まちなみ写真への印象評価から見た「地域らしさ」の評価構造の分析

◆はじめに

日本の多くの都市が「成熟期」を迎える中、都市再生においては、利便性や快適性といった都市の普遍的魅力だけでなく、地域の歴史・文化やオーセンティシティ、コミュニティといった都市の「固有の魅力」を高めていくことが重視されています[1]。例えばオーセンティシティ(本物のまちの雰囲気、地域らしさ)については、歴史的建造物を保存することや、都市開発において地域の歴史や文脈を継承することで確保していくことが求められています。しかし現実には「日本全国が画一的な街並みになっている」ことも指摘され、その一因として「自然的条件や歴史的経緯を通して生まれた自らの地域について固有性を見出すことができていない」ことが挙げられています[2]。 一方都市計画の分野では、従来の機能主義的な空間の計画に対し、価値や意味を持つ「場所」の計画に注目が集まっており [3]、成熟期の都市における既成市街地の更新においては、場所の意味や価値を継承することが必要とされています[4]。場所のもつ意味や価値の中でも「場所/地域らしさ」は、都市や地域の保全において重要な概念となっています。場所らしさや地域らしさを把握し、計画や方針に反映することは、場所のもつ意味や価値を継承し、個性ある地域づくりを行う上で重要と考えられます。 しかし、「場所」に基づく都市の分析手法や計画プロセスは未だ確立されているわけではありません[5]。「地域らしさ」を生かした地域づくりも決して容易なことではなく、過去には地域らしさを生かし育むためのふるさと創生事業が、結果的に画一的な景観を生み出し、「没場所化」を引き起こしたこともありました[6]。「場所/地域らしさ」を含む場所の意味や価値を顕在化・言語化し、共有・反映する手法の確立が必要と考えられます[7]。 以上のことを踏まえて本稿では、まちなみ景観に対する印象評価アンケートを通じて、まちなみ景観における「地域らしさ」がどのように構成されているのかを明らかにすることを試みます。

◆対象地

対象地は、東京都足立区の竹ノ塚駅周辺(以下、「竹の塚」という)としました。竹の塚は足立区の北端、埼玉県との都県境に位置するエリアで、東武スカイツリーライン竹ノ塚駅を中心に広がる住宅・商業地区です。昭和期に整備されたUR団地群を中心に住宅地として発展し、カリンロード商店街や赤山街道沿いの商業施設など、多様な街並みが形成されてきました。一方で、長年にわたり「開かずの踏切」として知られた大踏切による東西分断や、老朽化した団地・公共施設といった課題を抱えてきた地区でもあります。 こうした状況を大きく変える契機となったのが、東武伊勢崎線(竹ノ塚駅付近)連続立体交差事業(鉄道高架化)です。平成23年度に事業認可されたこの事業により、令和4年3月に2か所の開かずの踏切が解消され、新駅舎が使用開始となりました[8]。さらに令和6年3月には全連続立体交差事業が完了し、鉄道によって分断されていた東西エリアが一体的につながりました[9]。この高架化を契機として、足立区・UR都市機構・東武鉄道株式会社の三者は令和4年3月にまちづくりに関する基本協定を締結し、「にぎわい・安心・豊かなみどりでつくる人が主役の竹の塚」を将来像として掲げ、駅周辺の一体的なまちづくりを進めています。令和6年には高架下に商業施設EQUiAが開業し、駅東口では竹の塚第三団地のストック再生事業や第一種市街地再開発事業の具体化に向けた検討も進んでいます[9]。 このように、竹の塚は大規模な都市更新の過渡期にあります。高架化後の街の変容が急速に進む中で、昭和期から受け継がれてきた下町的な雰囲気や商店街の景観、団地群の風景など、既存のまちなみが持つ「地域らしさ」をどう捉え、今後のまちづくりに活かすかは重要な課題といえます。本稿では、こうした更新期にある竹の塚を対象地として選定しました。

◆調査の概要

本記事では、竹ノ塚駅周辺のまちなみ景観に対する印象評価と「地域らしさ」の意識を把握するため、写真を用いたアンケート調査を実施しました。調査票は、東京大学住宅・都市解析研究室まちなみとすまい研究会が作成し、2026年1月から3月にかけてWebアンケートおよび紙媒体で実施しました。調査の概要は表1をご覧ください。 調査では、まず基本情報として、回答者の属性(年齢・性別・職業)と居住地や居住歴、来訪理由を尋ねました。 次に、街並み写真を用いた設問を設けました。竹ノ塚駅周辺の21か所を撮影した写真を1枚ずつ提示し、各写真について①認知・訪問頻度(6段階)、②まちなみの印象、③「竹の塚らしさ」を評価してもらいました。②③では、SD法(Semantic Differential method)と呼ばれる方法を用いました。SD法は、ある対象に対する印象やイメージを測定するための心理学的な調査手法で、対になった形容詞(例:「整然とした─雑然とした」)を提示し、その間の段階尺度の中から当てはまる位置を選んでもらうことで評価を得るものです。写真の21か所は、土地勘のある筆者が、竹の塚の様々な街区・通りの特性や駅の東側・西側を網羅するように選定しました(図1)。SD法に用いる形容詞対は、先行研究([10][11][12][13][14])を参考とし、複数の研究で用いられているものや、因子分析において評価傾向が分かれているものが含まれるようにし、また回答の負担を考慮して7対を選定しました(表1)。 最後に、竹ノ塚駅周辺で特に好きな場所や大切に思う場所、竹の塚らしいと感じる場所とその理由を尋ねるとともに、竹の塚の景観や街の雰囲気について感じていることを幅広く自由に記述していただきました。

表1 調査概要

図1 調査対象写真の撮影位置と写真⼀覧

◆自由記述からみた「竹の塚らしさ」とまちの印象

最初に、自由記述の内容を整理し、対象者が捉えるまちのイメージの傾向を概観します。 好きな場所や思い入れのある場所としては、高架化によって新しくなった駅舎やEquia、駅前ロータリーなどの駅施設・駅前空間を挙げる回答が多く見られました。また、「縁側カフェ」や「ミントポ」、「タカノ」といった個別の店舗や、「寺町の通り」「けやき大通り」といった通り、「カリンロード」等の商店街が挙がっており、「商店街の賑やかさ」が竹の塚らしいという記述もあります。さらに、特徴的な点として「団地」も挙がり、「人との繋がりを感じる安心できる住居形態」「思い入れ(がある)」といった記述がありました。 まち全体の印象や評価については、「綺麗とはいえない雑多な下町感」が竹の塚らしいとする声がありました。また、「昔からあるお店もある下町感」「人情味」といった下町ローカルな雰囲気を竹の塚の良さとして肯定的に捉える意見が多くみられました。一方で、「駅から離れると静か」「ゆったりしていて住みやすい」という生活実感に即した声や、「活気のある所と落ち着いた所の融合」「開放的な風土」「ほっとする雰囲気」を評価する声が見られました。 将来のまちづくりへの期待や提案としては、「整然とした街」や「あたたかい雰囲気」、治安の改善や若年層の流入を望む声が見られ、より暮らしやすい街へのアップデートが期待されています。その一方で、再開発や街並みの変化に対しては、「昔からあるものや雰囲気をガラッと変えないで欲しい」「庶民的な竹の塚の町は変わらないでほしい」「昔からの住人の生活や街並みが激変して住み難くなるのは残念」「高層建物の増加によるビル風や日照問題が懸念される」といった、まちの急激な変化を危惧し現状維持を望む記述も一定数見られました。

表2 自由記述回答の例

◆印象評価と地域らしさ評価の概観

本節では、街並み写真に対する印象評価および「竹の塚らしさ」評価の全体的な傾向を概観します。まず、各写真の平均評価を確認し、写真ごとの特徴を見ていきます。 本調査では、印象評価および「竹の塚らしさ」の評価はいずれも5段階評価(1〜5)で回答を求めています。印象評価は、「活気・賑わいがある―静か」「親しみやすい―親しみにくい」などの形容詞対を用いた尺度であり、数値が大きいほど前者の印象が強いことを示します。また、「竹の塚らしさ」の評価についても同様に、数値が大きいほど「竹の塚らしい」と感じられていることを意味します。  図1は、21枚の写真について、印象評価(SD尺度)および「竹の塚らしさ」の平均値を示したものです。 まず「竹の塚らしさ」の平均値について写真ごとに比較すると、いずれの写真でも5段階評価の中央値にあたる3以上となっており、どの写真についてもある程度は「竹の塚らしい」と感じると評価されていることが分かります。その中で、写真No.1およびNo.2などでは4を上回る比較的高い評価が見られる一方、写真No.19では3.5を下回るやや低い評価となるなど、一定の差が見られました。  次に、「印象評価」の7つの評価項目についてそれぞれ写真間で比較すると、写真によって評価の傾向が異なることが確認できます。例えば、駅前や商店街(No.2、No.5、No.15、No.21)では、「活気・賑わいがある」の評価が比較的高くなっています。一方「整然とした」の評価は新設のEquia(No.5)や大通り(No.11)、公共施設(No.14)で高くなっています。このように用途や空間構成の違いによって、「活気・賑わい」や「整然とした」などの印象評価の傾向が異なっていることが確認できます。  また、評価項目によって「写真間のばらつきの大きさ」にも違いが見られます。「活気・賑わいがある―静か」では写真によって最大1.94の差が生じており、景観の違いが評価に影響を及ぼしやすいことがうかがえます。一方、「あたたかい―冷たい」では写真間の差は最大1.25にとどまり、どの景観に対しても評価が似通う傾向があります。これは、「あたたかい―冷たい」に比較して、「活気・賑わいがある―静か」の印象は景観の違いによって評価が変動しやすいことを示唆しています。

表3 街並み写真ごとの各印象評価の平均値と竹の塚らしさの平均値(5段階評価)

図2は58人の回答者が21枚すべての写真に対して行った評価(58×21=1218回答)をまとめた度数分布です。形容詞対によって分布の形には違いが見られます。ここからも同様の傾向が読み取れます。例えば、「活気がある―静かである」や「親しみやすい―親しみにくい」といった評価項目では、中間付近を中心としながらも、やや「活気がある」側や「親しみやすい」側に寄る傾向が見られます。一方で、「整然とした―雑然とした」の評価では、中間付近を中心に左右に広がる分布が見られ、評価が特定の側に大きく偏る傾向は見られません。また、「あたたかい―冷たい」や「美的な―美的でない」といった評価では、回答の多くが中間付近に集中しており、両端の評価は比較的少ない傾向が見られます。一方で、「竹の塚らしさ」の評価(図2右下)については、評価の多くが中間から「らしい」側に分布しており、「竹の塚らしくない」とする評価はかなり少ない傾向が見られます。このことからも、対象とした景観は全体として「竹の塚らしさ」をある程度感じさせるものとして認識されていることが分かります。以上のように、印象・らしさの項目によって評価の偏りやばらつきの程度が異なることが確認できました。

図2 各印象評価項目および「竹の塚らしさ」評価の分布(58人×21写真,n=1218)

さらに、各回答者の21枚平均を見ると(図3)、回答者によって平均評価には一定の差があり、高めに評価する人と、やや低めに評価する人が存在することが分かります。すなわち、「竹の塚らしさ」の感じ方は回答者によって一様ではなく、「らしさ」の評価には回答者ごとの感じ方の違いも反映されていると考えられます。

図3 回答者別の「竹の塚らしさ」平均評価の分布

以上から、「竹の塚らしさ」の評価には、景観の内容(写真)によるばらつきと、回答者ごとの評価傾向の両方が関わっている可能性が示されました。また印象評価も複数の軸から成る複合的な構造を持つと考えられます。そこで次節では、因子分析によって印象評価の背後にある構造を整理します。

◆印象評価の構造(因子分析)

街並み写真に対する印象評価の関係を整理するため、SD尺度による評価データに対して因子分析を行いました。因子分析は、複数の評価項目の相関関係をもとに、それらの背後にある潜在的な印象のまとまり(因子)を抽出する分析手法です。評価項目どうしの関連の仕方から共通する評価次元を推定することで、街並みに対する印象構造を把握することができます。本稿では、街並みに対する7つの印象評価項目を対象とし、回答単位のデータを用いて探索的因子分析を実施しました。因子の抽出には最尤法を用い、因子どうしの関連を許容するPromax回転を適用しました。スクリープロットの形状を確認し、スクリー基準により因子数は2としました。 表3は、各印象項目が第1因子および第2因子とどの程度関係しているかを示したものです。第1因子では、「活気・賑わいがある」「親しみやすい」「開放的な」「あたたかい」との関係が強くなっています。また、「居心地が良い」も一定程度この因子と関係しています。このことから、第1因子は、街並みの「活気・親和性」を表す軸と解釈することができます。 一方、第2因子では、「整然とした」および「美的な」といった項目との関係が強くなっています。また、「居心地が良い」もこの因子と一定程度関係しており、秩序性や景観としてのまとまりのよさに関わる印象と関連していると考えられます。これらの関係から、第2因子は「整然さ・美しさ」を表す軸と解釈することができます。  第1因子の寄与率は約34%、第2因子の寄与率は約25%であり、2つの因子で全体の分散の約59%を説明しており、街並みに対する印象評価は、主として「活気・親和性」と「整然さ・美しさ」という2つの印象次元によって整理できることが確認できます。また、本分析では因子どうしの関連を許容する回転方法を用いていることから、これらの印象次元は互いに独立したものとしてではなく、一定の関連を持ちながら構成されている可能性があると考えられます。

表4 印象評価項目の因子分析結果

このように抽出された2つの因子を用いることで、街並み写真の印象を二次元の空間上に配置し、各写真の印象の特徴や相互の関係を視覚的に把握することが可能になります。本稿では、この因子空間上に各写真をプロットし、さらに「竹の塚らしさ」の平均評価を色で表すことで、街並みの印象と地域らしさとの関係を探索的に検討します。 図4は、第1因子と第2因子を軸とした平面上に各写真を配置したものです。矢印は各印象項目が因子空間の中でどの方向に対応しているかを示しており、点はそれぞれの写真を表しています。また、点の色は各写真に対する「竹の塚らしさ」の平均評価を示しており、赤色ほど評価が高く、青色ほど評価が低いことを表しています。 図全体を見ると、第1因子が正の側に位置する写真では、「竹の塚らしさ」の評価が比較的高い傾向が見られます。例えば、No.2やNo.21などの写真はこの方向に位置しており、らしさ評価も比較的高い値となっています。この結果は、活気や親しみやすさ、開放性といった生活感に関わる印象が、「竹の塚らしさ」と関連する要因の一つである可能性を示唆しています。 一方で、第2因子の方向、すなわち「整然とした」「美的な」といった印象が強い方向に位置する写真については、「竹の塚らしさ」の評価との関係は必ずしも明確ではありません。例えば、第2因子の正の側に位置する写真の中に比較的高い評価のものが見られる一方で、同程度の位置にあっても評価が異なる写真も存在しています。このことから、整然さや美しさといった印象は地域らしさと一定の関係を持つ可能性はあるものの、それだけで評価を説明できるものではないと考えられます。 また、因子空間上で近い位置に配置されている写真であっても、「竹の塚らしさ」の評価にはばらつきが見られることから、地域らしさの評価は印象評価のみで単純に整理できるものではなく、複数の要因が関係している可能性が示唆されます。このように、本分析により街並みに対する印象評価の構造を整理するとともに、それらと地域らしさ評価との関係について探索的に把握することができました。

図4 印象評価項目の因子分析結果にもとづく写真の配置
注)横軸は第1因子(活気・親和性)、縦軸は第2因子(整然さ・美しさ)を表す。矢印は各印象項目の因子負荷量の方向を示し、各点は21地点の写真に対応する。点の色は各写真に対する「竹の塚らしさ」の平均評価(赤:高い、青:低い)を示している。

◆印象評価と地域らしさの関係

最後に、街並みに対する印象と「竹の塚らしさ」の評価との関係をより詳しく検討するため、混合効果モデル(Mixed Effects Model)による分析を行いました。混合効果モデルは、観測データの中に存在する個人差や対象差といったばらつきを考慮しながら、変数間の関係を推定できる統計手法です。 本調査のデータは、回答者と写真の組み合わせによって構成されています。すなわち、1人の回答者が複数の写真を評価しており、同時に1枚の写真も複数の回答者によって評価されています。このようなデータ構造では、評価値は単純に独立した観測ではなく、「回答者」と「写真」の双方に由来するばらつきを含んでいます。例えば、ある回答者は全体的に高めの評価をつけやすい傾向を持っているかもしれません。また、特定の写真は多くの人から高く評価されやすい特徴を持っている可能性もあります。 このように、観測値が「回答者」と「写真」という二つの要因にまたがって構成されているデータ構造は、統計的にはクロスした(crossed)構造と呼ばれます。この場合、単純な回帰分析では観測値の独立性が仮定されてしまうため、回答者差や写真差を十分に扱うことができません。その結果、標準誤差が過小評価され、統計的検定において有意な結果が得られやすくなる、すなわち第一種の過誤が生じやすくなることが指摘されています[15]。特に、被験者に対する刺激を固定されたものとして扱うと、この問題が生じやすくなります。例えば、本調査で用いた21枚の写真は竹の塚の街並みを代表する例として選ばれたものですが、これらを固定された対象として扱うと、写真間のばらつきが十分に考慮されないまま分析が行われる可能性があります。 混合効果モデルでは、このようなばらつきを統計モデルの中で扱うために、効果を固定効果(fixed effects)とランダム効果(random effects)に分けて表現します。固定効果は、研究の関心となる変数間の関係を表す部分であり、本分析では街並みに対する印象評価(SD尺度)や訪問頻度などがこれに該当します。一方、ランダム効果は、回答者ごとの評価傾向や写真ごとの特徴といった、観測単位に固有のばらつきを表します。 本分析では、回答者(id)と写真(photo)の両方をランダム効果としてモデルに組み込みました。これにより、回答者ごとの評価の甘辛や、写真ごとの特徴によるばらつきを考慮しながら、印象評価と地域らしさの関係を推定することができます。 被説明変数は「竹の塚らしさ」の評価とし、説明変数として7つの印象評価(SD尺度)と訪問頻度(visit)を用いました。モデルは概念的には次のように表されます。

ここで、i は回答者、j は写真を表します。uiは回答者ごとの評価傾向の違いを表すランダム効果、vj は写真ごとの特徴による評価の違いを表すランダム効果です。これらは平均0の確率変数として扱われ、回答者差や写真差に由来するばらつきを表します。また、ij は観測ごとの誤差項です。このように回答者と写真の両方のばらつきをモデルに組み込むことで、印象評価と地域らしさの関係を推定しました。 分析結果を表4に示します。まず印象評価について見ると、「居心地が良い」(D)、「親しみやすい」(B)、「活気・賑わいがある」(A)は、いずれも地域らしさの評価と有意な正の関係を示しました。すなわち、これらの印象が強い街並みほど、「竹の塚らしい」と評価されやすい傾向が確認されました。特に「居心地が良い」と「親しみやすい」は係数が比較的大きく、街並みの雰囲気としての居心地や親しみやすさが、竹の塚らしさに関係している可能性が示唆されます。また、「活気・賑わいがある」という評価も正の関係を示しており、賑わいや人の活動が感じられる街並みが「竹の塚らしい」と受け取られやすい傾向があると考えられます。  一方、「整然とした」(C)および「開放的な」(E)は、地域らしさの評価と有意な負の関係を示しました。これは、整然とした街並みや開放的な空間ほど、相対的に「竹の塚らしさ」が低く評価される傾向を示しています。整然とした都市空間や広がりのある空間は、一般的には好ましい印象として評価されることも多いですが、本調査ではそれらが必ずしも地域固有の特徴として認識されているわけではない可能性がうかがえます。むしろ、やや雑多で生活感のある空間や、人の活動が感じられる空間の方が、竹の塚固有の雰囲気として受け止められている可能性が考えられます。  「あたたかい」(F)および「美的な」(G)については、統計的に有意な関係は確認されませんでした。この結果は、街並みを「あたたかい」「美しい」と感じることが、「竹の塚らしさ」の判断と必ずしも直接結びついていない可能性を示しています。  次に訪問経験について見ると、基準カテゴリである「知らない」と比べて、「よく行く(週1回以上)」「時々行く(月1回以上〜週1回未満)」「たまに行く(月1回未満)」「知っているが、ほとんど行かない」はいずれも地域らしさの評価と有意な正の関係を示しました。すなわち、「知らない」と回答した人と比べると、実際に訪れた経験のある回答者は、写真に対して「竹の塚らしさ」を感じやすい傾向が確認されました。一方で、「多分知っている」と回答した場合には、基準カテゴリとの差は統計的に有意ではありませんでした。 これらの結果から、その場所に関する経験や認知の程度が、地域らしさの判断と一定程度関連している可能性が示唆されます。ただし、訪問頻度の違い(例えば「よく行く」と「たまに行く」など)の間の差を直接比較しているわけではないため、本分析の結果から訪問頻度が高いほど地域らしさの評価が高くなるとまでは言えない点には注意が必要です。  さらにランダム効果の分散を見ると、回答者間のばらつきは0.351、写真間のばらつきは0.229となりました。これは、地域らしさの評価には、写真ごとの特徴による差だけでなく、回答者ごとの評価傾向の違いも一定程度存在していることを示しています。すなわち、同じ写真であっても回答者によって「竹の塚らしさ」の評価が異なる場合があり、また写真そのものの内容によって評価の平均水準にも違いがあることが分かります。本分析ではこうした回答者差と写真差の両方をランダム効果としてモデルに組み込むことで、街並みの印象と地域らしさの関係をより適切に推定しています。  以上の結果から、街並みの印象と地域らしさの評価の間には一定の関係があることが確認されました。特に「居心地の良さ」「親しみやすさ」「活気」といった印象は、地域らしさの評価と関連している可能性が示されています。一方で、地域らしさの評価は写真の物理的な特徴だけによって決まるものではなく、回答者の経験や認識、あるいは個人ごとの評価傾向によっても左右されることが示唆されます。地域らしさという概念は、街並みの特徴と人々の認知・経験の双方によって形成されるものであると考えられます。

表5 混合効果モデルによる「竹の塚らしさ」評価の分析結果





表6 混合効果モデルの概要
注:説明変数の多重共線性については、SD尺度間のVIFがいずれも5を下回っていることを確認

◆おわりに

本稿では、竹ノ塚駅周辺のまちなみ景観に対する印象評価と「竹の塚らしさ」の関係を把握することを目的として、街並み写真を用いたアンケート調査の結果を分析しました。最初に自由記述回答を概観したあと、21枚の街並み写真に対する印象評価(SD法)および「竹の塚らしさ」を用い、分布や写真ごとの特徴を確認したうえで、因子分析および混合効果モデルによる分析を行いました。 自由記述では、新しく整備された駅舎等の駅施設やロータリーといった駅周辺空間が好意的に評価される一方で、商店街や団地、個別の店舗などの既存の都市空間に対して好意や思い入れを示す声が見られました。また、下町感や静けさといった地域性を地元の良さとして肯定的に捉える意見も多く、活気と落ち着きが共存するまちの雰囲気が評価されていることが確認されました。 印象評価の概観では、いずれの写真も平均値は概ね3以上となっており、提示した街並みの多くが程度の差はありながらも「竹の塚らしさ」を感じさせる景観として評価されていることが確認されました。写真評価のデータを用いた因子分析からは、街並みの印象が主に「活気・親和性」と「整然さ・美しさ」という二つの次元で捉えられていることが示されました。さらに、混合効果モデルを用いて分析した結果、「居心地が良い」「親しみやすい」「活気・賑わいがある」といった印象が地域らしさの評価と正の関係を示す一方で、「整然とした」や「開放的な」といった印象は竹の塚らしさと負の関係を示し、必ずしも整った景観や広がりのある空間が地域らしさと結びつくわけではないことも示されました。 以上の分析結果は、今後の竹の塚のまちづくりに向けて重要な示唆を与えています。人々の好意・思い入れや「竹の塚らしさ」が、商店街や店舗や団地といった既存の都市空間のもつ活気や親しみやすさ、居心地の良さの中に見出されているという事実は、今後の都市更新のあり方に一石を投じるものです。都市の更新において、クリアランス型の再開発等により整然とした空間を整備することは、結果として竹の塚の下町感や固有の雰囲気を削ぎ落とし、全国どこにでもあるような「没場所」化を招く恐れがあります。自由記述で寄せられていた、まちの急激な変化を懸念し「昔からの街並みや雰囲気」の維持を望む声は、この没場所化に対する危機感の表れとみることもできます。したがって、今後のまちづくりにおいては、既存の生活空間の文脈をいかに読み解き、それを新しい景観のなかに継承・融合させていくかが強く問われています。 なお、本稿にはいくつかの課題も残されています。第一に、本稿では回答者の違いを十分に分析していません。例えば、先行研究[14]で指摘されているように、竹の塚周辺に居住している人と来訪者とでは、「竹の塚らしい」と感じる街並みの傾向が異なる可能性があります。また、居住年数や年齢、日常的な利用の仕方によっても、地域らしさの感じ方は変わることが考えられます。本稿では回答者ごとの評価のばらつきを統計モデル上のランダム効果として扱っていますが、その違いがどのような属性や経験と関係しているのかについては検討していません。今後は回答者の属性や地域との関わり方に着目した分析に加え、評価パターンに基づいて回答者を分類する方法(例えばクラスタリングなど)を用いることで、地域らしさの認識の違いをより具体的に把握できる可能性があります。 第二に、本稿の混合効果モデルでは、回答者や写真ごとの評価水準の違いをランダム効果として考慮していますが、印象評価と地域らしさの関係が回答者ごとにどの程度異なるかについては検討していません。すなわち、例えば同じ街並みを見た場合でも、「活気」や「親しみやすさ」といった印象が地域らしさの評価にどの程度結びつくかは、個人によって異なる可能性があります。本稿ではこうした関係の個人差(ランダム傾き)は扱っていないため、今後はその点も含めた分析を行うことで、印象評価と地域らしさの関係をより詳しく理解できると考えられます。 本稿の分析は探索的なものであり、竹の塚の街並みを対象とした一つの事例にすぎません。しかし、街並みの印象評価と地域らしさの認識を組み合わせて分析することで、まちなみ景観がどのように人々に認識されているのかを定量的に捉える試みとして、一定の示唆を与えるものと考えられます。今後は、より多様な場所や対象者を含めた調査を行うことで、地域らしさの認識の構造やその形成要因についてさらに理解を深めていくことが期待されます。

文責:大草 裕樹, 谷川 百音

写真:大草 裕樹

参考文献
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