高齢者の安定的な生活を成立させるためには、介護が必要になったときの住まい、生活のことも考慮することが重要である。しかし、現状では、住み慣れた住宅を離れ、施設へ入所せざるを得ない状況がいまだ多い。
そこで第3回の今回は、福祉事業者サイドからの視点として、こぶし園の小山氏を招き、「福祉サイドからみた地域ケアと小規模多機能サービスの可能性」と題し、住まいと福祉サービスについて講演をして頂いた。小山氏は「出来る限り現在の生活を継続したい」という高齢者自身のニーズと、過重な負担を強いられる在宅介護者の双方を支えるシステムに取り組んでおり、様々な先駆的な事業を展開している。

■主 催
高齢社会研究会
■日 時
 

平成18年2月23日(木)

  18時00分〜20時30分
■会 場
 

住宅生産団体連合会 会議室

 

1.挨拶
園田眞理子(明治大学助教授)
2.第1部 講演「福祉サイドからみた地域ケアと小規模多機能サービスの可能性
  講師 小山 剛氏(高齢者総合ケアセンターこぶし園 園長)
3.第2部 座談会
  司会進行 園田眞理子(明治大学助教授)
  メンバー 高齢社会研究会
    住宅生産団体連合会会員企業メンバー
 
あ
   
 

 

1.従来型施設の利点と問題点 〜在宅と比較して〜
 1−1.利点
  ・24時間365日の介護サービスを受けられる
・介護度やサービス量に関係なく定額負担となっている。

 1−2.問題点
  ・在宅が困難(住宅の広さ、家族の負担)だからという理由なので
  本人の意思に関わらず施設へ収容
・ハードの投資が高額(数千万円単位)
・生活環境は狭い、そして生活がない。(監視しやすい居住空間)
 
2.新たなサービス提供システムの方向性
 2−1.地域限定サービス(地域密着型サービス)の創設
   従来は地域外から利用者を施設に集めてきたため、地域とは切り離されていた。
要介護者の住み慣れた地域での生活を支えるため、身近な市町村で、地域単位での適正なサービスが必要である。
 2−2.住まいと介護の分離
   施設とは、手厚い介護サービスを効率的に提供するために利用者を集約したものである。
 しかし、そのサービス内容は決して施設内でしかできないことではなく、在宅、地域内でも可能である。住まいと介護サービスを分離し、組み合わせた仕組みを作れば、サービスの質を落とさず、住み慣れた地域で生活し続けることが可能となる。
 2005年10月の介護保険の制度改正に伴い、施設でもホテルコストを徴収することになり、今後は、住まいと介護の分離は進むであろう。
3.こぶし園での取り組み 〜サポートセンター構想〜
 3−1.サポートセンターの概要
   サポートセンターとは、従来の施設ではなく、住み慣れた地域における生活を支援するサービスセンターを意味する。
  また、これは施設と同様のフルタイム・フルサービスを提供するサービスセンターを地域へ分散させるものである。
 3−2.サポートセンターの一事例「サポートセンター永田」
   サポートセンター永田では、居住部分は通常のアパートとして民間事業者が担当し、介護部分はフルタイム・フルサービスを提供する社会福祉法人が担当している。
 これにより、介護事業者が高齢者住宅を作ったり、住宅メーカーがサービスを抱え込む必要はなく、それぞれが住まい、サービスの質を担保でき、お互いの専門に特化した事業の展開が見込める。
 

 第1部の結果にもとづき、「福祉サイドからみた地域ケアと小規模多機能サービスの可能性」について、さらに掘り下げて議論した。

  1.小規模多機能ということで、25人の枠を作られているが、提供する側のサービスを整えたら25人の枠でなくても、今の介護保険サービスを使って同じようなサービスの提供が出来ると思うがどうか。
    これは定員25名限定枠で、介護保険をまるめたサービスになるので、他の介護保険サービスは使えない。つまり施設に入っている人が他のサービスを使えないのと同じ発想。しかし、25名はスタート時の話であって、15名で足りるエリアに25名作ったら無駄になるし、28名必要なエリアに25名じゃサービスにならない。その地域のサイズを理解できる時代になったら、その地域に必要な数で十分だと思う。
 
  2.小規模多機能はかなりエリア限定で、サービスを受けている方から見ると、そのエリアにどの事業者が出てきたかによって天国にも地獄にもなりうる。しかもすごく計画的に行政がエリア圏域を設定されるので競争の原理が働かなくなって寡占状態になる可能性もある。この点についてはどうか。
    この制度を作る前提として、運営協議会を立ち上げることになっている。そのサービスには必ず隣近所の代表者、行政担当者、包括支援センターを入れてその運営を監視する運営協議会を立ち上げないと認めない。二ヶ月に一回会議を開いて、報告をして、必ず評価を受け続けないといけない仕組みだ。後は、利用する側が利口になるしかないというのが原点になる。
 
  3.夜間対応の訪問サービスも必要だと感じた。緊急時だけではなく巡回の安否確認も今回の地域密着サービスに含まれるのか。
    基本的に訪問介護の種類としては3種類あります。まず第一は、従前からの一回毎に利用料を積み上げていくシステム。それも50%割り増しになる夜間料金がまだ残っている。
  今回新たに出来た夜間対応型は会員クラブ制とまるめ制の2種類だ。会員クラブ制は1000円で会員登録してその都度、別に利用料を払う。要介護度3で計算すると昼間・夜間定時に一回づつ行って、月に6回ナースコール押すと保険給付額を上回る。7回目からは自己負担の部分。一番安いのは小規模多機能の利用者になる方法で23000円で全部込みになる。
 
 
  4.ハウスメーカーサイドとしては、住宅地を分譲する時、どうすればよいか。
 

  バリアフリーでちょっと小ぶりの老夫婦向けのような上ものを用意し、小規模多機能サービスをやってくれる事業者を誘致してお互いにギヴ&テイクでコラボレートするのがベストな方法ではないか。本事例の永田はそれの第一号の試行モデル。

 
 
  5.小規模多機能サービスでは、サービスを量として捉えるのではなく、個人個人で多少の利用内容の違いが出てくるのをまとめて考えているのか。
    施設と同じように、その時に必要な人を見る。これが今までの在宅と発想が違っている。施設では、実際呼ばれたら行かなきゃならない。プラン上は入っていなくても、倒れるって言われたら放っとけない。これと同じ仕組みを在宅にし、住宅だけがバラバラでその人と状況に依って必要なときにサービスを届ける仕組みで考えている。
 
   
  6.今回の永田の事例は居住部分とセットだが、必ずセットなのか。
    永田の場合、住宅とサービス内容は全くの別物である。セットではなくて、別だが、たまたまデイセンターの隣に高齢者住宅を配置した仕組みだ。何で住宅を隣に置いたかは、一般の人はまだ分かっていないからである。まるめサービスの仕組み自体もまだよく分からず、不安を持っている。
  だから、住宅を近くに配置して一番近いアパートが便利だと提案する。でも100m先のアパートでも便利だという事。住宅の立地はどこでもあまり関係なく、専用室・居室は自宅で、介護サービス機関だけが町の真ん中にあるという考えだ。
 
 
  7.田舎で中学校区規模の人口2,3万人のマーケットというと、随分、広範囲になる地域もあると思うのだが。
    加算料金や品質の低下などあるだろうが、その住宅を選択した時点で、そういうマーケットを選択したという事になる。そういう違いがあって当然だという事に気づかなければならない。住まう方の責任もある。