講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


3.最後に


居住体験を語り合うことの面白さ
すまいとライフスタイルとの関係に思いを巡らそうとする時、はたと自分の体験不足に気付かされる。サザエさんなんかを観ていると、しょっちゅうお客さんがやってくるし、同じように人の家に出向くこともしばしばのようであるが、私の個人的な経験では、いい大人になってからは、人の家に招かれることはまれだし、自分の家に人が上がりこむ機会もそうはない。だから、すまいとライフスタイルにどんな関係のあり方があるかについての具体的な想像力が欠如しがちだ。

ただ、日本ではそうなのだが、仕事柄、海外で人の家にお呼ばれするチャンスはまあまあある。日本人のお宅をすっ飛ばしていきなり海外のすまいとライフスタイルの関係を目の当たりにする訳だが、これがなかなか面白い。ヘエーとかワオーとかいう声が出ることもしばしばだ。

今回はそうした体験に近いものを広く共有できないかと思い、各国からの留学生に集まってもらい、日本での居住体験について語ってもらった。やはり、私たちが思ってもいないようなことに感心したり、不便を感じたりしている。そこから何かを学び取れろうと思うと肩がこるが、こうして互いの居住体験を言葉にして話し合うこと自体は楽しいし、大いに意味があると思う。
(松村秀一)



基本性能・プライバシー・社会性−日本の住宅に欠けているもの
研究について議論することはあっても,あまり住まいや生活について話をすることがなかった留学生の方々から,次々に出てくる日本の住宅についての指摘はたいへん興味深いものであった。タレルさんの「Lifeは家でします」発言(つまり日本の住まいには生活がない)が決定的であったが、個別にまとめると以下の3点をあげられるように思う。

1.日本の住宅の基本性能は低い
東京での座談会でも大阪での座談会でも指摘が多かったことである。私は住宅に対して性能という言葉をあまり使いたくない人間なのだが。狭い,寒い,壁が薄いと,皆からここまでいわれると確かに性能が低いと言わざるをえない。

2.日本の住宅におけるプライバシーの無さはかなり特異のようだ。
アジアからの留学生にとってもプライバシー・部屋の独立性は重要であり,日本の住宅は奇異に見えるようだ(これが各国の伝統的な意識なのか,また日本に留学する学生達が所属する社会の影響なのか吟味・検証する必要はあるが)。

3.日本の住宅には住居・近隣に社会性がない。
韓国や中国では日本と同様に時代とともに減少しているようだが、それでも、住宅と近隣において様々な接客や社会的接触があるのが一般的なようである。昨年、ブタペストに寄った折りに,留学生の実家を訪問したのだが,その時の会話・室内の案内・食事はまさに人を招く文化そのものであった。

「こんな居住環境の日本に皆よく留学してきてくれたなあ」とあらためて感謝したい気持ちになった。
(鈴木毅)



IT革命は日本の住まいを変えられるか
大多数のサラリーマンのお父さんは朝早く家を出て帰宅が遅い。休日も接待ゴルフでほとんど家にいない。これは日本人のライフスタイルで無視のできないポイントである。家に帰ったころには,家の中も周りの家も寝静まっている。壁が薄くても部屋が寒くてもさっと風呂に入ってベッドに潜り込んで眠ってしまえば何の問題もない。もっとも近所に気ままな一人暮らしや学生が住んでいたりすると,トラブルに発展することがある。

最近は夫婦共稼ぎも多くなったし,なんといっても少子・高齢化である。家で生活を送っているのは,子どもと高齢者しかいない。子どもが夜遅くまで塾に通っていれば家には誰もいないということもありうる。留学生が色んな疑問を感じたのは,まともな生活を家で送っていたからだろう。

日本の住まいを変えていくには,日本人のワークスタイルを変えていくしかない。在宅勤務などITの発達はその一つ方法として期待が持てる。対面式のコミュニケーションを好む日本人にとって,何かとネガティブにとらえられがちなITの発展だが,いつまでも最後の切り札にとっておく訳にはいかないだろう。そろそろ真剣に取り組む必要があるのではないだろうか。
(西田徹)




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