ライフスタイル考現行


2.ひなた文庫の開店
松村:  大学院での学びを活かせる仕事が南阿蘇にあったわけですか。
中尾:  実家がたこ焼きのチェーン店舗を営んでいて、家業を継ぐつもりで帰ってきました。大学で学んだことを直接は活かせませんが、進学させてもらった家業には思い入れがありましたから。
松村:  奥さんの方には、本に携わりたいという気持ちがあったと思いますが…。
中尾:  僕としても、妻がずっとたこ焼き屋で働くこと望んでいたわけではありません。でも、南阿蘇村には本に携われる場が皆無でした。本屋はありませんし、図書館も最近やっとできたくらいです。
  そういう状況だったので、たこ焼き屋の駐車場に本を読んでもらうスペースを作ってみました。テイクアウト方式なので、待ち時間に利用するお客さんが結構いましたが、天候に左右されるし、さすがに冬に利用する人はいないと思って1か月ほどで終わりました。そんな模索をしながら本屋開店の思いが募って行った頃、妻と一緒に東京へ行く機会があって本屋巡りをしてみました。印象深かったのは根津駅にあったメトロ文庫です。誰でも自由に本を借りることができて、読み終わったら書棚に返せばいい。本との出会い方に様々な可能性があることを実感しながら南阿蘇村に戻りました。
松村:  南阿蘇は中尾さんの地元です。この駅舎のことはご存じだったわけですよね。
中尾:  実は大学時代に妻と訪れたこともあったんです。図書館っぽくて、ここで本を読んだら心地いいだろうなぁという印象を持ちました。もっとも、はっきりとこの駅舎に決めたのは、改めて各駅を見て回った2015年1月のことです。この時、駅舎の貸出が公募で決まることも知りました。南阿蘇白川水源駅に行った時のことですが、小学校の同級生のお兄ちゃんが働いていて、具体的な話を色々聞けたんです。早速、役場に電話してみると、なんと担当者は学生の頃に実家のたこ焼き屋でアルバイトをしていた人でした(笑い)。



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