【第二部 座談会 −第三の選択肢を読み解く−】  15:00〜16:30
   

●一戸建て住宅はなぜ「終の住処」ではなかったのか。

 

小林:

 この座談会では、高齢化していく中での、今後の住環境のあり方を議論していきたい。
 まず、始めに、今まで理想とされてきた庭付き一戸建住宅が「終の住処」ではないというのはなぜか?

 

在塚:

 かつての庭付き一戸建て住宅に抱いていたイメージと、現在の庭付き一戸建て住宅の現実が、環境・近所付き合い・庭付きなどの点で、大きく違ったものになっているからだと思う。
 また、かつては、住宅は「子ども」のために残すものでもあったが、現在は「自分」のことを優先して考えるようになり、何も戸建て住宅に固執する必要がなくなったことも要因だと思う。

 

広瀬:

 男女によっても理由は異なると思う。男性は庭付き一戸建てに対して、「ロマン」を持ち、それが「甲斐性」であり、ローンを返済することで「責任感」を得ていた。しかし、年数を経るごとに、水回りなどの設備の替えが必要になったり、思った以上に老朽化して、とても「夢の実現」とは思えなくなっている。また、女性は多くの場合、自分ひとりが残った状況を想定していて真剣に考え出している。

 

園田:

 かつて1980年代くらいまでは、高度成長期にあわせた明確な「住宅双六(シナリオ)」があり、共有化され、誰もがそれを「上がり」だと信じていた。しかし、自分が実際に高齢者になった今、それは決して「上がり」ではなく、「まだまだ先へ続いて行くもの」と考えなければならなくなっている。「この住宅双六の続きを考えること」が今回のシンポジウムのテーマだと思う。

 

小林:

 80年代までは「女性は家にずっといる(専業主婦)」「親と同居」などの前提条件があっての「上がり」だったが、現在はこの前提条件が崩れている。とても、一戸建て住宅が「上がり」であるとは言えなくなっている。

 

     
   

●老後の居住に「第三の選択肢」はあるか

 

小林:

 庭付き一戸建て住宅での定住ではないとしたら、では、どこへ転居するのか。ここでは今までの一般的な考え方とは全く違う「第三の選択肢」について考えてみたい。ここでの「第三の選択肢」とは、
1. 定住 2.施設居住 の極端な2つの選択に対する「転居」という第三の選択肢
1.田舎への転居 2.都心へ の転居に対して、「駅勢圏への転居」という第三の選択を意味している。
 まず、なぜ施設への転居ではなく普通の住宅への転居を望んでいるのか?
 そして、田舎でも都心でもない第三の選択肢としての駅勢圏を望む人が2割以上いるのはなぜか?

 

広瀬:

ハウスメーカーとしての立場だが、かつては田舎へは非日常の「別荘」目的販売していたが最近は「定住」目的に変化しているような現象もみられる。

 

園田:

 確かに男性は海山派でロマンを求め、女性は現実的に利便性を求める傾向があるが、高齢者に共通するニーズは「地域内住み続け」(自分の知っているところ、お気に入りのところ、友達のネットワークなど)ではないか。Aging in unit(住戸内での住み続け)ではなくAging in place(地域内での住み続け)であると考えるべきである。

 

在塚:

 そのためには、駅前に魅力がないと地域内での住み続けが難しいと思われる。今後は駅前の魅力づくりが課題となると思う。

 

広瀬:

 介護保険により在宅サービスという選択肢も広がったため、最後の最後まで施設で住む必要もなくなっているのではないか。

 

杉山:

 アンケート結果では、「年寄りばかりだと嫌」「介護者に対して弱い立場になってしまう」という「施設に対する嫌悪感」が強く窺える一方、「地域に対する執着」といったような傾向もみられる。

 

小林:

 では、どうしたら転居に対しての潜在的なニーズは顕在化すると思うか?魅力的な転居先の条件についてどう考えるのか?

 

在塚:

 住戸の規模は小さくても、駅前などオープンスペース・共有スペース等の環境整備が整っていることが大きな条件になると思う。

 

広瀬:

 確かに駅前整備によりface to faceの買い物で賑わったりすれば、商店街・利用者双方の活性化につながると思う。

 

     
   

●定住できる条件は何か

 

小林:

 転居の潜在需要はありそうな一面、過半数の人は、結局は定住を望んでいる。定住をしながら潜在的に抱えている不安をどのように解決していくか?郊外の一戸建住宅地を終のすみかにする条件とは何か?


園田:

 2つあげられる。1つ目は住む「箱」の延命をはかることである。バリアフリーや設備など、建築に不安を残さないこと。2つ目は地域住民の相互の助け合い。今は公共のサービスがあるが、それに加えて地域住民の参加が重要な条件になると思う。

 

在塚:

 相互扶助の例として世田谷区で自宅を開放し定期的にお茶会を開き、地域ネットワークの拠点とする試みがある。その他にも繋がりを育てる方法は沢山あり、自宅の一部を利用するものは多く出てきている。地域に一つの核となる施設があれば、あとは市民レベルの活動でフォローできる部分も多いと思う。

 

小林:

 犯罪の頻発により転居を希望する高齢者が増えている。お茶会の開催などで、本当に不安が解消できるだろうか?

 

廣瀬:

 確かに現状では、防犯が動機になってマンションへ転居するケースがある。特に1人暮らしの女性には多いようだ。

 

小林:

 では、定住するにはセキュリティーサービスがあればいいのか?

 

在塚:

 今の庭付き一戸建の住宅は庭も狭く、塀がない。道路に視線が自然にいく設計やアプローチを長く取るなど、プランニングで防犯を考えるのも重要ではないか。

 

小林:

 バリアフリーリフォームはよく言われているが、他にもサービスやセキュリティーなど課題は多くある。地域の安全を人の目で守ることも重要になってくるだろう。

 

園田:

 地域の安全を人の目で守ることを考える、「お茶会」は評価できる取り組みだと思う。一方、団塊の世代が定年を迎える今後は、男性が地域活動に参加することで、まちの安全に大きく貢献することを期待したい。