総 評

第21回「家やまちの絵本」コンクールには、今年も昨年に続き1,000 点を超える多くの作品が寄せられました。審査会は例年どおり、第1次審査会、第2次審査会、そして最終審査会の3 段階で、6日間にわたって行われました。私たち審査委員は応募作品を一つひとつじっくり読み込み、クスッと笑ったり、ハッと考え込んだりする時間を共有しながら、ていねいに意見を交わして審査を行いました。応募作品から浮かび上がった気づきを、以下に記します。

まず、「つくるよろこび」に満ちた絵本は、読者にもその思いが伝わります。生成AI の進化は著しく、上手に使いこなす力が求められる時代になりました。たしかに便利なツールですが、そこには、時間をかけて自ら手を動かし、だんだんと出来ていき、ときに後戻りして、ようやく完成に至る過程と、そこから生まれるよろこびはありません。将来的には、生成AI を利用した絵本が生まれるかもしれませんが、「つくるよろこび」を忘れないでほしいと願っています。

そして、物語を完結させずに、最後に読者に「問い」を投げかける作品がいくつかみられました。とくに、「子どもの部」の応募作品に多く、これは、主体的・対話的で深い学びのために学校の授業でアクティブラーニングに慣れている子どもたちが身につけた視点といえるかもしれません。人材育成の分野では、Teaching(教える)とCoaching(引き出す)という考え方があります。
このような背景を踏まえると、「問い」はますます重要になるでしょう。しかし、物語の世界をしっかりつくりあげてこそ、良質な問いが生まれると考えます。

今回は残念ながら受賞に至らなかった作品のなかにも、魅力的な絵本がたくさんありました。どうかめげずに絵本づくりを楽しみ続けてください。来年も「つくるよろこび」に満ちた作品に出会えることを、審査委員一同、心より楽しみにしています。

2025年9月
第21回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
東洋大学 教授 仲 綾子


審査委員 応募総数 : 1,082作品
仲  綾子 (東洋大学 福祉社会デザイン学部
 人間環境デザイン学科 教授)
子どもの部 314 作品
志村 優子 (まちづくりプランナー) 中学生・高校生の部 704 作品
北方 美穂 (出版社 取締役) 大人の部 32 作品
鮫島 良一 (鶴見大学短期大学部 保育科 准教授) 合作の部 32 作品
志村 直愛 (東北芸術工科大学 芸術学部
 歴史遺産学科 教授)
   
槇  英子 (淑徳大学 総合福祉学部 教授)
大島 敦仁 (国土交通省 住宅局
 住宅生産課 木造住宅振興室長)
相原 康生 (住宅金融支援機構 技術総合サポート部長)
松尾 知香 (都市再生機構 総務部 広報室長)
平松 幹朗 (住宅生産団体連合会 専務理事)

国土交通大臣賞 受賞作品


絵本を読む
子どもの部

どの字に住もうかな?

土屋 晴 ―市川市立妙典小学校5年(千葉県)―
講評:
「字」に住むという発想にまず驚かされます。わくわくしながら表紙をめくると、ひらがな・カタカナ・アルファベットの字形の特徴を活かした家が次々に現れます。例えば、「あ」の囲まれた部分は部屋、「ネ」の斜めの部分は坂、「H」の横棒にはブランコが吊られています。一つひとつの家に主人公の男の子が描かれ、その家で何ができるのか一目で伝わります。「ネ」では男の子が坂に寝ころがって本を読んでいます。ページごとに「字」の色が変わり、カラフルで美しい構成です。さまざまな家を体験した男の子は最後に素てきな家とは何かを知ります。発想から思考プロセスまで秀逸な作品です。

文部科学大臣奨励賞 受賞作品


絵本を読む
子どもの部

こころの お家

清水 悠璃 ―市川市立妙典小学校2年(千葉県)―
講評:
家づくりを通して、言葉の大切さを教えてくれる作品です。ゆうちゃんは犬のスピカちゃんと言葉でできた家の部品をさがしに行きます。「あいさつことば」で柱を、「友だちことば」で壁を手に入れたあとに出会う「気もちがまっ黒になることばのお店」は衝撃的です。カラフルで美しい世界から一転してモノトーンの世界に引き込まれ、その恐ろしさが強く印象づけられます。そこを抜けると「パパとママの言葉のお店」です。再び色彩が戻り、世界が輝きます。大切な言葉が書かれた屋根の部品を手に入れて、二人はすてきな家を建てました。読み終えると心が温かくなる一冊です。


絵本を読む

中学生・高校生の部私の住む町 魅力図鑑

安斎 桃歌 ―福島県立福島西高等学校1年(福島県)―
講評:
福島県・飯坂町の魅力をみずみずしい視点で伝える力作です。歴史や文化を伝える場所、日々の暮らしに寄り添うお店、さらに、イベントやバンドなど、多岐に渡って紹介されています。お店の佇まいは色鉛筆でていねいに描かれ、名物のからあげやカステラなども添えられており、いますぐ飯坂町を訪ねたくなります。店名看板も描かれているのですぐに見つけられそうです。最後に、飯坂町の地形「たくさんの坂」を取り上げ、観光客と地元の人の受け止め方の違いがユーモアを交えて表現されています。このような図鑑が全国各地でつくられますようにと願いたくなる魅力に満ちた作品です。

住宅金融支援機構理事長賞 受賞作品


絵本を読む
大人の部

しーちゃんの すてきなお家

後河内 寛美 ―(広島県)―
講評:
ストーリーも絵も読み応え、見応えのある作品です。見開きページの構成が見事で、商店街のパースや小さなアパートの俯瞰図は、まちや家への愛着をよく伝えています。また、お母さんが入院したときの心情変化やルンちゃんの家での楽しい時間が背景色やシーンの積み重ねなどさまざまな手法で的確に表現されています。薪ストーブやソファなどの家具にも目が向けられ、ていねいに描写されています。特筆すべきは、「窓」に着目した点です。「自分の家がいちばん」で終えず、将来の夢へつなぐ構成が秀逸です。裏表紙の家族写真とひまわりが時間の連続性をやさしく伝えてくれます。

都市再生機構理事長賞 受賞作品


絵本を読む
大人の部

かわるもの かわらないもの

野中 菫 ―武蔵野大学4年(東京都)―
講評:
タイトルに込められた作者の思いが、絵本として高い完成度で結実しています。住民が去り、空き家がさびれ、やがて住民が戻り、手を加えて住み続ける。現実の世界で起こっていることを、湖のほとりに住むりすさんとアヒルさんの物語として追体験できます。グラフィック表現としては、余白をうまく活かしたテキストの配置が巧みです。イラストには無駄な線がなく、読み手の想像力を掻き立てます。作者のメッセージを伝えるだけでなく、テキストのない最終ページでは、その先の物語が読者にゆだねられているようです。

住生活月間中央イベント実行委員会委員長賞 受賞作品


絵本を読む
中学生・高校生の部

ポンコのお家

鈴木 優那 ―尚志学園尚志高等学校2年(福島県)―
講評:
水彩であざやかに描かれた美しい作品です。ティーカップや絵画など細部までていねいに描き込まれています。悩んだり、悲しんだりするぬいぐるみの心理描写も背景の色彩を用いてうまく表現されています。
実際の家づくりに欠かせない「設計図を描く」という大切なプロセスが、ポンコが立面図を描くシーンでわかりやすく表現されている点も見どころです。さらに、ひとりでは難しいことも、みんなで力を合わせれば実現できるという前向きなメッセージが最後に示されます。

絵本を読む
大人の部

近所だけど

橋 俊英 ―(福岡県)―
講評:
卓本コンクールの常連である作者らしく、ストーリー展開、コマ割り、キャラクターの設定が安定しており、まるでプロの絵本作家によるシリーズ作のような完成度です。今回の作品は、クライマックスに向かって展開する構成が見事で、巧みなカメラワークのような視点の設定により、読者は空くんと海くんの後ろについて小さな冒険に同行している気持ちになります。タイトルの「近所だけど」は、身のまわりの環境を見直そうという気づきを与えてくれます。読者は近所に出かけたくなることでしょう。

絵本を読む
合作の部

アリすけのぼうけん

向 諒 ―高槻市立土室小学校4年(大阪府)―
向 美恵
講評:
折り紙を手でちぎり、一枚一枚ていねいに根気よく貼り重ねた大作です。全ページに登場するアリの「アリすけ」は、目や口の表情が豊かで、よろこんだり、驚いたり、戦ったりと生き生きしています。背景の土、野原、かたい地面、田んぼなども、それぞれの特徴がよく捉えられています。白い角砂糖は細かくちぎった白紙をたくさん貼り付けて、質感を伝えています。金紙と銀紙は特別なものだけに使われ、ストーリー展開を理解できるように工夫されています。じっと近くで見つめたり、遠くから全体を眺めたりしたくなる一冊です。

絵本を読む
合作の部

ふしぎなまちのドーナツやさん

長谷川 翔子
長谷川 澪理 ―船橋市立船橋小学校2年(千葉県)―
長谷川 怜華 ―船橋市立湊町保育園年少(千葉県)―
講評:
「あなのなかをのぞいてごらん」と誘われてページをめくると、ドーナツの味にふさわしい風景のまちが描かれています。味と言っても、ただの「チョコあじ」や「マショマロあじ」ではありません。「いろいろチョコあじ」や「ふわふわまっしろマシュマロあじ」といった独自の設定が光り、そこから膨らむイメージが魅力的です。本作は4歳と7歳、そしてお母さんの合作で、きょうだい、親子が分担しながら力を合わせてつくりあげています。最後のページにしかけがあり、読み終えても物語は続きます。あなたはこの先をどう描きますか。

審査員特別賞 受賞作品


絵本を読む
合作の部

ぼくの まちに いたら いいな

岡本 柊 ―赤穂市立塩屋幼稚園年長(兵庫県)―
岡本 綾美
講評:
恐竜や海の生き物の背景には、勢いのあるタッチで乾いた大地や深海の様子などが描かれ、それぞれの生き物にふさわしい環境があることが読み取れます。青一色で表現したページ、カラフルな生き物が集うページ、同系色でまとめたページなどが、画面のリズムも心地よく、めくるたびに発見があります。1ページ1ページを大切に味わいたくなる一冊です。
子どもの部

絵本を読む

おたすけメガネ

能美 碧空 ―武蔵村山市立雷塚小学校2年(東京都)―
講評:
まあるい顔の動物がハートと星の眼鏡をかけている表紙。大胆でインパクトのある絵に最初から心を掴まれます。ページをめくるごとに、のびのびと描かれた線と鮮やかな色のイラストが次々目に飛び込んできます。タヌキのポンタのメガネ屋さんでは、困っている人それぞれに役立つ「おたすけメガネ」を作っていて、お祖父さんや孫も大助かり。その手渡すメガネのデザインも困りごとに応じた素敵なデザインなのです。僕も困ったら行ってみよぅっと。

絵本を読む

ぼくの家にはこびとがいる

加藤 迅 ―相模原市立二本松小学校3年(神奈川県)―
講評:
“ぼくの家には小人がいる。なんでって?僕のおもちゃがなくなっていたからだ“。スタートからいきなりクスッとさせてくれます。さらにその後の展開がとっても面白くて、小人は何をしているか推理する感じで話が進んでいきます。1ページごとにそのエピソードが描かれているのですが、ユーモアたっぷりな発想と絵が相まって、読者を想像の世界に引き込んでいきます。最後の最後まで、クスッとさせられる魅力ある作品です。

絵本を読む

ライオンくんの家

石川 奨真 ―三豊市立上高野小学校2年(香川県)―
講評:
主人公は北海道に住む孤独なライオン。友達が欲しくて日本中を旅します。そしてなぜか気に入ったのが香川県。そこで出会った虎とバスに乗って動物園に…。このあたりから、画面が立体的に飛び出して読者をびっくりさせます。次々色々な仕掛けがあったかと思っていると、たくさんの動物たちが登場し、サッカーをしたりおやつを食べたりして仲良くなって、ついにはそこが「ぼくの家」になっていきます。力強くて工夫に満ちた絵本です。

絵本を読む

みかんの 町

長澤 楓 ―さいたま市立見沼小学校3年(埼玉県)―
講評:
みかんを食べたくなった2人のみかんのキャラクター(たまみとタロッコ)が町に出かけると、面白い色と形をしたみかんが売っているみかん屋がずらり。あまりに美味しそうで、ついつい全部買ってしまって持ち帰ると、家の中に入りきらない。残りのみかんを家の周りに植えると、次の日にはみかんの木でいっぱいに…。みかんのやさしいオレンジ色と葉っぱのグリーンの色合いを基調とした、夢とみかんがたくさん詰まった美しくてHappyな絵本です。

絵本を読む

だいすきな えんがわ

古谷 灯 ―川越市立泉小学校1年(埼玉県)―
講評:
最近の夏は猛暑続きで、どの家もクーラー全開で窓を閉め切っていますが、かつての日本の家の多くには縁側という室内と外の緩衝地帯があって、上手に自然と付き合っていました。そんな縁側で過ごす楽しい時間のことを小学1年生の作者が素敵な絵本にしてくれました。おじいちゃんとお茶したり、スイカが届いたり、ゴロンと横になったり、花火を見たり…。縁側は、部屋とはちょっと違った特別な場所でもあることを、大人たちは思い出して胸がきゅんとなりました。
中学生・高校生の部

絵本を読む

ビタミンくん

緒方 求真 ―粕屋町立粕屋中学校3年(福岡県)―
講評:
主人公はビタミンくん。体調が悪いハムスターくんにはビタミンCに変身してビタミンCを分けてあげます。この主人公を思いついたのは、自由研究の成果だったとか。主役のビタミンくんは、ビタミンAにもBにも変身してみんなを助けてあげるのですが、自分のビタミンも足りなくなると、栄養満点シチューで友だちに助けてもらいます。主役のビタミンくんの表情やしぐさの表現がとても豊かで楽しい絵本の展開になっています。とても素敵なキャラクターが誕生しました。

絵本を読む

この家であなたと

稲熊 陽向 ―名古屋市立本城中学校2年(愛知県)―
講評:
色鉛筆で丁寧にぬられた絵の完成度が高く、引き込まれる作品です。「あなた」と暮らす主人公の「私」は猫です。真っ暗になっている猫の心を表現するページはきれいに暗闇を塗り込み、幸せを願えるようになった心のページは暖かい光にあふれています。言葉を尽くさなくても、絵の構図の描き分け方や色遣いで、猫の心の動きが手に取るようにわかります。私にとって「この家」がどれほどの宝物なのか、読者に共感を呼ぶ作品です。

絵本を読む

グローブがつないだ約束

杉山 瑛都 ―松戸市立第一中学校3年(千葉県)―
講評:
街の古道具屋に飾られていたぼろぼろのグローブが、ぼくを70年前の世界へいざないます。そこには子どもの声があふれ、みんなで楽しく野球をしていた70年前の空き地。70年前と現代を行き来するぼくの不思議な経験が、背景の色を変えることで表現されています。子どもが伸び伸びと遊ぶ空き地を守っていきたいという作者の願いが温かく伝わる作品です。70年前と現代の場面の描き分けや最後のふたつのボールの絵の工夫が冴えています。

絵本を読む

美しい町 のつくり方

磯部 蒼 ―長崎市立茂木中学校3年(長崎県)―
講評:
汚れているまちをきれいにして、自分が治めるにふさわしいまちづくりの行動に出る王子様。病気の人が多いことを知ると、金でできた自分の家を壊してお金にして、病人を助けます。絵本のページもすっかりカラフルできれいなまちが広がります。そして王子は素敵な王様になるという、まちづくりのお話。自分の家をガンガン壊している王子の横で、驚いておろおろする王様とお妃様の表情がとてもよく描けています。美しくて、まちのみんなが生き生きとしあわせに暮らせるまちができました。

絵本を読む

森のレストランと 不思議なお客様    

山 希子 地子 のど花 ―旭川市立永山中学校3年(北海道)―
講評:
森のレストランで働いているのは動物たち。そこへやってきたお客様は、人間の女の子でした。動揺する動物たちですが、「怖がらないで精一杯のおもてなしをしよう」とがんばります。見開きで展開される動物たちが料理する絵は、包丁を持つ姿も材料を測る姿も一生懸命さが伝わってきます。文化や背景が違う見知らぬ人との交流についても、こんな森のレストランみたいにできるんじゃないかしら、と思わせます。絵とストーリーの完成度が高く、温かい気持ちにしてくれる作品です。
大人の部

絵本を読む

だれのおうち?

安藤 邦緒 (岐阜県)
講評:
誰の家か?をクイズ形式にして、飛び出す絵本形式で巧みに立体化された家と、サイドにこれまた飛び出す立体表現でそこに住む動物たちの答えを表現したアクティブな絵本です。毎年極めて手の込んだ立体表現で飛び出す絵本を10年以上も応募してくださる常連作者の作品は、審査委員サイドでは毎年楽しみにすらなっているほどです。平面作画の鮮やかさと立体表現の巧みさは、絵本を手にする誰をも間違いなくワクワクさせてくれます。

絵本を読む

しあわせを はこぶつる

長山 佳世 (兵庫県)
講評:
自分の街が大好きな主人公が折った折り鶴が、世界中を飛び回り、さまざまな困難に見舞われている人々をしあわせにしていくというファンタジックなストーリーです。暑い南の国から雪に埋もれた北の国まで、それぞれの国々の風景が表情豊かに描かれ、一緒に旅をしているような想いにさせてくれる描写です。平和の象徴とも言える折り鶴を擬人化し、しあわせは身近なところにあるものという温かな気付きを伝えるメッセージが、家族団欒の家庭、まち、地球の姿に投影されています。

絵本を読む

クリスマスプレゼントは おとなりさん

三海 早苗 (福岡県)
講評:
森の中に住むサンタクロースの家に、出会った森の動物たちが一緒に住むこととなり、賑やかになった後、すっかり狭くなったサンタの家から気遣って出ていく動物たちと、逆に寂しくなってしまったサンタへの逆プレゼントとして、動物たちがサンタの周りに家を建て、集まって住むという心温まるストーリーです。一貫して寒い冬の風景の中で、コミュニティが希薄な現代へのメッセージとして温かさの大切さを描くタッチが微笑ましい作品です。

絵本を読む

みゆきまちのおはなし

石黒 聡子 (広島県)
講評:
元気だけれど、帰り道がわからなくなってしまう散歩が大好きなおじいちゃんをめぐって、心優しいまちの住民たちが度々登場しておじいちゃんを助けてくれるというストーリーです。絵本らしく、助けてくれる登場人物は実は虫や動物たちで、それぞれの好みに合ったお礼が家族から手渡される展開になっています。色鉛筆でしっかり描き込まれた登場人物たちの存在感や、そのやさしい表情が、人間に代わってまちのコミュニティーの温かさやその大切さを巧みに伝えてくれています。

絵本を読む

おとうさん おかあさんへ

豊田 奈津美 (東京都)―
講評:
結婚後10年を経た作者が、ご自身のおとうさん、おかあさんに向けて書いた手紙の形で展開するメッセージ性の高い作品です。11年前にパートナーを紹介した瞬間から、転勤を重ね、さまざまに過ごした街の様子を紹介しながら回想していくストーリーです。挿絵のように添えられた作画自体は淡く、極めてシンプルな構成、タッチですが、結婚して家を出てからの人生を振り返りながら、最近なかなか会えないご両親への感謝の気持ちや募る想いがひしひしと伝わってきます。
合作の部

絵本を読む

わたしのまち

中村 真渚 ―横浜市立田奈小学校3年(神奈川県)―
中村 早知子
講評:
なぜ自分の町が好きなのかをつづった文章からインスピレーションを得て描かれた水彩画が美しい親子の合作絵本。身近な生き物たちがたくさん登場するやさしくあたたかな絵からは、「わたしのまち」への愛が溢れています。「だからすき」の繰り返しのリズム感と透明感のある絵の調和が心地よく、読後に安らぎとさわやかさが残ります。絵本で描かれる「好きな理由」は特別なことではありません。読者も、自分の町が好きな理由を思わず探したくなる絵本です。

絵本を読む

ぼくたちの ツリーハウス

櫻井 優茉 ―墨田区立第三寺島小学校2年(東京都)―
櫻井 志保
講評:
作者の鳥類に対する愛情と造詣の深さに心動かされる絵本。冒頭の「鳥とくらす町には今日もたくさんのおどろきと発見でいっぱいだ」から、一気に鳥と共に生きる魅力に引き込まれていきます。はじめに登場する鳥が「コウヨウチョウ」であることに読者は驚くのではないでしょうか。登場する鳥の種類もその紹介文もイラストも、高い専門性に裏付けられており、読後に鳥たちの世界への敬意すら感じさせてくれる親子合作ならではの作品です。

絵本を読む

みんなは どんな おうちに すみたい?

赤堀 永果 ―高野町立高野山小学校4年(和歌山県)―
赤堀 史
講評:
タイトルがそのまま読者への問いかけになっている絵本。登場人物は、それぞれの理想のおうちについて本音で語りますが、おばあちゃんの登場によって、どんなおうちが良いのかに気づかされます。イラストがすっきりとしていながら表情豊かで伝わりやすく、画面構成も巧みです。そして、なんといっても最後に「やっぱり」があるのが魅力です。ぜひ、作者の問いかけをきっかけに、それぞれの理想の家のイメージを広げてみてください。

絵本を読む

ふしぎな おうち

佐藤 史花 ―佐久市立臼田小学校1年(長野県)―
佐藤 愛
講評:
小学1年生の主人公が不思議な出来事に引きこまれ、読者も同じ気持ちを味わいながら、最後には一緒にほっとできる絵本。イラストの線がとてもやわらかく、クレヨンでの着色にも親子合作の温かみが感じられます。作者も同じ1年生、自分で登校するわくわく感やドキドキから生まれた作品なのかもしれません。種明かしのページからは、通学路のいろいろなお店や見守るまちの人々に気づき、楽しみを見つけてほしいというメッセージが感じられます。

絵本を読む

しあわせいろの カメレオン

手島 理仁 ―板橋区立志村第二小学校3年(東京都)―
手島 光希 ―板橋区立志村第二小学校1年(東京都)―
手島 実里
講評:
スタンプ技法を用いたデザイン性の高い絵本。親子でスタンプを重ねる様子が目に浮かびます。はじめに主人公のカメレオンは色で気持ちを伝えあう生き物であることが紹介されます。
そのため、その後の色の変化がとても気になり、少しずつ勇気を出すことで色が変化していくカメレオンを思わず応援したくなります。最後にしあわせいろになったカメレオンを祝福しつつ、自分がどんな色で日々を過ごしているかを振り返りたくなる絵本です。