講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


4. 炊き場の再生
岡部:  2012年には炊き場を復活させました。南房総地域の民家では、風呂とキッチンを別棟に設けます。こうした炊き場には下足で使う食堂が付いていて、昼間は長靴のまま簡単な食事をとったりします。人が集まって作業を始めると料理をする機会が増えたので、このスペースを整えることにしたんです。実際、作業後には打ち上げが行われますし、色々な国の学生が混じると食事の制約が複雑になって、外食もままならなくなります。
長い間使われていなかった炊き場は、ほとんど自然に帰っていました。手を加えるにしても、廃墟感は残したままにしたかったので、まずはトリアージで検討しました。具体的には、救済の見込みがないもの、一刻も早く処置すべきもの、早期に処置すべきもの、さし当たり処置は必要のないものに選別しました。こうしたスペースの改修では竈を再生するのが定番ですが、私の好みで大きなガスオープンを入れています。肉や魚を大量に焼くのが好きなんですよ。だけど自宅だと食べきれないので、私が大量調理を行うためのキッチンをここに作ったんです。先々週もちょっと早めのクリスマスで、詰め物した鳥を3羽焼きました。その他にも流しそうめんをしたり、餅つきをしたりといったお祭りもしています。
鈴木:  そうしたお祭りの時には、岡部さんも料理を作ったりするんですか。
岡部:  私も作りますが、私は気まぐれな民宿のおばさんという感じです(笑い)。ですから、私が海外調査をしている時に行われるお祭りも少なくありません。例えば餅つきは、地元のおばあちゃんの楽しみになっています。餅米を蒸してくれたりするので、毎年やらねばという雰囲気になっています。2014年には、主屋の土間を復活させて炊き場にトイレも作りました。土間は個室に改修されていましたが、外からアプローチできる状態に戻しました。出入口は突き上げ式の扉にしました。開けると大庇になって、半屋外空間を作れるようになりました。雨の日の集まりのときにはとても重宝しています。炊き場と土間が復活して、最近の私は炊き場と土間くらいしか行き来しないようになりました。ちょっとした介入で、建物の動線が変わることを実感しました。




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