講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


3.1980年代の環境デザイン
岩村:  1980年代前半に入ると「バウビオロギー」の理念に影響を受けた先導的なプロジェクトが実現されて行きます。私は1980年に帰国し、東京に拠点を移して設計事務所岩村アトリエを開く一方で、先ほど触れたカッセル・エコロジー団地の建設に加わり、自宅を建てる機会を得ました。そこで学べたことは大変貴重でしたし、その後の活動の糧となりました。一方、矛盾するようですが理念先行型の取り組みには違和感を覚え始めてもいました。つまり、「思想で固められた住宅は住みにくい」ということです。これは松村さんを含め様々な先生方も指摘されてきたことかと思います。例えば「人智学」と「シュタイナー学校」で知られるルドルフ・シュタイナーには熱烈な信奉者が多いのですが、それは時に宗教的にさえ見えます。私は無神論者というわけではありませんが、一つの思想や信念に基づいて論理体系や方法論を構築し、それを空間化する作業だけでは何かが欠けていると感じたのです。さらに、当然ですが日本の社会で海外の事例がそのまま通用するわけではありませんよね。気候風土、産業構造、生活文化、教育そのすべてが異なるわけですから。

我が国では1990年代初頭には、従来の公害に端を発する環境問題から、世界的な流れの中で地球環境問題が国の政策的な課題として捉えられるようになります。ライフスタイルとの関連でみれば、この頃に「環境家計簿」などが注目され、ようやくエコロジーとライフスタイルの問題が関係し始めたという印象があります。「家計簿」という呼び名は主婦を中心とした消費者運動や家政学などとも馴染みがよく、地球環境問題と住まい方を結びつける上で重要な役割を果たしたと思います。もっとも、生活の行動をリスト化してそれぞれ自己評価で定期的に点数を付け定量化するという方法は、正直私の性にはちょっと合わないところがありました。素直な印象として、「自分の家の中ではもっとだらっとしていたいな」と思ったことも事実です(笑い)。



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