東京23区内の鉄道駅勢圏の宅地の市場価値

はじめに

不動産市場分析では、不動産の価値に影響を与えそうな様々な要因を表す指標を用いて、不動産価格を説明するということがしばしば行われます。そのような分析はヘドニック分析と呼ばれ、不動産経済分析ではよく目にします。
不動産の価値に大きな影響を及ぼす要因として、都市内における相対的な位置があります。一般に、都心に近いほど地価は高く、郊外に行くほど安くなります。都心は人々が集まり、商業が集積していて利便性も高いためです。そのため、都心へのアクセスは不動産価格を形成する重要な要因と考えられているのです。そのような要因を端的に表す変数としては、中心駅までの時間距離があります。東京23区で言えば、東京駅から最寄り駅までの所要時間です。
ところで、ある駅の周辺に住んでいる人が、必ずその都市の中心駅に行くわけではありません。職場や買い物先はいろいろなところにあり、23区に住んでいる人たちでも、毎日のように東京駅に行く人は限られた数でしかありません。このように考えてみると、例えば、23区内の鉄道駅勢圏の宅地の市場価値は、東京駅までの時間距離よりももっと良い説明の仕方があるのではないでしょうか。そこで、東京23区内の鉄道駅の不動産市場における価値を駅勢圏の宅地価格から求めてみようと思います。

分析方法

ここでは、2010年から2019年のREINSに登録されたデータを使います。このデータは、公益財団法人東日本不動産流通機構より東京大学不動産イノベーション研究センターに研究用として提供されたものです。その中で、東京23区内で、売買成約した土地の中で欠損値があるデータを除いた7149件を使いました。成約価格を土地の面積で除した値を単価とし、これを目的変数とする重回帰分析を行いました。
説明変数としては、土地面積、取引年、取引四半期、鉄道駅、駅から宅地までの徒歩時間、上物の有無、登記上の土地利用、用途地域、指定建蔽率、指定容積率、地勢、接道状況、接道幅、接道方向、接道幅員、東京駅距離(最寄りの鉄道駅から東京駅までの距離、時間距離の代理変数)を用いました。

「駅の価値」の分析結果

結果を図1に示します。駅ダミーとはそれぞれの鉄道駅に対して、最寄り駅がその駅の場合に1、そうでない場合に0の値をとる変数です。駅ダミーの回帰係数と東京駅距離×東京駅距離の回帰係数を合わせた値を駅の価値と呼ぶことにします。この図では、駅の価値で色分けしています。この値は、最寄り駅がある駅であるときの土地の単価がどのくらい上がるのかを示します。図から明らかなように、都心部の駅ほど価値が高くなっています。もちろん、これは予想通りですね。また、都心からどちらの方向に行っても遠ざかるにつれて価値は下がっています。図1では二か所価値が著しく高いところがあります。一番高いのは東銀座、次が六本木です。そして、御成門、東京、銀座と続きます。


図1 駅の価値(駅ダミーと東京駅距離を合わせた効果)(円/u)

東京駅距離と駅の価値の関係を示したのが図2です。図の緑色の点が駅の価値を表します。青い点は、駅の価値のうち東京駅までの直線距離だけで説明される分を表します。この図から、駅の価値は中心部では、直線で説明できる以上に地価が高いと分かります。都心までの距離で駅の価値を代替しようとしても、十分に説明しきれないというわけです。都心から離れたときの価値の減衰は東京駅距離と直線的な関係なのではなく、もっと減衰が激しいのです。



図2 東京駅と駅の価値の関係

他の説明変数と土地の価値との関係

重回帰分析結果からは、他の説明変数と土地の価値との関係もわかります。そこでいくつか、ここで紹介してみます。
図3は取引年と地価との関係を示しています。このグラフはY2019すなわち、2019年の地価水準を0としたときの取引年による効果を表しています。2012年まで地価は減少し、その後地価は2018年まで上昇したと言えます。2019年は2018年よりは多少下がりましたが大きな減少ではありません。2019年と比べて2012年では140kつまり、14万円/uくらい低かったことになります。
図4は指定容積率と地価との関係を示しています。まず、このグラフはF200を0に基準化した値です。F100は指定容積率が100%以下、F150は指定容積率が100%を超えて150%以下、ベースとなっているF200は指定容積率が150%を超えて200%以下を表します。この図から明らかに指定容積率が高くなるほど地価が上がっています。ただ、F800は他よりも特別高いですね。つまり、高容積地域の土地は希少性があるので、市場では高く評価されたのだと考えることができます。



図3 取引年と土地の価値


図4 指定容積率と土地の価値

おわりに

ここでは土地の売買価格を用いて、近接する駅による地価を求める試みをしてみました。分析の結果、しばしば都心と考えられている東京駅からの距離と地価の減衰の関係を見ると、も距離による減衰は激しいことがわかりました。今回は売買の事例だけに基づいていますが、他にも住宅、事務所などの建物利用がある場合や賃料に基づく分析も可能です。今後、そのような分析例についても考えてみたいと思います。

出典

・地価データ
REINSデータ(公益財団法人東日本不動産流通機構)
・駅座標データ
国土数値情報(鉄道データ)(国土交通省)(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-N02-v2_3.html)及び国土数値情報(行政区域データ)(国土交通省)(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-N03-v3_0.html)を加工して作成
・背景地図
Map tiles by Stamen Design, under CC BY 3.0. Data by OpenStreetMap, under ODbL.

文責:浅見泰司・西颯人