「地域」の本質が覚醒した
私は政府の推進する「長期優良住宅(元々福田政権時に『200年住宅』と呼ばれていた)」関連のプロジェクトにいくつか関わっています。その中で折に触れて申し上げてきたのは、「現に長く使われている住宅とそこでの暮らしをよく見ずに、単に技術的な頭で具体的な方策を考えてみてもあまり意味をなさないのではないか」ということです。けれども、お忙しい皆さんにはなかなか聞い頂けないものですから、「隗より始めよ」ということで今年度の「ライフスタイルとすまい」の通年テーマを「長く使われている住宅とそこでの暮らしを見る」ことにしました。ということで、今回は越前浜の集落の古い民家に暮らし始めた星名さんたちに会いに行った訳ですが、とても印象深く心に残る取材になりました。
政府の「長期優良住宅」関連の審議会等の場で、「住宅1軒だけ200年もってどうなる?街並みとの関係を大事にしないといけない」という趣旨の意見を聞くことが多いのですが、個人的にはその「街並み」なる言葉の背景にどのような具体的なイメージがあるのかうまく想像できないままでいました。或いは「地域性を大事にしないと・・・」という類の発言を聞くこともあるのですが、この場合も同様に実感を伴って理解できることはなかったのです。何か歴史的な町並みやそこに表れる地域性のことを言っているのだとしたら、それはこれから新築する住宅とどう関係付けて理解すれば良いのか、それが正直わからなかったと言い換えても良いかも知れません。
今回の取材で私が実感を伴って明確に理解したのは、第一に古い家がその1軒の独立した特性によって長くもったり、長く住まわれたりするのではないということ。第二に、だからと言って家がいくつか集まっている状態をどう捉えれば良いのかというと、それは単に建物や道で構成される視覚的な印象のようなものだけではなく、そのやや広がった空間「地域」の中での人々の暮らしの層の重なりや何とも明確に表現しがたい人間同士の関係をこそ捉えなければいけないということです。集落研究をしてきた人たちから見ればあまりに当たり前のことですが、そのことを現代の若者の移住という行為が鮮やかに浮かび上がらせたのだと思います。眠りかけていた「地域」の本質が、若者たちの「利用の構想力」を通じて覚醒した、とても刺激的で考えさせられる越前浜でした。
(松村秀一)
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