まちなみに配慮した住まいづくり
 −部位別提案手法マトリックス−
「まちなみに配慮した住まいづくり」について
1.はじめに
一戸一戸の住宅が、美しいまちなみを目指して建替えや、改築を行っていくことで、いずれはまちなみ全体が美しくなっていく、そのような目的を持って、本ページは作られている。
一戸一戸のまちなみに配慮した設計で、まちなみに対しどのような良い効果をあげられるか・・・特に問題となる都市部の住宅において、多くの設計事例が、実地踏査をもとに、“設計手法とまちなみへの効果”の相関の形で、見やすいマトリックス形式で纏めてられている。
設計に携わる方、自分の家をリフォームされる方達が、この本を参考に、“一戸の家から始まる美しいまちなみ造り”の活動の輪に、一人でも多く参加していただき、日本にも美しいまちなみが数多く造られればと、願っている。
2.まちなみ形成の要素と設計作業の進め方
住宅地の景観はさまざまな要素により出来上がっている。その街の歴史や文化、その地域の気候風土・地勢地形、その街の敷地や道路の状況、そして施主の“こういう美しい街に繋がる一戸でありたい”という要望、これらの背景を良く考慮したうえで計画することが望まれる。本ページの中の各設計手法もそれらの要望と照らし合わせ、より効果的な選択をしていただきたい。

設計作業の進め方


3.都市部における既成住宅地の現状
郊外住宅地に比べ、都市部では狭小な区画が多く存在し、特に密集地においては前面道路も4mに満たないものも多く、十分な安全性が確保できていないのが現状である。
4.前面道路と敷地の関係
まちなみに影響を与える敷地要素としては、敷地面積の他、前面道路の幅員、敷地間口、接道方位、道路との高低差等があげられる。特に道路幅員と敷地間口との関係から、まちなみ形成に一定の類型を見出すことができる。

道路幅員と敷地間口によるまちなみ分類
  狭小間口敷地 一般間口
小幅員道路 4N
(道路幅員6m未満、敷地間口7m未満)
4W
(道路幅員6m未満、敷地間口7m以上)
  • 道路が狭く敷地間口が狭いと住宅の立面は見えにくい。特に直線道路ではその傾向が強い
  • 4m未満の道路や住宅が3階建だと囲われ感があり全体に暗い。車の通らない道では生活空間化している
  • 道路側が車庫と出入口で占められ外構要素がほとんどない
  • 敷地間口が広いと住宅を塀などで囲うため狭隘道路では閉鎖的で暗くなり住宅の1階部分は見えない
  • 4m未満の道路だと通路(フットパス)化している
  • 間口が広いので門塀生垣等外構要素があるが郊外に比べ中途半端
広幅員道路 6N
(道路幅員6m以上、敷地間口7m未満)
6W
(道路幅員6m以上、敷地間口7m以上)
  • 道路が広く敷地間口が狭いと家並みが良く見え密集感がわかる
  • 道路幅に比し住宅が小さくバランスに欠ける
  • 住宅は道路に接近しており1階は車庫と出入口で殺風景であるが、短冊状敷地では前面に引きがありまちなみは豊かである
  • 天空率が高く電線類が目立つ
  • 郊外型住宅に似ているがプライバシ−等から塀などで囲われ閉鎖的であるが道路が広いので暗くない
  • 住宅や外構に統一感なく不揃いでまちなみは美しくない
  • 道路幅と住宅の大きさはバランスがとれている
5.まちなみ配慮設計の考え方
まちなみに配慮した設計には、次の3点が重要なポイントとなります。
  1. 事業者全体提案から生活者個別提案へ
  2. 1棟の建物からまちなみ景観へ
  3. ひとつの敷地から地域特性、まちなみ調査へ
6.まちなみ配慮設計のポイント
既成市街地の狭小住宅の並ぶ密集市街地ではまちなみの問題点を見ると密集感はもとより壁面の圧迫感、不調和や不統一からくる不快感、緑量の絶対的な不足による潤いのなさなどがあげられる。その多くの理由として、敷地面積の狭さや法規制の厳しさや生活者の趣向などがあげられている。しかしこうした条件のなかでも建替え時の工夫次第でまちなみはかなり改善される。
7.部位別提案手法マトリックスの考え方
7-1.部位別提案 既成住宅地のまちなみは私的空間である連続する建物や外構と、それらが面している公共空間である道路や広場と、背景となる空や高層ビル等から構成されている。まちなみの改善工夫提案は主に建替え改築時に個々の住宅をどのように工夫するかであり、生活者が行える建物と外構を中心にそれぞれ部位毎に具体的提案を行った。

7-2.期待できる効果
実態調査や生活者のヒアリングを通し、問題点として、圧迫感、閉塞感、危険、暗い、不安感、不統一、雑然、無配慮、殺風景、単調などが、よい点として、温かさ、やわらかさ、落ち着き、変化、個性的、潤いなどがそれぞれキーワードとして抽出された。まちなみ改善提案はいわばこのような問題点をいかに解消しよい点を増長するかである。ここでは部位別提案により、どのようなまちなみ改善効果があるかを大きく安心、快適、楽しみの三つにまとめ、それぞれをさらに4つの具体的な項目に分けた。いずれにしても効果は複合的でありひとつの提案に対しいくつかの効果が期待できる。

7-3.具体的手法と適用分類
各部位に対し、まちなみへの効果を上げる具体的手法は、先にあげた、「まちなみ配慮設計のポイント」を基に考えられた。そして、その具体的手法が効果を最大限に発揮するためには、前面道路と敷地の関係(適用分類)を考慮する必要があると考えられる。

7-4.改善レベル
現実化の難しさを表すために、(1)新築レベル (2)改築レベル (3)DIYレベルという指標を導入しました。






8.調査対象住宅地の選定
調査対象住宅地は、(1)宅地規模、間口ともに狭く、まちなみの改善が望まれている地域。  (2)小規模住宅地分譲(ミニ開発)が急激に増えてきている地域。という2点から、東京23区とその近郊地域(集中調査地域 世田谷区)となった。
9.部位別提案手法マトリックス
10.まちなみ改善シミュレーション
10-1.改善事例1 4-Nタイプ(道路幅員6m未満、敷地間口7m未満)
■現況
昭和初期、住宅地として開発された。
敷地間口6〜7mが連続している。
■法規制第一種低層住居専用地域
容積率/150%、建ペイ率/60%
第一種高度地区(北側斜線5m、0.6/1)
日影規制/4-2.5
■前面道路について
水路6号
42条1項5号道路(位置指定道路:指定昭和13年8月15日、27号)
区画整理調書:幅員1.8m(1間)
幅員4.5m(調査対象区域のL型側溝端より、4.5mセットバック必要)

現状

  外構 建物 公共公益




(1) 安全のため階段位置をセットバック、カーポート袖壁部分をとり一体のスペースをつくる (1) 玄関を道路レベルまで下げ、敷地高低差を建物内で処理、玄関の明かりを通りに出す    
(2) (1)で出来たスペースに植栽、道路レベルに緑を配置する (2) 風通りを確保するため、屋根に風向きに合わせた開口を取る    
(3) カーポート上部の立上がりを少なくし、木製フェンスで上部の植栽を見せる (3) 窓に花台をつける    
(4) カーポート扉の素材を替えて、透過性のあるものとし、通りを明るくする (3) 外構の素材と、建物バルコニーで使用する素材を統一する    








(5) 植栽を2段とし、足元のレベルに共通の植物を植え、植栽帯を連続させる (5) 建物ファサードに変化をつけるため、手前建物のバルコニー方向を東南とする (1) 電線類を地中化する
(6) 2棟間でアプローチ階段を共有、道路空間に広がりをつけ、植栽スペースを確保、高木を植える     (2) 道路舗装を替える(地域性を反映し、古い色合のレンガを選んだ)



外構の改善

外構+建物の改善

外構+建物+公共公益の改善
10-2.改善事例2 6-Wタイプ(道路幅員6m以上、敷地間口7m以上)
■現況
昭和初期、住宅地として開発された。
敷地間口9〜10M宅地が連続している。
■法規制
第一種中高層住居専用地域
容積率/200%、建ペイ率 60%
第二種高度地区(北側斜線5m、1.25/1、0.6/1)
準防火地域
日影規制/3-2

現状

  外構 建物 公共公益




(1) 塀をなくし、オープン外構と通りに見せる植栽をする (1) 敷地延長部分の側に、カーポートを設け奥行きをつくる    
(2) 塀の素材を替え、小さな開口を設けて通りへの圧迫感をやわらげる (2) 通りに面した開口部は採光を目的としガラスブロックを施工する    
(3) カーポート上部に2階居室からのデッキをつける (3) 緑化のため、地被類が取り付きやすいフレームをつける    








(4) 敷地延長部分をはさんで2棟がカーポートを設け、道路に広がりのあるスポットを設ける (4) 掃出し開口部が並ぶ立面に配慮するため、サービスデッキと2階テラスを設ける (1) 電線類を地中化する
(5) 敷地延長部分とカーポート部分を透水性舗装、足元植栽を行い庭木に印象の強い、高木を配してダイナミックな緑化を図る     (2) 道路舗装を変える
(3) 街路樹を植える



外構の改善

外構+建物の改善

外構+建物+公共公益の改善
11.まちなみに関わる法規制
法 等 項 目 内 容 備 考
法令 都市計画法 地域地区
  • 用途地域をはじめ都市計画上必要な規制をあたえるために定めている。高層住宅にたいしての規制が多く戸建て住宅では用途地域の他防火・準防火地域等の指定があり建築基準法でその詳細は定めている。その他特定の地域を定め規制する美観地区や風致地区等がある
 
地区計画
  • 建築物やまちなみ、公共施設その他の施設配置などからみて、一体としてそれぞれの区域にふさわしい景観をそなえた良好な環境の住宅地を整備保存するため地区を定め高さや壁面後退等を規制する
 
建築基準法 前面道路
敷地後退
敷地の接道
  • 接道する道路の幅員は4m以上なければならない
  • 4m未満(42条2項)の場合は道路中心より2m敷地後退しなければならない
  • 道路に最低2m以上接しなければならない。ただし敷地延長部分ではその長さにより接道部分の幅が各自治体により定められている
 
用途地域
  • 住宅地は第一種、第二種を中心に住居系地域が多い
  • 用途地域に応じ容積率、建ペイ率が定められている
 
高さ制限
斜線制限
  • 低層住居専用地域では10m、12mがあり各都市計画区域で定める
  • 道路斜線、隣地斜線、北側斜線等の規制がある
 
採光
日影制限
  • 居室は一定の採光を確保(床面積の1/7)しなければならない
  • 軒高7mを超え、あるいは3階建て以上の場合低層住居地域で規制
 
外壁材の制限
  • 防火、準防火、法22条地域の延焼の恐れのある部分は不燃材料等としなければならない
 
建築協定
工作物確認
  • 住宅地の環境を維持改善するため建築物の位置、用途、形態、意匠等を各自治体の条例で定めることができる。
  • 2m以上の門塀、擁壁等の工作物は確認申請が必要
 
都市緑地保全法
宅地造成等規制法
緑化協定
擁壁の規制
  • 地域住民の同意をえて一定地域の緑化の推進
  • 規制区域内である一定以上構造物の規制
 
条例 自然保護条例
建築安全条例
緑化計画
敷地及び道路
  • 1000m²以上の開発計画や建築計画で適用、緑化計画の提出
  • 敷地延長(路地状部分)幅員
  • がけ部分の建築制限
・東京都の例
まちづくり条例
福祉のまちづくり条例
参加型まちづくり
福祉的環境整備
  • まちづくり協議会へのサポ−ト
  • 住宅のバリアフリ−化、道路の改善
・世田谷区の例


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