パネルディスカッション2018
成熟社会の住宅市場とハウスメーカーの取り組み

郊外住宅地の超高齢化と再生の可能性ーこれまでの成熟研での取り組みを通してー
株式会社吉武都市総合研究所 代表取締役 吉武俊一郎氏

(1) 高齢化、都市縮小、空き家問題

 日本は都市縮減時代となり、郊外住宅団地は空き家・空き地の増加によるスポンジ化という問題に直面しています。また都市縮減の問題は諸外国においても見られますが、日本の郊外住宅団地の場合、ここに住み続けたいという定住意識の高さから、地域の超高齢化を伴う都市縮減であるということが、日本の特徴と考えられます。そしてハウスメーカーのビジネスは住宅資産との関わりがとても大きなものですが、郊外住宅団地の衰退は、その団地が負の資産と化した土地・建物の塊になることを意味します。人口減少時代ですから、郊外の都市密度の低下は避けられませんが、都市密度の低下をより魅力のある豊かな都市形成につなげていき、次世代に新しい地域価値を引き継いでいくことが郊外住宅団地の再生に必要と考えられます。  地域との協働に関してですが、地域が都市縮減についてどのような問題意識を持っているかについて、首都圏の中でも特に都市縮減が進んでいる、横須賀市谷戸地域において横浜国立大学都市計画研究室で調査を行ないました。その結果、地域の中には空き家・空き地の増加に対する問題意識を持ち、対策の検討を進めているところがありました。そして空き家・空き地対策のキーポイントである空き家・空き地の所有者との連絡体制をつくっているところがあります。
 これを実際の郊外住宅団地においてより詳細にみたいと思います。横浜市における民間開発住宅団地を、所在と着工年次で分析するとはっきりした傾向が現れます。1つは開発時期の偏りで、主に昭和40年代から50年代前半の高度成長期に建設され、急激な空き家発生が起きようとしています。もう1つはエリアの偏在で、横浜市の場合、市南西部での開発面積が大きいものになっています。これは主に郊外の丘陵部で大規模開発されたことによるもので、現在では、高齢化によるモビリティ低下と商業施設等の撤退の問題が併せて発生しています。
 前に成熟研でもご紹介した横浜市の大規模住宅団地では、自治会が都市縮減に対する問題意識を持ち、空き家対策と若い世代の転入を促進するための地域の魅力向上への取り組みを進めています。空き家対策は、これまで住んでおられた方が転出し、空き家を地域に残すことになった場合、自治会に連絡先の届け出を提出していただき、空き家所有者も自治会員として、自治会費を半額負担する代わりに空き家見守りと自治会報送付を行なうというものです。そして空き家の活用にも取り組んでいます。地域の魅力向上については、地域活動団体の育成と連携、新しい転入者へのウェルカムミーティング、商業施設で行なわれるミセコンの共催などを行なっています。市内の他の住宅団地においても、自治会が空き家対策を進めているところがあります。

(2) 成熟研で取り組んだ東京K団地の事例

 さて、ここからが本日の本題になりますが、このような郊外住宅団地を、高齢になっても住み続けることができ、かつ若い世代が転入する魅力あるまちとするためのビジネスの可能性を、成熟研では研究してまいりました。本日はその中で、東京都郊外の戸建て住宅団地をモデルとする研究についてお話したいと思います。
 モデルスタディとしたK団地は最寄り駅からバスで10〜15分かかるところに立地しています。この中で1丁目から4丁目は、1976年、つまりおよそ40年前に分譲開始されました。5丁目の方は、都住宅供給公社により、1994年に分譲開始されました。1丁目から4丁目の供給戸数は約2,100戸で、1990年公示の地区計画がかけられています。この地区計画により、最低敷地規模は160m²、最高高さ9m、長屋・共同住宅は建てられないといった、戸建て住宅団地としてのまちなみが維持されています。
 人口・年齢層を見ますと、やはり1丁目から4丁目と、5丁目では大きく異なります。1丁目から4丁目では現在、約40年前の初期入居の方々の年齢層である70歳代が人口ピークで、75歳以上が主な年齢層の、超高齢化のまちとなりつつあります。ただ、20歳未満の人口は維持されており、一部子育て世帯の転入が予測されます。一方で5丁目は、約20年前の初期入居の方々の年齢層である50代とその子ども世代、65歳から75歳と、人口ピークがばらけた状態です。
 我々はこの団地における、約10年前に住民の方々の声をうかがいましたが、その時点で高齢者が住み続けられるまちであるかが、将来の不安としてあげられていました。特にやはり郊外団地の共通する課題ですが、足の便と食の問題が大きいということが分かりました。近くに夜間対応の病院が近くにないといった、医療・福祉の問題も不安の原因となっています。
 子育て中のお母様方へのグループヒアリングも行ないました。高齢化に関する不安と共通する、近くに夜間病院やコンビニなどがないという課題と同時に、児童館や子育て世帯同士で知り合い、助け合う場が無いという課題があげられました。
 我々とK団地自治会が協働でフォーラムを開催し、こうした生活課題について話し合いましたが、その場で住宅団地維持に必要と考える項目のアンケートを実施しました。最も回答の多かったものは、小規模多機能で、それと同じくらい回答の多かったものは夜間病院でした。次に多かったものは高齢者向けの賃貸住宅でした。  そこで我々は、小規模多機能と夜間病院、高齢者向けの賃貸住宅をこの団地で整備・運営するビジネスモデルを検討しました。この団地にはショッピングセンター跡地や調整池跡地といった遊休地があり、この遊休地を事業用定期借地権で活用したビジネスモデルを検討しました。このビジネスモデルの考え方は、第1期の事業で住民ニーズの高い小規模多機能と夜間診察可能な医院を整備し、第2期、第3期で高齢者住宅建設と、その中に子育て支援ルーム・託児所の開設スペースと薬局やコンビニエンスストア等を導入するというものでした。定期借地権の借地料は固定資産税程度で考え、20年返済、利回り10%をめどに事業シミュレーションを回して、第1期での初期投資はおよそ1億円に抑えて、なるべく投資を集めやすくするという考えでした。