講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』



木下 篠原さんには、自分自身の「ライフスタイル」についてどうお考えですか。

篠原 すごく難しい質問ですね(笑)。強いて言えば、共に暮らすということにとても大きな価値を見出しているということでしょうか。自分が自立しつつ、より豊かな環境を得るために、誰かと喜びや悲しみを分かち合いながら暮らしていきたいという価値観が、自分のライフスタイルの特徴的な部分かもしれません。

ライフスタイルというものを単に個別のバリエーションやルポとしてとりあげるだけでなく、そうした個々の多様性を認めた上で、新しい価値観を提示することにライフスタイルについて考える大きな意味があると思います。

梅津 坂元さんがコレクティブに注目されたのはなぜですか?

坂元 子育てをしていた時、共同保育所を作ったのがひとつのベースになっています。もうひとつは、これまでに住んだ住宅に対する不満です。私は公団住宅→分譲マンション→もっと大きな分譲マンション→子供が出て行った後別の住宅へと住替えを何度も繰り返してきましたが、その度に住宅に不満を残してきました。高度成長期の賃貸は良質なものが少なかったので買うしかありませんでしたが、その度に間取りを変えてみたりしてもなかなかいい住まいにならず、住宅にはとても不満をもっていました。学生の頃から既に、今で言うSI住宅のように、何もない空間だけがあって、間取りや内装を全部自分で決められるような住宅があればいいと考えていました。やはり、2DKといった決められた間取りが一番の不満要素です。また、子供を通して話す以外は近所づきあいがほとんどなく、いっしょに住んでいるという実感が全くありませんでした。そうした地域社会の貧しさがふたつ目の不満です。

コレクティブハウスについて知った直接のきっかけは、12、3年前に北欧のコレクティブハウスの小冊子に私の引越し歴を掲載していただいた時に、コレクティブハウスの提案をしておられた日本女子大学教授の小谷部さんと知り合ったことでした。その後、コレクティブハウスの調査研究を行ってきましたが、それだけでは飽き足らず、「世田谷にコレクティブハウスを実現する会」を設立したところ、居住希望者が40、50人一気に集まったのです。最初、ここの土地の地主さんにコレクティブハウスをつくる提案をしたのですが、事業的に無理ということで諦めました。

そんな矢先、前から気になっていたこの家が空き家になっていることを知り、持ち主の地主さんにお願いしてシェアードハウスとして貸していただくことになりました。他人と暮らすというのは全く初めての経験でしたが、テレビのプロデューサーという仕事柄、いろんな価値観の人と接するのが好きだったので、抵抗はありませんでした。

ここでの暮らし自体もとても楽しいのですが、自分自身が他人と同じ空間で暮らすというのはどういうことなのか、自分の体で経験したかったというのが大きな動機だと思います。どういう人だったら一緒にやっていけるのか、どういう人とは合わないのかということは、実際一緒に暮らしてみないと分からないので、ここでの暮らしは、将来、とてもよい経験だったと感じられるはずです。

さっき篠原さんも言ったように、他人と同じ家に住むということが意外と気にならないことも分かりましたし、自分たちだけで全てやらなければならないので、役割分担など共に豊かに暮らしていくためにはどのように行動したらいいかが自ずと分かってきたと思います。また、お互いのプライバシーをとても尊重し合っていて、「一緒なんだけど別々で、別々なんだけど一緒」という感じが居心地のよさにつながっていると思います。

もちろん、互いに相手に合わせている部分も少しはあるでしょうが、それが苦痛というわけでは決してなく、かえってそのほうが気持ちいいと感じています。たとえば、掃除などは一人暮らしのときはほとんどしませんが、当番が決められているからしかたなくというのではなく、他人や自分のためになっていることだし、掃除すること自体よいことなので、それが気持ちいいと感じられるんです。

こうした暮らしがうまくいくのは、皆世代や職業が違うことがひとつの要因だと思います。自分と同じ世代の人ばかりだったら嫌ですよね(笑)。同世代どうしだと、互いに許せることも許せなくなったりして大変ですから。

木下 街づくりのレベルでこうしたシェアの感覚が生まれれば、すごく気持ちのいい街になるでしょうね。本日はどうもありがとうございました。



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