路線バスのようなまちの空間
東京に住む私が、このところ一番よく使っているのは路線バスです。太川陽介・蛭子能収コンビの人気番組を見ていてもわかるように、路線バスは通勤電車と比べると遥かにクールではありません。一度に運べる人数は圧倒的に少ないですし、停留所の間隔も短く、移動時間の中で停まっている時間がかなり多くを占めます。目的地に対して直線的に動いてくれるわけでもありません。電車と比べると時間もかかります。でも、だからこそ路線バスを選ぶのです。
余程混んでいない限り、路線バスの乗客の殆どを認識することは簡単です。場合によっては運転手の人柄の一端に触れることもできます。電車では考えにくいことです。そして、路線バスには、お年寄り、障害をお持ちの方、子育てのママ、会社員、学生、学童等々、実に多様な人たちが乗ってきます。狭い空間にごちゃまぜ状態です。なのに電車程にはテンションが高くないのが路線バスの不思議なところです。
今回の金沢方面への取材旅行では、社会福祉法人佛子園の3カ所の拠点を訪問させて頂いたわけですが、新幹線開通直後の安倍首相の訪問で全国に名を馳せた「シェア金沢」も、雄谷理事長の育った寺の敷地に展開した「三草二木行善寺」も、その原点には小さな町の廃寺をリノベーションした「三草二木西圓寺」での試みがあることを再認識させて頂きました。私にとってはこれが大きかったです。
三草二木西圓寺にお邪魔したのは二度目ですが、その雰囲気に路線バスと似たものを強く感じています。お年寄り、障害をお持ちの方、子育てのママ、職員、学生、学童、そして温泉目当てに訪れた家族連れ等がごちゃまぜ状態です。なのにテンションが高くなく、ゆったりとした気分でいられる不思議で自然な暮らしの空間なのです。この路線バスのような雰囲気はそうそう狙ってできるものではないと思われますが、それを狙ってつくり育てているのが佛子園の凄いところだと感心しています。
ここには、これからのまち空間が目指すべき状態の一つ−様々な人がごちゃまぜ且つ自然に混ざり合い、リラックスして暮らせる路線バスのような空間−が示されていると思います。
(松村秀一)
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