面よりも建物の壁面などの方が目につきやすく、まちなみの印象に大きな影響を与える可能性も大いに考えられます。今回は被写体の種類を考えずに代表色を取り出しましたが、壁面ごと、植栽ごとなど、まちなみ構成要素の種類ごとに代表色を取り出せれば、まちなみのより深い理解につながるのではないでしょうか。

参考

参考1) C.ビショップ, パターン認識と機械学習 上:ベイズ理論による統計的予測(丸善)

文責・分析:西

まちなみ写真収集・選別:宮川、水谷