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AIを用いた歴史的な景観の評価

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ダミー人形アイコン2 はじめに

 

 

近年は、人口知能(Artificial Intelligence、以下AI)が大きく注目され、様々な場面で活用されてきています。AIがどのようなものか簡単に説明すると、人間の知的能力を機械で実現しようとするものです。

 

AIはこれまで、ある音声が誰の発したものなのか判断したり、外国語の翻訳や画像に写っているものを特定することに応用されてきています。将棋や囲碁でAIがトッププロに勝利をあげたことは多くのメディアで取り上げられ、現在(2018年)において人々から最も関心を集めており発展が著しい研究テーマの一つとなっています。

 

今回の分析では、景観評価に用いることが可能なAIを開発したいと思います。絵画や音楽においても、専門家と一般人の評価するときの視点は異なると多くの研究で指摘されています。

 

専門家の視点から景観を評価できるAIを開発することで、簡易的にそれぞれのまちの景観の課題を見つけることなどに応用できるかもしれません。

 

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分析のフリーアイコン 分析方法

 

 

データは、2017年にまちなみとすまい研究会が調査を行った飛騨地方(高山市,飛騨市(旧古川町),白川村)において収集した画像3000枚を用いました。景観の画像はまちなみのみでなく自然景観の画像も多くあったため建物や人工物が映っているまちなみ景観に限定(2612枚)しました。

 

それぞれのまちなみ景観をまちなみとすまい研究会のメンバーが5段階で評価しました。そして、その画像データと評価の点数をAIに学習させました。この学習を通じて、AIは画像の特徴(色、形、配置など)によって与える点数を判断できるようになります。

 

最後に、まちなみとすまい研究会が2017年に調査を行った飛騨地方の周辺地域である北陸東海地方と、まちなみとすまい研究会の拠点がある関東甲信越地方における重要伝統的建造物群保存地区(国が主導して保存をはかる、価値の高い歴史的な集落・町並み)の画像をAIで判定し、景観の良さを点数化しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

例えば、1 - 5点の景観として評価された写真は以下の通りです。

 

 

 

1点の写真

        

 

 

2点の写真

        

 

 

3点の写真

        

 

 

4点の写真

        

 

 

5点の写真

        

 

 

 

 

 

 

 

 

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プログラムはPythonで作成し、画像認識のライブラリとしてGoogleが開発したTensorFlowを用いました。

 

対象とする重要伝統的建造物群保存地区は次の31地区(飛騨地方にある地区は、学習データに用いているため排除)です:

桜川市真壁(茨城)・栃木市嘉右衛門町(栃木)・桐生新町(群馬)・中之条町六合赤岩(群馬)・川越市川越(埼玉)・香取市佐原(千葉)・佐渡市宿根木(新潟)・早川町赤沢(山梨)・塩尻市奈良井(長野)・塩尻市木曾平沢(長野)・東御市海野宿(長野)・南木曽町妻籠宿(長野)・白馬村青鬼(長野)・豊田市足助(愛知)・亀山市関宿(三重)・恵那市岩村(岐阜)・美濃市(岐阜)・郡上市郡上八幡(岐阜)・高山市下二之町大新町(岐阜)・高岡市山町筋(富山)・高岡市金屋町(富山)・金沢市東山ひがし(石川)・金沢市主計町(石川)・金沢市卯辰山麓(石川)・金沢市寺町台(石川)・若狭町熊川宿(福井)・加賀市橋立(石川)・加賀市東谷(石川)・輪島市黒島(石川)・白山市白峰(石川)・小浜市西組(福井)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重要伝統的建造物群保存地区の画像は文献「日本の町並み250 重要伝統的建造物群保存地区を全て収録 (山と渓谷社、2013年)」に掲載されている画像を各地区1枚ずつ用いました。

 

景観の点数化の手順としては右表の通りです。特定の画像をAIに見せると次のような出力結果が得られます。

 

 

 

結果は、特定の画像が1点の景観にあてはまる確率が19.3%であることを示しています。同様に2点の景観である確率は13.8%,3点の景観である確率は18.9%.....ということになります。

 

(点数)×(確率)の和を計算して、この画像の景観の得点の期待値を算出してみましょう。期待値は以下のようになりました。

 

1×0.193+2×13.8+3×18.9+4×23.2+5×24.8=3.20

 

このように、画像の景観得点の期待値を求め、これを景観の点数とし各景観を評価しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

分析アイコン 結果と考察

 

 

 

 

 

景観の点数(期待値)の上位5地区を示した結果は左表の通りです。

 

 

 

 

 

 

 

 

豊田市足助と桐生市桐生の両地区の写真を見比べてみると、白漆喰で塗り固めた塗籠造りで建物の形状、色彩は類似しているのですが、豊田市足助(期待値4.047)、桐生市桐生(期待値3.039)と、点数には少し差が出ていました。

足助の高得点の要因として ”路地空間“であることが考えられます。足助、桐生の2つの地区にはともに魅力的で風情のある路地空間がたくさんあるのですが、足助の写真は「路地」を思わせ、桐生の写真は路地というよりは「道路と壁」という印象を与えます。

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路地の魅力は自然と奥へと引き込まれてしまう密接した空間、ヒューマンスケールで親密感のある空間であり、明るい表の通り沿いとは異なる「裏」の印象を与えるところにあると思います。足助の写真はそのような「裏」であることを思わせる構図であるのに対し、桐生の写真は「裏」を感じさせません。我々が路地空間を高く評価するように、建物の形状・色彩が同じでも微妙な構図の違いをAIは読み取り、その路地性を高く評価したのではないかと考えられます。

 

参考画像:

-豊田市足助:http://asuke.info/gallery/entry-158.html

-桐生市桐生:http://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/spot/denken/index.html

 

 

 

 

 

 

 

 

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また、上位に評価された地区の景観の画像の特徴として、建物や街路などの人工の構造物と、森や植栽などの自然が絶妙なバランスで調和していることが観察できました。

 

早川町赤沢や塩尻市奈良井などの上位の地区は、豊かな自然に囲まれた地域や植栽の整備がしっかりなされている景観となっており、人と自然が共生している印象を受けます。上位にならなかった地区では、歴史的な建造物を高い水準で保存しており、優れた景観を創出していましたが、緑の量が少ない印象を受けました。緑地には、蒸散効果による過度な温度上昇の抑制や人々をリラックスさせる効果があります。

 

 

参考画像:

-早川町赤沢:http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/pdf/r1392257_032.pdf

-塩尻市奈良井:http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/pdf/r1392257_034.pdf

 

 

 

ここから、人がまちなみの景観を評価する際は、建造物等のデザイン面のみでなく、住みやすさ、すごしやすさなどのまちの機能面も大きく関わっていることが示唆されます。

 

近年、ヒートアイランド現象や土砂災害対策、火災の延焼防止など、都市の環境問題やリスクなどのネガティブな側面を低減するために緑を増やしていく活動が推進されていますが、建物や街路などの構造物との調和をはかりつつ、緑地を整備・保全していくことは、まちなみの向上といったポジティブな側面にも貢献すると考えられます。まちなみとすまい研究会が高く評価した景観には緑や川など、周辺環境の快適性が向上する要素が含まれているものが多くありました。

  

▲ まちなみとすまい研究会による評価が5点であった景観

 

 

 

 

今回の分析の課題として、データの数や景観の種類の少なさがあります。分析に用いたデータはまちなみとすまい研究会が調査を行った飛騨地方において収集した画像であり、それ以外の地域のデータはありませんでした。そのため、近現代的な景観など、データの景観と大きく異なるタイプの景観は評価することが少々困難でした。

 

また、重要伝統的建造物群保存地区の景観の評価をする際は、画像は1枚のみしか使っていないため、まちなみ全体を評価できていない課題がありました。

 

 



 

 

 

 

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電球の無料アイコン16 おわりに

 

今回の分析では、私たち、まちなみとすまい研究会メンバーの景観評価をもとに、AIを開発し、いくつかの景観をAIによって評価してみました。今回の分析では、学習できるデータが少なく、AIがしっかり評価できていない部分もいくらか見られましたが、データを蓄積することで、高い精度で景観評価をするAIを開発していくことができる可能性を感じられました。将来的には、AIを用いて全国のまちなみの課題を見つけ出していく時代も来るかもしれません。

 

 

企画・分析・執筆 | 對間昌宏 ・水谷京弥

調査設計 | 西颯人

調査協力・まちなみ評価 | 2017年度まちなみとすまい研究会

分析協力 | 森谷安寿

 

 

 

 

 

 

 

 

参考

・開発したAIのテストデータ(総データの1割)に対する正答率(正しく分類した割合)は約90%でした。

 

TensorFlowの参考ページ(英語)です:https://www.tensorflow.org/tutorials/

 

 

 

 

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