ライフスタイル考現行


6.まとめ

移住者3人のインタビューから、沖縄移住の動機や沖縄の何に惹かれるかは、沖縄に住みたいと思う人の数だけあり、そこに何か一定の方向性があるという訳ではないことがわかった。しかし、共通して言えることが、今の日本社会の生活に何らかの不満があるということだ。現代社会では、スピード化、効率化を目指して進んできた。そのような風潮の中、「癒し」や「スローフード」といった言葉が囁かれはじめ、最近ではブームとなっている。人々に心の余裕が無くなってきていることの表れだろう。

日経ウーマンの2002年11月号の読者アンケートによると、「スローライフをしてみたいか?」という質問に実に83.2%もの人が「してみたい」と回答している。(有効回答者数918人 回答者の平均年齢33.0歳)

また、「あなたの今の生活で不満に思うことは?」という質問では、

1位 こころに余裕がなくなっている(51.6%)
2位 自分が本当にやりたい仕事をしていないように感じる(41.9%)
3位 周りの人間関係に自分を合わせすぎて疲れた(26.8%)
4位 規則正しく栄養バランスのとれた食事ができない(26.6%)
5位 仕事が忙しくて自分を見つめる時間がない(22.8%)
6位 伝統・文化・自然に触れる生活をしたいがやり方がわからない(22.6%)

という意見が出ている。このように、現代社会で「ファストライフ」を送ってきた人々が、今の生き方に疑問を抱くようになってきた。一度立ち止まり、今までの人生を振り返る中で、「スローライフ」の人生を歩みたいと思っているのであろう。しかし、本土の生活のペースでは、なかなかこの「スローライフ」を実現するのは難しい。しかし、沖縄には、それが実践しやすい環境がある。琉球文化という「楽しく生きる文化」と「心のやさしい県民性」があるからだ。

特に、コザはもともとアメリカがつくった街であり、沖縄の中でも人の特性を受け入れる事に関しておおらかである。よく海外でカルチャーショックを受けて帰ってくるという話を聞くが、それを実感できるのが、身近なこの沖縄そしてコザなのではないだろうか。日本社会は、伝統文化に囚われすぎて、異文化を異質なものとして、つい気持ちの中で避けたり、不安がったりする。しかし、本来は日本の伝統も他国の文化をうまくとらえて、日本流にアレンジしてきた。例えば、日本の日常の食卓では、和食だけでなく、中華やフランス料理、エスニック料理などを取り入れて、食文化が豊かになったのである。そう考えると、日本社会も「多民族多文化社会」に変われる要素を持っている。しかし、今なお居住空間での異質の参入は、豊かさを持たされながらも、その一面では戸惑いと不安が交錯している。これが今の日本だと思う。その点、コザは街全体が異質性と同居しており、チャンプルー文化といわれるように異国の文化を受け入れて、さまざまな形で自己流のものを生み出している。モノの国際化、情報の国際化が進み、外国への往来がますます自由になりつつある現代において、次に求められるのが、人の国際化、意識の国際化ではないだろうか。国際化を目指しながらもなかなか受け入れる体制ができていない日本社会において、このコザの姿がいいヒントになるかもしれない。
そして、街の人に合わせるために自分を変えるのではなく、自分自身のままで受け入れてくれるこの街が、今まで「ファストライフ」を送ってきた移住者にとって心地よく感じたのであろう。現に、出会った移住者達は自分のペースのスローライフを手に入れ、心に豊かさと余裕が生まれたという。中高年のサラリーマンで定年後の生活や暮らし方に不安を抱く人が多い中、コザンチュは「一生現役」という意識で定年という区切りをつけず、自分のスタイルを保ちながら生活を送っている。彼らの自分の気持ちに正直に生きる姿を見ると、こっちの方が幸せな生き方なのかもしれないと思う。そういう意味でも、以前は出世コース、人生設計のコースが強固にあったが、それが徐々に揺らぎ始め、選択肢が増えた時代に変わってきているのであろう。

国際化の時代を生きていくためには、独自の文化をいかした文化を創ることが求められる。本土よりも一歩国際化が進んでいる沖縄では、さまざまな運動の先頭にたって行動をしている移住者の活躍が目立つ。そのことが、地元民であるウチナーンチュの本来持つ「島国根性」に火をつけ、自分達の故郷の良さを見直す起爆剤ともなっている。このウチナーンチュと移住者との関係は、沖縄の発展だけでなく、日本が発展する上でも今後の重要な要素となるであろう。収入アップや出世を目指して得られる「モノの豊かさ」に対し、自分流の生き方で得る「心の豊かさ」。人によって豊かさの基準は異なるし、人と同じように合わせる必要もない。自分にとっての「豊かさ」とはいったい何だろうか。

本報告は、武庫川女子大学生活環境学科西田研究室 窪山洋子の現地調査をもとに窪山洋子と西田徹が共同で作成したものである。



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