力的な景観を持つ街路とその迷路性




景観が魅力的な街路とはどのような街路でしょうか.神宮外苑の青山通りでは,銀杏が立ち並び,視点が誘導された先に聖徳記念絵画館を望むことができ,壮観な景観を創出しています.一方,長野県の小布施では,歩道の材料として栗の木を用いて細かいデザインを施し,歩きながらその町の風土や文化を楽しむことができます.魅力的な街路といっても様々です.しかし,景観が優れているとされる街路は,迷路性※1と何らかの関連を見出せないか,この疑問を出発点として分析を始めました.

景観が魅力的な街路は,「鯖江百景」から選びました.「鯖江百景」は,鯖江市が市内で景観が優れている場所を選定して作成しています.今回分析する街路は,「鯖江百景」で取り上げられている街路です.その街路の中の,鯖江市のHPに示されている代表的な地点から徒歩圏内(400m)の街路の迷路性と,比較として眺望性※2を分析しました.ただし,幅員が極端に広い街路を含めて分析すると,結果が偏ることとなったので,最も幅員の狭い街路と比較して,概ね10倍以上の幅員の街路は分析から除外しています.

以下にそれぞれの街路の分析の結果を示します.対象とした街路は,@吉江町の七曲り,Aうるしの里通り,B福井高専進入路,C御幸団地県道グリーンベルト(文殊近松通り),D歴史の道,E河和田町中道通りです.

※1 迷路性:ある地点の迷路性が高いとは,他の全ての地点からその地点までアクセスするまでに曲がる回数が多いこと.どれほど,他の地点からその地点にアクセスが難しいかを示す.
※2 眺望性:ある地点の眺望性が高いとは,その地点から直接見ることが可能な地域が広いこと.どれほど,その地点から見晴らしがよいかを示す.




@吉江町の七曲り

↑吉江町には,江戸時代前期に存在した吉江藩の面影があります.城下町であるので,防御性を高めるため道路をわざと曲げ,これが七曲がりと呼ばれるようになりました.旧家の古風な塀垣が当時の様子を表しています.

街路の代表的な地点を赤丸で示す.
左図は迷路性(緑を中間とし,赤いほど迷路性は低く,青いほど迷路性は高い)を表す.
右図は眺望性(緑を中間とし,赤いほど眺望性は高く,青いほど眺望性は低い)を表す.

■吉江町の七曲りは,右図を見ると眺望性は低く,見晴らしは良くないようです.しかし,左図を見ると迷路性は高くなく,アクセスはしやすいことがわかります.確かに,道を曲げることによって,曲げた道の見通しやアクセス性は悪くなり,敵の侵入が難しくなっていることがわかります.





Aうるしの里通り

↑うるしの里通りは東西にまっすぐに延び,田や山々の風景が魅力的です.街路樹のハナミズキが紅葉すると一層と美しい風景となります.

街路の代表的な地点を赤丸で示す.
左図は迷路性(緑を中間とし,赤いほど迷路性は低く,青いほど迷路性は高い)を表す.
右図は眺望性(緑を中間とし,赤いほど眺望性は高く,青いほど眺望性は低い)を表す.

■うるしの里通りは直線的な道路であるため,見晴らしは良いと考えられます.これは右図からも読み取れます.左図からは,街路の全体的な迷路性は中間的ですが,交差点では他の地点からのアクセスが容易であることがわかります.





B福井高専進入路

↑道路に沿って高くそびえるポプラ並木の景観が素晴らしく,学校の通学路や散策路として市民に親しまれています.

街路の代表的な地点を赤丸で示す.
左図は迷路性(緑を中間とし,赤いほど迷路性は低く,青いほど迷路性は高い)を表す.
右図は眺望性(緑を中間とし,赤いほど眺望性は高く,青いほど眺望性は低い)を表す.

■福井高専進入路は,眺望性はやや低く,一方の迷路性もやや低いことがわかります.少々,街路が曲がっているので,直線的な街路と比較し,迷路性は高くなりますが,他の道路と交差する地点の迷路性は低く,アクセスが容易です.





C御幸団地県道グリーンベルト(文殊近松通り)

↑県道(文殊近松通り)と住宅地を遮るように,約100mそびえたっており,沿道に緑が連続しています.

街路の代表的な地点を赤丸で示す.
左図は迷路性(緑を中間とし,赤いほど迷路性は低く,青いほど迷路性は高い)を表す.
右図は眺望性(緑を中間とし,赤いほど眺望性は高く,青いほど眺望性は低い)を表す.

■文殊近松通りは幅員が広く,直線的であり,左図から眺望性が高いことがわかります.右図からは,迷路性は全体的に低いことが見られます.





D歴史の道

↑旧北陸道(歴史の道)沿いに立ち並ぶ民家と蔵,庭先から道に張り出した松が,旧北陸道を中心に栄えた鯖江の歴史を感じさせます.

街路の代表的な地点を赤丸で示す.
左図は迷路性(緑を中間とし,赤いほど迷路性は低く,青いほど迷路性は高い)を表す.
右図は眺望性(緑を中間とし,赤いほど眺望性は高く,青いほど眺望性は低い)を表す.

■歴史の道は,昔からある街路の形がそのまま残っていると考えられ,細く曲がっています.右図から,眺望性が低いことがわかります.しかし,迷路性は高くなく,アクセスがしやすい通りとなっています.街路の西端の交差点は地域でも特にアクセスのしやすい地点となっていることがわかります.





E河和田町中道通り

↑中道通り沿いには,景観に配慮した整備がされており,民家や蔵,塀などが一体的な景観をつくり,どこか懐かしさを感じさせます.

街路の代表的な地点を赤丸で示す.
左図は迷路性(緑を中間とし,赤いほど迷路性は低く,青いほど迷路性は高い)を表す.
右図は眺望性(緑を中間とし,赤いほど眺望性は高く,青いほど眺望性は低い)を表す.

■河和田町中道通りは,右図から眺望性が低く,左図から迷路性は高くないことがわかります.この街路は,D歴史の道と類似した特徴が見られます.



↓各街路の迷路性と眺望性の整理





わりに

まとめると
1.景観が優れている街路(@〜E)は眺望性が低いものはありましたが,迷路性が高いものはなく,アクセスが難しい街路はありませんでした.
2.景観が優れている街路(@〜E)は他の地点からアクセスが容易な交差点が存在していました.

眺望性が低い街路は,幅が狭く,曲線的な街路があてはまるようです.これは,古くからある道であると考えられます.しかし,そういった街路も付近に交通に便利な道路が整備されていることがわかります.

景観が魅力的な街路は大きく2つに分けられると思います.1つは,古くからの街路の形を大きく変えることなく,保存してきた街路(歴史的街路).もう1つは,近代以降に区画整理などの手法によって道路を拡幅し,直線的に整備した街路(非歴史的街路)です.現代では,交通や防災の観点で,直線的で幅員の広い街路が良いとされ,細く曲がりくねった街路は整備対象となっています.しかし,細く曲線的な街路は,よりその町の歴史や文化を感じることができ,ヒューマンスケールで私たちを安心させる雰囲気を持つといった魅力があります.
今回の分析では,景観が優れているとされる街路の迷路性の可視化を試みましたが,幅員が狭く曲線的な街路で見晴らしの悪い街路でも,その街路までのアクセス性を高めれば必ずしも区画整理をしなくても良いといった街路の整備方針へとつなげられるかもしれません.

私たちの身近にある魅力的な街路の迷路性を調査すると今まで気づかなかった新しい発見がある可能性があります.みなさんの魅力的だと思う道の迷路性はどうでしょうか?


文:對間昌宏




使用ソフト
depthmapX 0.26beta
ArcGIS 10.2.2


使用データ
分析に用いた「鯖江百景の位置情報等」データは「データシティさばえ」(http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=11552)から使用しており,ライセンスは、Creative Commonsの「表示」(CC BY)です.

参考URL
鯖江市HP「景観百景」(http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=3897,http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=3907,http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=3909,http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=3910,http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=3911,http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=13319)

本ページに掲載した写真は,鯖江市のHP((http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=3897,http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=3907,http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=3909,http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=3910,http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=3911,http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=13319)において掲載されていたものを用いており,これらの写真はCreative Commons Attribution 4.0 でライセンスされています(ライセンス全文は http://creativecommons.org/licenses/by/4.0 をご覧ください)。