北欧流『ふつう』暮らしから読み解く環境デザイン
東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科 教授 水村容子氏
2018年7月
「北欧流『ふつう』暮らしから読み解く環境デザイン」をテーマに、スウェーデン、フィンランド、デンマークで生活・研究をされた先生方より、北欧に見る様々な環境デザインや社会的取組み、運用するためのシステム、その背景にある考え方等を、5月10日に発刊された同タイトルの書籍をもとにしたご講演をいただきました。
(1) はじめに
我々がこのたび書籍「北欧流『ふつう』暮らしから読み解く環境デザイン」を書いた動機は、故外山義先生のいっておられた、スウェーデンと日本の生活の枠組みの違いというものを、強く意識するようになったということです。日本では一般的に「衣・食・住の枠組みで生活をとらえますが、スウェーデンでは「住まい・仕事・余暇:の枠組みで生活をとらえ、特に「住まい」が枠組みの最初に位置付けられるとのことでした。
本日はこの書籍からスウェーデンにおける「コレクティブハウスのコモンスペース 自主運営」「ストックホルムにおける住宅地格差の出現と再生に向けた試みという2つのテーマをピックアップしてお話しします。この書籍ではほかにも様々なテーマで北欧の暮らしについて詳しく述べており、ぜひ書籍の方もご覧になっていただきたいと思います。
(2) コレクティブハウスのコモンスペースと自主運営
ヨーロッパにおけるコ・ハウジングは、ユートピア思想に起源を持つと言われています。1506年、トマス・ムーアは著書「ユートピア」において、「近隣住民同士で、共用の食堂を各種余暇施設とともに利用しあう住まい方が理想的である」と主張しました。同様の考えは、フランスの思想家シャルル・フーリエが19世紀初頭に描いた「フォランステール」にも見ることができます。
セントラルキッチンは20世紀初頭のヨーロッパにおいて、使用人を雇えない中下層階級の労働合理化の観点から登場しました。これは集合住宅に設置されたセントラルキッチンにおいて住民が当番制で調理を行い、各住戸へ配食するものです。1905〜1907年にかけてストックホルムにヘムゴーデン・セントラルキッチンが建設され、ベルリン、ハンブルグ、チューリッヒ、プラハ、ロンドン、ウィーンにも同様の住宅が建設されました。ストックホルムのエステルマルム地区に建設されたヘムゴーデンは、60住戸からなる集合住宅であり、セントラル・キッチンは地階に設置され、各住戸から内線で食事を注文していました。
1976年にフェミニスト集団「グループ8」が、もともとレストランだった建物を使ったコ・ハウジングにおいて、厨房における住民自身による調理活動を開始し、現在も継続しています。コ・ハウジングの300世帯中50世帯が参加しています。また、女性運動団体「ビック (BiG)」は1970年代後半、新たなコ・ハウジングの建設を推進した「協働モデル BiGモデル」を構築しました。1960年代初頭以降、子どものいる既婚女性の就労率が向上し、保育サービスに加えて、新たな就労支援のためのサービス需要として注目されていたからです。
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