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5.空き家と学びの場
岡部:  ゴンジロウは研究室のプロジェクトから切り離しているので、他の大学や研究室の学生も来ています。自覚的な参加者の方が事故などのリスクは低いと思うので、そういう学生だけが個人として参加している。何かが起きた時に私に責任が回ってくることは分かっていますが、私が責任を回避できることよりも、何も起こらないこと、起こる確率を最小化することの方が大切だと考えています。
松村:  今の大学で学外活動をしようとすると、様々な届出が必要になります。レンタカーを借りても、誰がどの車に乗るかまで書いて提出させられる状況です。実践と教育を結びつけることが非常に難しくなっていますよね。
岡部:  そこまで管理しちゃうと学びの場にならない。事故が全くなかったかと言えば、そういうわけではないです。キッチンを改修していた時のことですが、改修作業とは直接関係のない作業で、垣根の剪定をしてくれた学生がいたんですね。脚立の2〜3段目から落ちてしまって、救急車を呼んだこともあります。実は布良崎神社の神輿蔵の再建は、少し心配していたんです。大工のいとうさんはものすごく体力のある人だから、参加した学生がつられて無理をするんじゃないかって。心配になって見に行ったら、学生たちに自分で考えてやらせていたので安心しました。専門家から見たら甘い仕上がりもあるかもしれませんが、こういう雰囲気なら今後も作業を行っていけると納得しました。
鈴木:  学生でここまでできたらすごいですよ。
岡部:  ゴンジロウ塾を様々な学生さんが活用しています。陶磁器には、金継ぎという修復技法がありますよね。昨年はそうした発想で、台風で破損した瓦屋根の補修に取り組んだ学生がいました。具体的には、破損した部分を3Dスキャンでそっくり型取りし、その部分を3Dプリンターで作った部材で埋めてしまうという方法です。
松村:  所属研究室が何であれ、様々な学生がこういう小規模な実践に全く自然に関わっている時代なんですよね。学生たちにやらされている感がない。僕らが学生の頃にはちょっと考えられない状況です。何が重要なポイントなんでしょうか。
岡部:  大工さんがいて下さるようになって、急に機動力が上がったことは確かですね。
松村:  それって重要ですよ。茅葺職人が来てくれたり旅する大工が突然現れたり、いつの間にか岡部さんのために動いている人たちが周りに存在している(笑い)。
岡部:  幕末の適塾や松下村塾などは社会制度の〈外〉にありました。吉見さんによると、これらの方が本来の大学の近いそうですが、ゴンジロウ塾にも当てはまるかもしれません。住宅市場から逃れた空き家と相性がいいのも、大学という社会システムから逃れた学びの場だからかもしれません。




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