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3.輪島の土蔵の再生に取り組む


萩野:  私の住む輪島市三井町には茅葺き民家がかなり残っています。それらの被害は少なかったのですが、三井町でも土蔵は大きな被害を受けました。

  この「かやぶきの里」は茅葺き民家の保存・活用の一環として輪島市が買い取ったものです。現在のところは茅葺き民家が2棟ありまして、この旧福島邸は集会・研修施設として使われています。ごらんの通りこの民家の土蔵も地震で被害を受けてしまい、修復している最中です。地元の三井にも壁土に適した土もあることが分かったので、補修用の壁土は、ここの土と解体した畳を混ぜ、少し寝かせてから使う予定です。
鈴木:  土の適性はどうやって判断するのでしょうか。
萩野:  久住さんから習ったのですが、土の団子を胸の高さから落として、壊れなければある程度の強度があると考えてよいそうです。あと、収縮性については壁塗りのサンプルなどを作って確認します。もっとも職人さんは触るだけで分かるそうです。柱に腐っている部分があったので、そこは新しい部材を継ぎ直し、ステンレス金物などで補強しています。三井はもともと林業が盛んだったこともあり、内壁は板の落し込みで仕上げられています。
鈴木:  土蔵の用途は何だったのでしょうか。
萩野:  三井では、家財道具・米・味噌などを収納する土蔵が多いですね。一方、輪島の街中の土蔵は漆塗りと密接に関わっています。漆塗りに必要な一定の温湿度環境が保たれやすかったからでしょう。街中の土蔵は住宅と連続したり鞘に囲まれて建てられているものが多く、表通りからはその存在すら分かりません。それが地震の被害であぶり出されました。
佐藤:  能登半島地震では、なぜ土蔵の被害が目立ったのでしょうか。
萩野:  一つは左官技術の問題です。地震後に左官職人の久住章さんたちが20棟ほどの土蔵を調査した上で指摘されていますが、土がさくい(粘性が低い)上に、構造的にも欠陥がありました。例えば、柱と柱の間に取り付ける間渡竹がないこと、さらに土が乾かないうちに塗り重ねられたため中の縄が腐っているといった問題が見つかりました。「NPO法人輪島土蔵文化研究会」のプロジェクトではこれらの技術改良にも取り組んでいまして、輪島や北陸だけでなく全国の若手左官職人の研修の場にもなっています。

もう一つは1959年の水害のダメージです。このときの輪島市街地は1mほど浸水したそうですが、かつて水に浸かった部分がバッサリと剥落しました。プロジェクトの一つでは、こうした被害を日干しレンガ積みによって修復しています。


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