総 評

住み方は生き方

きびきびした言葉と、生き生きとした絵が、わくわくと呼応しあう、絵本の醍醐味があふれるすぐれた作品が今年も多数寄せられました。

住まい・まち絵本は、対象としてのモノを描く前に、誰のために、誰の視点で、誰のふるまいを描くのか問われます。今年の作品には、障害者・高齢者・シングルマザー、ゴミ等、弱い立場のヒト・モノの側に立って、主人公がよりよく生きる姿が想像力豊かに描かれているのが目立ちました。とりわけ、「町を救った太陽君」や「あつまるあつまる」等は、作者自らが当事者として清々しく楽しく住み、まわりにはたらきかける物語が共感を呼んでいます。そこには住み方は生き方であり、まわりのかかわり方がまちを育むことにつながるということが具体的に意表をつく面白さをもって表現されています。そのことは家やまちの絵本を創作する上で、最も基本的に大切なことだと思います。

これまでにくらべて、高校生の作品に見るべきものが増え、将来性を感じさせる作者が登場しました。特に「山田家と俺の昼寝事情」は、ことばと絵がひとつとなって協力し合い、まるで映画を見るようなワクワクドキドキの感動を引き出しています。

小学校低学年の子どもの作品には、想像の力・パワーがサクレツするところにその発達段階の特徴がうかがえます。「トコちゃんのピクニック」には、リスクを楽しみながら乗り越えるというこれからの社会での人々の生き方の重要性を示唆する中味の新鮮さが、イメージ豊かな絵とことばの相互作用によって余計に輝きをおびて示されています。

親子合作には、「ぼくのいえ」のように、子どもならではのアドリブの自由感覚と、親による現代的手法の駆使が結びあわさることにより、創作過程における家族ひとりひとりの楽しい声がきこえてくるような作品が生まれているのも注目されます。

このコンクールは、子どもも親も日本の住まい・まちへの柔かい感受性の発露とユニークな表現によって、未来の住み手・市民を育む誠に重要な社会的役割を果たしています。次年度もさらにオリジナルな多様な作品に出会えることを期待しています。

2013年 秋
第9回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
NPO法人まちの縁側育くみ隊 代表理事 延藤 安弘


審査委員 応募総数 : 854作品
小澤 紀美子 (東京学芸大学 名誉教授 東海大学 教授) 子どもの部 297 作品
町田 万里子 (手作り絵本研究家) 中学生・高校生の部 437 作品
大道 博敏 (江戸川区立平井西小学校 主幹教諭) 大人の部 40 作品
勝田 映子 (筑波大学附属小学校 教諭) 合作の部 80 作品
林田 康孝 (国土交通省住宅局 木造住宅振興室長)    
仲田 正徳 (住宅金融支援機構 CS推進部長)
古川 陽 (都市再生機構
カスタマーコミュニケーション室長)
佐々木 宏 (住宅生産団体連合会 専務理事)

国土交通大臣賞 受賞作品


絵本を読む

町を救った太陽君

小野寺 麗央 ―野田市立岩木小学校4年(千葉県)―
講評:
チェアウォーカーの太陽君は冒険好き。旅に出た太陽君はまちの困り事を次々と解きほぐしていく。やがて自らの身体の傷も癒されていく。生きることとまちを育むことへの夢が、力強く、大胆に、細心に描かれていく各頁は、読者に感動を与えてやまない。分かちあいと平和のある社会に向けての清々しく力強いメッセージ。

文部科学大臣奨励賞 受賞作品


絵本を読む

トコちゃんのピクニック

大畠 帆乃夏 ―珠洲市立宝立小学校2年(石川県)―
講評:
トコトコスナックをもっておでかけのトコちゃんは、カマキリのペコペコに出会い大冒険。あわや食べられるという危機がおそってくる時、機転をきかして自ら難をのがれる。リスクを楽しみながら乗りこえる、という現代社会に生きる上に必要とされるセンスがユーモアをもって表現されている。クレヨン仕上げにニス止めの手法と想像力のパワーのサクレツする物語が溶けあう傑作。


絵本を読む

ヨモヨモたちの町づくり

後藤 望友 ―名古屋市立工芸高等学校2年(愛知県)―
講評:
ゴミの山。ゴミの立場になってゴミに再び生命を吹きこみ、家やまちをつくる物語。キャラクターたちの面白さとユニークさ、捨てられたモノが再生すると歓喜の声が響きわたる。資源循環・リサイクルについての新しい発想と気づきを促してくれる。

住宅金融支援機構理事長賞 受賞作品


絵本を読む

山田家と俺の昼寝事情

外山 舞 ―静岡県立浜北西高等学校3年(静岡県)―
講評:
ネコとおばあさんと縁側の物語。ローアングルの視点、時間とともに出来事の変化の流れ、山場の出来事のクローズアップ等々は、まるで映画をおもわせるワクワクドキドキの表現。人間への愛情、四季の機微、感情の起伏を引き込まれる文で綴る技もスゴイ。高校生として将来性を感じさせる逸材。

都市再生機構理事長賞 受賞作品


絵本を読む

団地の泣きライオン

星野 英俊 青山 恵子 (神奈川県)
講評:
古い団地には暮しの記憶がふりつもっている。記憶は人間と団地の相互に浸透しあう関係の価値を語ってくれる。団地の建てかえにあたり、そのことに着眼したところがユニーク。願わくば、未来に継承したい価値を記憶の物語から引き出し提案できるともっと深まりのある内容になったのではないか。

住生活月間中央イベント実行委員会委員長賞 受賞作品


絵本を読む
子供の部

あつまるあつまる

中村 都麦 ―荒川区立第二峡田小学校3年(東京都)―
講評:
シングルマザーの家庭で、ひとりっこのぼくは、ある日学校から帰ると玄関にカエルがいた・・・・。
ぺーじをめくると思いがけない出来事が衝撃的に飛びこんでくるという絵本ならではの組み立て方がスバラシイ。ブタもヘビもピラニアもダイオウイカもドラゴンも次々とあつまってくる。
ひとりぼっち、バラバラを超えて、混ざりあう、つながりあう、あつまる楽しさを、日常・非日常問わずひろげていこうという住み方の真新しい発想が誠に感動的。

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大人の部

家のまもりはヤモリにおまかせ

八木 志津子 (神奈川県)
講評:
「家を守ってくれるなんて、神様みたいね、、、、」の冒頭の一言がヤモリとの出会いの意味と物語進行の方向を見事に表している。住まいから小さい生き物がいなくなりつつある現代の傾向を超えて、ここには、日本の風土−住まい方には、小さい生き物と共生する住まいの文化があったこと(今もあること)を、みずみずしい物語に託して表している。ユーモアと哀愁が漂っている点も魅力。

絵本を読む
大人の部

わたしのまち

大江 しおん 愛媛大学3年(愛媛県)
講評:
おばあちゃんとねこが共に暮らしの中で、多様に豊かにつながりあっていたことが、まち並みや人々の活動を通して描かれたシンプルでほのぼのした絵本。人もネコもいつでもひとりではないこと、でも、見とられ、見送られる日がくることをさりげなく示唆。住まいの内と外の境界をたくみに描いている秀れた住まい・まち絵本。

絵本を読む
合作の部

ぼくのいえ

森 悠仁 森 あづさ 森 佳己 (大阪府)
講評:
3才児と両親の親子合作の喜びの声がきこえてくる。子どものクレヨン画と大人の紙細工が、スキャナーによって合成され、さらに子どものアドリブ表現が加味されていく表現プロセスが面白い。住まいへのイマジネーションの翼のひろげ方もユニーク。

子どもの部


絵本を読む

くろおおありのおうちのひみつ

M本 小百合 ―町田市立鶴川第二小学校5年(東京都)―
講評:
最初のページをあけると、パーッとピンクの大きな花とクロオオアリのクロちゃん、そして、こびとさんが目に飛びこんできます。その絵の見事なこと!!
思わず吸い込まれるように絵本の世界に入ってしまいます。クロオオアリさんは、どんなひみつをもっているのでしょうか。作者はそのひみつをよく調べて、すばらしい筆づかいで表現しています。続編が読みたくなる1冊です。

絵本を読む

わたし、だったら

小林 真子 ―市川市立新井小学校3年(千葉県)―
講評:
絵本を開くとまず目次が目に入ります。七色の虹の目次です。トンネルの巻、エスカレータの巻、ちゅうりん場の巻、、、、、。それぞれの巻で「わたし」はトンネルを、エスカレータを、ちゅうりん場をこうしたらどう?とすてきな場所に変身させてしまいます。「わたし」を助けてくれるのは、力持ちの大男さんやカミナリさま。まわりのみんなの力を借りて笑顔がいっぱいさく町をつくってしまう「わたし」。そのダイナミックなパワーに、元気をたくさんもらえる絵本です。

絵本を読む

森の交さ点

高坂 桃花 ―珠洲市立宝立小学校2年(石川県)―
講評:
森の学校へは、森の交さ点を通って行きます。交さ点は、いつもうれしそうに子どもたちの通学を見守っています。ある日、うれしすぎて、とうとう森の交さ点はみんなに話しかけてしまいます。みんなはびっくり仰天!。しかし、すぐにみんなと交さ点は仲良くなります。「ひょっとして、あなたの森のどこかにも、森の交さ点があるかもしれません。」絵本の呼びかけに、思わず身の回りを探してみたくなる幸せを運ぶ一冊です。

絵本を読む

ぼくんちのひみつ

本岡 飛明 ―長岡京市立長法寺小学校3年(京都府)―
講評:
「ぼくんちには、ひみつがある」。冒頭からわくわくさせられます。実はこのお家のひみつのカギは、お父さんがにぎっているのです。大冒険に出かけるぼく、北海道にラーメンを食べに行くぼく。でも必ず元の場所にもどってこられるのは、お父さんのひと声があるからなのです。家族っていいな、わが家っていいな、そんな温かい気持ちに浸らせてくれるすてきな絵本です。

中学生・高校生の部


絵本を読む

なつまつりのよる

亀山 采穂子 ―明星学園高等学校1年(東京都)―
講評:
色えんぴつを巧みに使ったやわらかな線に好感が持てます。また紙の性質をうまく利用した淡い色調が、作者の個性としてよく表れています。夏まつりのよるが舞台なのですが、夏まつりの場面は1ページに留め、むしろまつりを媒体としたご近所とのつながりを主題にしているところが心にくい。絵のタッチ同様にやわらかな、暖かみのある一冊となっています。

絵本を読む

クリスマスとロボット

寺川 朋恵 ―兵庫県立西脇高等学校2年(兵庫県)―
講評:
鮮やかな色使いが目を引く作品です。複数の描画材を場面の雰囲気に合わせうまく使いこなしています。また、単純化した顔の構成にもかかわらず、表情豊かな主人公、ピーポ君のキャラクターデザインもよくできています。最愛の親友に最高のプレゼントをしたいと旅に出た主人公ですが、最も大切なものは何かという物語の結末も暖かい。

絵本を読む

あおいちゃんのお家さがし

渡辺 江里奈 ―都立大泉桜高等学校2年(東京都)―
講評:
細やかな表現が美しい作品です。パステルを効果的に使う事によって作者ならではの色彩の世界を生み出しています。カラーボールペンで描かれた線もとても美しく、密度の濃い絵が24枚も描かれたことは、驚かされます。お話は様々な動物をもとにして、家族のかたちやつながり方を表していて、細部にわたって工夫された一冊です。

絵本を読む

今日はデート

美馬 匠吾 ―徳島県立名西高等学校2年(徳島県)―
講評:
作者の世界観と個性溢れるアートな作品です。寒色系の色彩でまとめられていますが、色えんぴつのタッチと巧みな塗り重ね、黄色の効果的な入れ方も相まって、むしろ暖かみを感じる一冊となっています。キャラクターデザインも秀逸で、独特の雰囲気があります。
細部に至るまでよく描かれており、高度な描写力には脱帽するばかりです。文章がまったく無いにもかかわらず、ストーリーが読み取れる構成のセンスにも驚かされます。

絵本を読む

すてきなぼうし

長谷川 智延 ―名古屋市立工芸高等学校1年(愛知県)―
講評:
中学生・高校生の部門全体に言える事ですが、描画材の使い方がとても上手です。本作品もその例にもれず、色えんぴつとペンを巧みに使い分け、美しい。女の子が帽子をさがす、というシンプルなお話ですが、絵の力によって、少ない描写と最少限の文章で素晴らしい絵本となっています。

大人の部


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洋館をカフェにしたい
−キュウさんの夢−

山内 久 (青森県)
講評:
都会の生活に疲れたキュウさんが生まれ故郷に戻り、カフェを開く夢の物語です。青森県つがる市にある現存する大正時代の歴史的洋館建築の銀行の保存の願いを絵本で訴えています。銀行の建築物の絵がすばらしく、夢の中に出てきたねずみのコーヒー豆屋から幻の金のコーヒー豆を入手し、カフェは大繁盛。
夢で終わらずに次の映画館の建物保存につながっていって欲しい作品です。

絵本を読む

ふ・歩・ふ

加藤 美代子 (千葉県)
講評:
優しい温もりのあるタッチの絵で心が疲れたら歩こうと誘い出してくれる物語。小さい木の枝の葉のみどり、白い雲、山の風、そば畑の白い花、温泉もいいね、海もみたいなぁ〜、気球にも乗りたいなぁ〜、という気持ちが高まり、ふ、ふ、ふと笑みがこぼれ、ふぅ〜とみんなに会いたくなる気持ちを誘い出してくれる作品です。

絵本を読む

木っと いい いえ

佐藤 洋子 (広島県)
講評:
団地に住んでいる男の子と両親の「新しいお家がほしい」という願いから森の木の大切さを学ぶことのできる作品です。ひのき、すぎ、けやきなどの木の種類やその使われ方の違い、海外から輸入されている木と日本の山の木の切り出し方の違い、さらに森の管理の大切さを学ぶことが分かりやすく描かれた作品です。

絵本を読む

チョビとコロンのひみつの大冒険

荒川 信子 (愛知県)
講評:
飼い主の旅行でおばあちゃんの家に預けられた2匹のハムスターの物語。おばあちゃんと一緒におやつや野菜をいただいていたある日かごを抜け出し、お家のことを全部知っているヤモリとの出会い、猫や蛇などの危機から逃げ出すなどハムスターの冒険が優しいタッチで描かれています。そうした外の冒険で雨が降りはじめて葉っぱの下で雨宿りをしていましたが、自分たちのお家であるかごの安全、安心を身を持って体験するストーリー展開から、暮らしの器である住まいの安全・安心を教えられる心温まる作品です。
合作の部

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夢の家

太田利三絵画教室 17名 (静岡県)
講評:
絵画教室に集う17名がそれぞれの夢の家を自由で力強い筆致で描いている。輪郭や背景に工夫をこらし、一人一人の夢見る家は違うが、明るく伸びやかでかつ統一感のある絵本にまとまっている。子どもに潜在するエネルギーがあふれ出る協働創作。

絵本を読む

あったらいいのになあ、こんな家

鮎川 力輝 大阪市立鷹合小学校6年(大阪府)
難波 麻衣
講評:
こんな家があったらいいなという家のアイデアは今まで数多く見聞きしてきたが、この絵本の理想の家は「学校の先生のための家」。スーパー印刷機やテスト自動丸付け機、調べたい本が飛んで来る書庫、子どもたちの遊び場を備えた実にユニークで面白い家。6年生の児童と先生の合作は、最後に、児童からの手紙もついていて感動的だ。

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げんかん スイッチ

金澤 愛子(埼玉県)
金澤 菜花 越谷わかば幼稚園年中
講評:
玄関という住空間で生まれる母と子の発想が面白い。玄関は、家の外と中を結び、出たり帰ってきたりする度に、必ず家族が通る場所。玄関で気分のスイッチオン!笑ったり、怒ったり、元気をもらったり。合作ならではの魅力にあふれる絵本。

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ゆめのいえ

本岡 楓子 成田市立神宮寺小学校2年(千葉県)
本岡 正
講評:
ある日突然引越した町で出会う不思議な出来事。住んでいるお家がボタン1つで空を飛んだり、海の中を漂ったり。さらに空を飛びすぎて宇宙へ飛び出してしまう。実は夢だったというお話だが、父子合作のカラフルなはり絵や飛び出す仕掛の工夫が、このお話の自由奔放な楽しさを際立たせている。

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水の夢

萱場 けやき 檜原村立檜原小学校6年(東京都)
萱場 明子
講評:
山に家を建てるには街に建てるのとは違い、電気や水道を引いたり、下水の処理を考えなくてはならない。この絵本は、昨年の「木の家のたてかた」に続く内容で、浄化槽設置の工程を中心に、住むことが自然環境に影響を及ぼすことにハッと気づかせてくれる。細密で清々しい絵と文。
トイレを安心して使える当たり前の生活の幸福を感じさせてくれる。