東京大学高齢社会総合研究機構 (IOG)
ヘルスケアネットワーク (HCN) 研究会報告

「郊外における地域包括ケアシステムの見える化」

 

東京大学高齢社会総合研究機構HCN在宅ケア部会リーダー 田中康夫

成熟社会居住研究会では、これまでハウスメーカーが建設を進めてきた郊外住宅団地の再生に取り組んでいます。今回は、東京大学高齢社会総合研究機構HCN在宅ケア部会リーダー田中康夫氏をお招きして、地域包括ケアシステムを「まちづくり」として位置づけ「見える化」に向けた取り組みについて、ご講演をいただきました。

(1) 地域包括ケア

 本日は東京大学で研究しております地域包括ケアシステムについてお話させて頂きます。最初にポイントとして3つだけ皆様に考えていただきたいことがあります。
 まず、ご自身でもいいですし、皆様のご両親でもいいですけども、転倒骨折して約1ヶ月治療となり、入院先では一週間ぐらいで退院してくださいと言われた。けれども、大腿部転倒骨折なのでギブスをはめて全然動きが取れない時にどうされますか。
 2点目は“住宅双六”について皆さんご存知かと思いますけども、やっと郊外の庭付き一戸建てを買ってこれで最後だと思ったけれど、残念ながら介護が必要になった時に、どういう住み方をしたいですか。
 3点目は私も皆様も都心から何分、駅から何分、どんな商業があるかということをPRして、住宅供給してきたと思いますし、そういうことから皆様も住まいを選択されたと思います。ところが、今は通勤されていますから、なかなか実感がないと思いますが、通勤生活が終わり、まさしく地域に住むということになった時の、住まいの価値というものをどう考えますか。以上の3点を考えながら、これからのお話を聞いていただければと思います。
 「ヘルスケアネットワーク」は2009年の6月に、東京大学とURと柏市で、豊かな暮らし方を研究しようということで始まりました。東大で「柏モデル」と呼ばれているものです。豊四季台地区 (UR団地:人口約6000人で高齢化率が約40%) における地域包括ケアシステムと、高齢者の生きがい就労をつくるというところがスタートでした。豊四季台のシステムを論理化して、他でも使えるモデルをつくろうという目的で、企業と東大でHIP (ヘルスケアイノベーション) という共同研究体をつくっていました。現在はある程度活動の目的に目処ができたので今は「ヘルスケアネットワーク」という少し緩い勉強の組織になっています。そこでは現在、フレイル(虚弱)予防、在宅ケア・医療、それを他へ展開するための標準化という3つの研究を行っています。
 40〜50歳ぐらいの人は、生活習慣病の予防が主眼になってくるのですが、65歳以上になってくると、フレイル(虚弱)に関する対策の概念が変わってくるということが分かってきました。現在国が進めている地域包括ケア(まちづくり)において、東大の研究では “健康づくり・フレイル予防” “生活支援 (見守り・相談・食事等)” “24時間在宅介護・看護サービス” “24時間在宅医療体制の整備” の4つのサービスを充実させることが必要だと推奨しております。これらのサービスを、情報システムを構築することで連携させることで地域包括ケアを完成させることを考えています。更にそのシステムを標準化しモデル化して全国各地の色々なところで展開しようということを考えています。

(2) 健康づくり・フレイル予防

 2012年から、柏市内14か所の保健センターや近隣センターでサルコペニア (筋肉減弱) の原因解明を目的とした調査研究を行い、2000名を超える、自立高齢者・要支援高齢者が参加しました。この研究から、より早期からのフレイル予防には『栄養』『身体活動』『社会参加』が三位一体となることが必要で、特にその中でも『社会参加』がフレイル予防に対して重要ということが分かりました。東京大学高齢社会総合研究機構 (IOG) の飯島先生が先日NHKの番組でお話されていましたが、ご夫婦で、ご主人は毎日一生懸命に歩くなど運動に気を付けていて、奥様は運動はしないが毎日どこかへ出かけてお友達とおしゃべりしている方がおりました。どちらがフレイルになりやすいかというと実はご主人の方がフレイルになりやすいのです。社会性が低下すると、どうしても口腔機能、つまり噛む力やしゃべる力が弱くなり、さらに精神的・心理的にうつ症状になります。口腔機能と心理状態が悪くなりますと、栄養状況と身体状況が悪くなり、サルコペニアやフレイルになります。
 IOGでは2015年に「三位一体型フレイル予防プログラム」というフレイルチェックのプログラムをつくり、地域サロンなどにおける市民サポーター養成研修などを通じて、全国的に広める活動を行っています。フレイルチェックでは、両足立ち、「パパパタタタカカカ」の発声で口がどれだけ回るかのチェック、ふくらはぎの「指輪っかテスト」、「イレブンチェック」などを行います。「指輪っかテスト」は、利き足とは別の足のふくらはぎを、両手の指でつくった輪っかで囲めるかを見るもので、囲める方はフレイルの危険性はとても高いと考えられます。イレブンチェックとは、健康に気をつけた食事をしていますかとか、堅いものを噛めますかとか、一日運動してますかとか、外出していますかなどの11項目をチェックするものです。
 こうした包括的フレイルチェックを行った後、半年後に再度チェックし、効果検証を行うフレイルチェック事業の全国展開を進めています。同時に、高齢者の活動の場づくりを目的にフレイルチェックの市民サポーターに高齢者を活用すべくサポーター育成研修を進めています。