講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


3.住む人がいなくても空き家じゃない
松村:  2軒とも空き家だったわけですよね。そうすると蜘蛛の巣が張っていたでしょうし、建てつけが悪かったり、どこかが腐って雨漏りがしていたりとか不具合があったんじゃないですか。大家さんも空き家の手入れにコストをかけたりしないですから。
星名:  普通の不動産物件のように、問題なくすぐ入居できるような手入れはされていなかったですね。台風で外れた戸を直すといった対処はしていたようですが…。私が借りた家の方は、もとの住人がこの家を離れて37年経っていたそうですがちょうど最後の法事がそこで行われた直後で、きれいに掃除されていました。妻が借りたこちらの家は居抜きの状態で、チリやホコリもたまり庭は一面ジャングルみたいになっていました。でもきれいに掃除したらとても状態のいい家でした。この部屋などは畳の上に敷いてあったウスベリをどけて拭いただけです。建具も変えていません。
松村:  空き家になった家が残っているのは、取り壊す理由がないからでしょうか。
星名:  少なくともこの越前浜では、「空き家」という感覚が私たちと違っているような気がしますね。「空き家を貸して下さい」と言うと、「空き家って?」みたいな感じです。
鈴木:  どういう感覚でしょうか。
星名:  うまく言えませんが、今住んでないというだけで、空き家じゃないのだと思います。同じようで違うようです。
松村:  例えば子供が大学生になって一人暮らしを始めても、その子の部屋をそのまま残していたりするじゃないですか。よそから見たら空き部屋ですが、家の人から見たら空いている部屋じゃなくてあの子の部屋っていう感覚がある。それと同じようなものですかね。
星名:  そうかもしれません。貸す気もなく、貸すイメージすら持っていない。古い家は固定資産税の負担も小さいですから、特に急いで貸したり、売ったり、壊したりする必要もなく、そのままにしてあるんだと思います。それとほかのところでもそうかもしれませんが、この地域の人にとって、家屋敷を余所の人に売ったり貸したりするのは気持ちの上でそう簡単ではないんです。もしかしたら自分や身内が帰ってくるかもしれないという気持ちが、どこかにあるのかもしれません。お仏壇もあるし、荷物も置いたままです。

星野さんの住まい 実際この家なんかはほとんど居抜きの状態でした。最後はおばあちゃんがお一人で住んでいて、その後10年間くらい空き家だったと聞いています。そのおばあちゃんが使っていたものを結構使っていて、このソファもそうです。私がこの家に引っ越してきたのは妻が暮らし始めた後なので把握しきれていませんが、今私たちが普通に使っているお皿や鍋がもともとこの家に置いてあった物だったりします。



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