パネルディスカッション2018
成熟社会の住宅市場とハウスメーカーの取り組み

エンドユーザーのシニアは何を求めているのか?サ高住及びその他の経験を通じて
えいじんぐ・でざいん研究所所長 平山良平氏 スライド

(1) ネクスト・ステージの出現

 私は自称「ヘルパー建築士」の他に、京都SKYシニア大学の講師として活動しています。本日はその視点からシニアの生活ニーズをお話したいと思います。  京都SKYシニア大学は公益財団法人京都SKYセンターが2年ほど前から運営しているもので、600名くらいが受講されています。そのコースの1つである「ネクストステージチャレンジコース」(NSCC) は「健生ネットワーク京都」というボランティア団体が企画・運営していて、約40名が受講しており、私もボランティアの講師として参加しています。シニアにネクストステージがあるのかと聞かれることもありますが、昨年度の日本老年学会で高齢者の定義の見直しが提言されているように、シニアは昔と比べて、心身ともに10〜20歳若くなっていますし、スマホを扱えるシニアはこの8年間で8.7倍になっているとのことです。
 私も以前に座長を務めさせていただきました、この成熟社会居住研究会では、ハウスメーカーやディベロッパーがつくったまちが高齢化して行って、このままでいいのか、安心して住み続けられるのかという危機感と責任感から、住宅団地の中で介護施設やサ高住をつくる、あるいは国が進めている地域包括ケアを進めるということを検討してまいりました。しかしお客様の方もそういうことをあまり知らないということも事実であります 片方で私はえいじんぐ・でざいん研究所という設計事務所もうやっておりまして、クライアントが面白い土地の使い方と感じられるものを実現すると同時に、ネクストステージのこともご提案していこうと考えています。
 東京大学高齢社会総合研究機構の辻教授が理事長の一般財団法人健康・生きがい開発財団で、「健康生きがいづくりアドバイザー」が全国展開しています。その活動に参加した方からお話を伺うと、弁護士や観光ガイドまでがアドバイザーになり、前向きなお話が聞けて、とても楽しいとのことでした。「LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略」という本でうまくまとめられていることは、人生はマルチステージの時代に入ったということです。私もそうですが、大学を卒業して会社に入って、35年後に退職して100歳まで生きるとしたら、これまでのような教育や勉強で足りますか?大人になっても思春期的な心をもって柔軟な対応力を持ちましょうということです。このままでは年金は枯渇しますし、一人一人が自ら責任を持って、80歳まで自分で働く時代が来ると計算されています。そうなると学びなおして、マルチステージで何回も時代に合わせて生きていく力をつけることが必要です。外国では既に大学でマルチステージの方が勉強しておられます。

(2) Next Stage Challenge Course (NSCC) の面々たち

 NSCCは1年間、4万2千円の受講料で開講しています。6つのテーマー①高齢社会を考える、②これからを生きるために、③高齢期の暮らしを支える、④地域 (京都) の課題、⑤シニアの活躍、⑥ Next Stage で考えることーの27講座が、多様な講師陣で進められています。
 同志社大学の関根教授が講師の1人として、ソーシャルビジネスを皆さん起こしましょうという、「起業のすすめ」をお話されます。一方的に授業を受けるだけではなく、講義のあとは必ずワークショップで、自分たちが何を感じたかという意見交換を行います。受講者は、今後自分たちが人生を自立して送るための一度立ち止まって考える機会をもらったということで喜んでおられます。関根教授はゼミを持たれていて、学生がこの講座に参加する一方で、シニアも研究生という形でゼミに参加しておられ、学生と勉強し合うということも好評の1つです。
 國松さんは健康生きがいアドバイザーで、元滋賀県知事ですが、ロードバイクで1年間4,500kmくらい走る方です。この方の講義のポイントは「自分の目標を持とう」ということです。一回限りの人生のシナリオを書くのはあなたですよということをお話されます。
 奈倉さんは医師で且つ介護福祉士の先生です。老いはいくら抗っても生物学的には解消しないが、それをどう受け入れて円満に使いこなすかという、前向きな知識や経験で生活がうまくいくのですよということをお話されます。どんな老後にするかは自分の選択次第ということを考え始めましたと、受講生は感想として述べられています。
 同志社大学の井上教授は、高齢社会と社会保障についてネガティブなこともお話されます。年金生活の方が多いのですが、日本には財政状況の厳しさについてお話を伺うことで、受講者は賢い高齢者にならなくてはならないということを感想として述べられています。
 綾部市社会福祉協議会の事務局長である山下さんは、介護保険のことを丁寧にお話されます。受講者はまだ当事者になっていませんが、お話を介護と医療の違いや、地域包括ケアについてお話を伺った後、グループディスカッションを行うとケアマネージャーさんとのお付き合いの仕方や、地域包括支援センターに自分の親のことについて相談に伺うことなどのイメージができたとの感想を述べられています。
 まちづくりについても幾人かの先生に来ていただいています。京都大学准教授の吉田先生は、民主運動的なことをやられて、都市計画的なまちづくりではなくて、ボランティアの方と一緒にコミュニティが必要としているところにベンチを置いていくということをやっておられます。もう一つ大事なことは、地域包括でも自分の地域をどうするかというお話が多いのですが、吉田先生が調べられたところでは、自分の住むまちや自治会では意外と照れくさいとか気恥ずかしいとか性分に合わないということがあるので、別の地域でボランティアをしておられるシニアもおられるということです。
 中村さんというJICAのシニアボランティアをされた女性の方の講義を受けて、自分もJICAの海外ボランティアをしたいという感想を述べられた女性の受講者がおられました。
 田中さんは現役の大阪の職員さんですが、京都府の精華町というところで精華町キャラバン・メイト連絡会の代表を務めておられます。認知症に優しいまちは誰にも優しいまちということで小学校を巻き込んで活動されています。
 辻本さんは自治連合会会長で、周辺のホテルに災害の時に動けない方を泊めて下さいとかけあったり、高瀬川の清掃に周辺の企業からの参加をかけあったり、煙草を吸わないコンビニしませんかということをなさっておられます。自分らが動けば必ず協力してくれます、動かなければ何もしてくれませんというお話をされて、受講者は住みやすいまちとか良い人間関係づくりは自分から行動しなければならないのだなという感想を述べられます。
 谷田部さんは京都市都市計画局で空き家対策を行っている課長さんです。京都には4千くらいの空き家があるのですが、それをどう活性化するかということを、受講者から色々なアイディアが出されました。
 私は講師として、住み続けられる住環境や住まいは危険が一杯ですよということ、知っておきたい社会環境として地域包括ケアのこと、介護ロボット、介護棟とアクティブ棟のあるまちづくり、ネクストステージの集合住宅、野菜工場付き高齢者ビレジ、グループリビングやコレクティブハウジングについてお話しました。受講者の皆さんが最も興味を持たれたことが、友達と住むということでした。祇園のおかみだった人が家を提供されて、共同で家事をやっている生活についてお話すると、こういう住み方が面白いですねと述べられる受講者がおられました。

(3) まとめ

 まとめますと受講者は共通して、自分たちが動いて、住環境を自分でつくることが、まちづくりに重要という意識を、講座を通じて持たれています。早い段階でマルチステージの生き方の視点を養うことと、マルチステージに対応できるヤングシニアのステージをつくることが大事と言えると思います。ジェロントロジーのことを定年後に勉強するだけではなく、それよりももっと早い時期に勉強できるよう、知識の選択肢として提供すべきではないかと考えています。生活者は先進住環境のことをあまり知らないので、もっと早くツアーを組むべきではないか、定年後の人生40年で働く、あるいは勉強する仕組みをつくれば、介護保険の利用も減るのではないかと考えています。友達と住むような住まいは、ディベロッパーにはビジネスにしにくいところもありますが、こういうところに視点を置いて、今の専有面積の狭いサ高住でいいのですか、つくられたアクティビティで本当にいいのですかと、自分が入居するときのことを思うと違った考えになるのではないかと、受講生の皆さんと話し合っています。