東京大学高齢社会総合研究機構 (IOG)
ヘルスケアネットワーク (HCN) 研究会報告

「郊外における地域包括ケアシステムの見える化」

 

(3) 生活支援サービス 〜支える側と支えられる側のマッチング〜

 豊四季台地区では、食事サポートやワンコイン500円での家具移動など、介護認定を受けなくても生活支援サービスを受けることのできるNPOなどが12団体もあります。しかし、それらがほとんど活用されてないという状況でした。今、柏市では市全域を20の地域に分けて、各地域における自治会や社協、NPOなどによる「地域の支え合い会議」を立ち上げており、地域の課題解決に向けた話し合いを行っています。豊四季台地区では、「支え合いフェスタ」を開催し、地域の生活支援サービスを紹介し、支えたい人と支えられたい人のマッチングを行っています。
 豊四季台地区で検討しているところなのですが、地域の中で何かあった時に相談できる相談窓口、地域コンシェルジュサービスをつくりたいと考えております。ご本人が困りごとを、タブレットなどを通して相談でき必要なサービスはそれを提供しているNPOや企業、医療・介護などにつなげてワンストップで課題解決を図る。さらには家族にも状況を確認できるようにつなげるといったサービスを考えております。柏市では24時間オンコール体制の、緊急見守りサービスが行われており、そういったところとの連携を考えています。さらにコンシェルジュサービスを、生きがい就労として、地元の皆さんが活動できる窓口にできないかと考えています。
 ただ、これがなかなかできないネックが2つありまして、1つは通信インフラです。豊四季台地区にはWi-Fi機能が無く、NTT回線を使ったシステム運用では月千円から2千円に通信料がかかってしまいます。それに75歳以上の方がタブレットに馴染まないということです。実証実験をやったのですが、「いいね」とは言っていただいてもやはりまだ使いこなせていません。もう1つは、コンシェルジュサービスをどういう形で維持するかです。本当は企業にやってほしいのですが、各企業は残念ながら維持するお金がないですから、日中はいいけれども土日はできないとか、夜間はできないということで、24時間シームレスにできるものがまだありません。コンシェルジュサービスのニーズはありますが、どうやってビジネスとするかが今後の課題となってくるということです。

(4) 在宅看護・介護サービス

 柏市豊四季台地区では在宅医療と介護サービスについては、拠点型サ高住を中心とした展開をしようと考えています。UR団地の一角にサ高住をつくり、その中に医療・介護に必要な業種をほとんど入れています。グループホーム、居宅介護支援、訪問介護、訪問看護、24時間定期巡回・随時対応型訪問介護看護、小規模多機能施設、在宅療養支援診療所、クリニック、薬局、地域包括支援センターがあり、さらに多世代で交流できるような認可保育園と、学童保育が入っています。これらの中心にあるものが、学研ココファンが運営しているサ高住とグループホームです。 小規模多機能と訪問介護、定期巡回・随時対応といった介護サービスは長岡福祉会が担当しております。この団体は新潟の長岡市で「地域を全部特養化するという」地域包括ケアのひとつのモデルを作った社会福祉法人です。それからスギメディカルが居宅介護支援と訪問看護を引き受けています。この3つがコンソーシアムを組んでURと提携をして地域包括ケアシステムのモデルづくりを行っております。当初の狙いは、拠点型サ高住の24時間サービスを徐々に地域に展開することだったのですが、残念ながらまだ完成形にはいたっておりません。
 これまでの住宅双六では、郊外住宅団地で庭付き一戸建て住宅を購入することが“あがり”で、そこで定年を迎えて10年くらいのんびり過ごすということが憧れでありました。しかし、平均年齢が上がり、住む期間も長くなり、家も古くなって、車の運転が難しく、庭や家の管理も面倒になってきて、やがて要介護になった時にどこに住めばいいのかという問題が出てきています。高齢者の住まいについては、特養、老健、グループホーム、有料老人ホーム、サ高住など、全体で183万戸あります。これからさらにサ高住をどんどん増やそうとしていますが、「住宅すごろくの上りは高齢者住宅で」それで本当にいいのでしょうか。
 特養は8畳13.2m²、ベッドのみが主流で、4人部屋6人部屋もあります。介護保険の施設介護が適用されるので相対的に利用料は確かに安いです。有料老人ホームは13〜20m²が主流で、ベッドとトイレだけで住宅としての機能はありません。サ高住は、本当は基本面積25m²程度で、ベッド・台所・トイレ・浴室を備えたひとつの住まいとして供給するはずだったのですが、実際には特例18m²が認められてしまっており、主流は18〜20m²の台所・浴室のついていない、介護中心のものになっています。皆さんはこういう住宅に終の棲家として本当に住みたいですか?
 介護付き高齢者住宅への入居希望は、ほとんどご家族からです。ご本人がここに入りたいと積極的に相談に来られることは本当に稀です。ご家族が介護できないし、高齢者もご家族に面倒をかけたくないから、仕方なしに入るということが実態だと思います。日本の住宅事情はこういうことでいいのかという疑問から、東大が中心となり24時間在宅で介護・看護を受けられるシステムを検討してきました。
 介護事業を行っている企業による「地域包括ケアシステム推進準備委員会」では、24時間在宅介護サービスを提供できるサービスシステムを研究し、2016年に「新型多機能サービス (仮称)」を厚労省に提言しました。これは、介護・看護サービスには様々なものがあり、ユーザーにはどれを選んだらいいかが分からないし、24時間定期巡回は人の手配など採算が難しいということで、一体型の多機能サービスとして考えたものです。小規模多機能の人数枠を撤廃して、これを在宅介護サービスの地域拠点として位置づけて、およそ30分圏内ですぐに駆けつけられるようなところにこの地域拠点をたくさん展開することで、ご自分の自宅にても安心して生活が続けられるようなサービスを受けられるような形にしましょうというものです。
 もう1つの提言は、多職種によるアセスメントチームをつくることです。ケアマネージャーは介護系、看護系、ソーシャルワーカー系に大きく分かれ、それぞれ得意分野があります。介護系の方は介護付き高齢者住宅を薦め、看護系の方は医療系に特化し、ソーシャルワーカーの方は地域のいろんな資源とつながりの中でプランをつくるというそれぞれの傾向があます。またケアマネージャーが一人で出来ることにはおのずと限界があります。介護においてケアプランはとても重要なポイントです。一人の限界や計画作成のブレを無くすために多職種による複層型アセスメントを実施しましょうということです。特に要介護3以上の方に適用したらどうなのかということです。要介護3以上の方は起立や歩行が困難な方が多いです。リスクがあるからベッドに寝かしたままで良いのか、寝たままだと廃用症候群で余計悪くなってしまうので多少リスクがあるが歩行を促した方が良いのか大いに迷うところです。こうした判断を一人のケアマネージャーにゆだねるのではなく、専門家がみんなで考えましょうということです。自立をどうやって促すか、ご自宅で如何に長く住んでもらうのかといった自立支援、在宅支援のケアプランをつくるための多職種アセスメントを提案したということでございます。