総 評
第13回「家やまちの絵本」コンクールに全国から寄せられた作品は、今年も充実した多様な中味でした。時代は、激しい変化の波にあらわれていますが、今年の作品には、自然災害や人災等が多発する現代を生きぬいていく暮らし・住まい・まちづくりを方向づける絵本のすぐれたものが注目を引きました。
突発的に襲ってくる災害という非日常を超えていくには、日常の暮らし方・住まい方の豊かさや、状況如何にかかわらず、自由発想やユーモアといった、人間らしい柔軟な心のもち方が極めて重要であることが、絵本表現の中に、時にはクッキリと、時には隠し味として表わされています。
例えば、国土交通大臣賞の作品は、東日本大震災後の復興、暮らし・まちづくりにおいて、小さな自然の再生・触れ合い、季節の味を食したり、地域行事を楽しんだりする、平穏な日常を取り戻しつつあることが、感動的に描かれています。同時に、そこには日常生活の中に、ヒト・モノ・イキモノ・コトがゆるやかにつながる和みと楽しさがあることが、非常時にも地域の力を発揮させることを、暗に示しています。
現代社会には、いろんなところにホコロビやコワバリがみられます。それを超えていくには、子どもならではの自由な発想に、大人が学ぶ視点ではないでしょうか。文部科学大臣賞(子どもの部)を受賞した作品には、意表を突く見方によって、常識の内に閉じこもりがちな私達大人の心を開いてくれています。ユーモアや遊び心は、想像力の筋肉の柔らかさをとり戻してくれます。
今年の作品の今ひとつの特徴は、文部科学大臣賞(中学生・高校生の部)にみられるように、日英語併記のバイリンガル表現です。国際化の流れに沿った試みとして注目されます。
ひとつ、部門選択についてのコメント。A部門(子どもの部)に力作が多いのですが、中には、明らかに親が手助けしたものが 見られます。そうした作品は、どうぞD部門(合作の部)に応募して下さると幸いです。
ともあれ、本コンクールはわが国の住まいとまちのあり方を、絵本創作を通じて明らかにしていく、ユニークな住文化表現活動です。来年も多くのすぐれた作品に出会えることを、私たち審査委員は心待ちにしています。
2017年10月
第13回「家やまちの絵本」コンクール審査委員会 委員長
NPO法人 まちの縁側育くみ隊 代表理事 延藤 安弘
審査委員 | 応募総数 : 495作品 | ||
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小澤 紀美子 | (東京学芸大学 名誉教授) | 子どもの部 | 71 作品 |
町田 万里子 | (手作り絵本研究家) | 中学生・高校生の部 | 337 作品 |
勝田 映子 | (帝京大学 教育学部初等教育学科 准教授) | 大人の部 | 16 作品 |
北方 美穂 | (あそびをせんとや生まれけむ研究会 代表) | 合作の部 | 71 作品 |
槇 英子 | (淑徳大学 総合福祉学部教育福祉学科 教授) | ||
武井 利行 | (国土交通省 住宅局 木造住宅振興室長) | ||
松村 収 | (住宅金融支援機構 CS 推進部長) | ||
原 武 | (都市再生機構 広報室長) | ||
小田 広昭 | (住宅生産団体連合会 専務理事) |
ぼくは天じょう |
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横須賀 悠人 ―日野市立潤徳小学校2年(東京都)― | |
講評: 天井から住まい方を観察する、意表の視点がユニーク。家族が焼肉をする時には、煙が上がってきて天井がむせかえるシーンなど、笑いをさそう。ユーモアは人々のこわばった心を解きほぐしてくれる。教育もひとりひとりの個性的な視点や、ユーモア・遊び心をもっともっと大切にしたい。 |
おつきさまのまほうMagic Of The Moon |
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仲宗根 萌 ―沖縄県立首里高等学校2年(沖縄県)― | |
講評: 月がまちと人々の暮らしを見ようとしている、おだやかな絵本。月の和みのある表情とまちのたたずまいのシルエットと人のふるまいが、ゆるやかに、結び合いの共鳴のあるまちの育みへの想いがみなぎっている。日英バイリンガル表現も、新機軸として面白い。 |
お守りかえる |
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ガリドディアス 智恵子 (東京都) | |
講評: 族の平穏、安心な暮らしへの願いが、家の玄関という定点を生かし、時とともに、家族ひとりひとりとの対話をもって進行する、ここちよいリズムがみなぎる。人や背後の描き方に、生活感がこもっている。しっかりとした造本、ぼくたちの好きな言葉「ただいま」でしめくくられる、秀れた生活絵本。 |
さがしもの大さくせん |
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立道 駿斗 ―須恵町立須恵第二小学校2年(福岡県)―
立道 都 |
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講評: 白いクレヨンの所在をめぐる意外な物語の中に、読むものを引きつける楽しさがある。クイズめいた問いかけもあり、頁をめくるリズムが生きている。普通は白は地の色なのに、地の色と図の色の逆転が新鮮である。子どもの願いが表出するとともに、親子合作の効果がにじみ出ている。 |
へんしん!おうちロボット |
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長山 桜介 ―七松幼稚園年長(兵庫県)― | |
講評: 「おうちがロボットだといいのにナ」の子ども自らのつぶやきが、次々と面白いシーンを導き出していく。「わるものがきたら」、「タカラものをさがすときに」等々、頁をめくる喜びあふれる流れがいい。「落ち」があるのも、メチャいい! |
いそがなきゃ! |
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西山 百花 ―姫路市立琴丘高等学校2年(兵庫県)― | |
講評: 昨年も賞に輝いたが、リズミカルな物語のすすめ方と、ダイナミックな表現、生活シーンの力強さなどが、いっそう進歩している。物語のコンセプト(何が言いたいのか、の主題の意味)、意表をつく展開、生活の力、人の表情の存在感などの描画がスバラシイ。さらに磨きたててほしい。 |
ぼくのようちえん |
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永井 奏音 ―大里東幼稚園年長(静岡県)― | |
講評: 通っている幼稚園までの道のりで出会う自然、そして地域の人たち、さらに幼稚園にいる友達や先生方への思いを豊かに描いている絵本です。にじみなどの表現技法や美しい色彩によって、好きという気持ちがよく伝わってきます。 |
ありがとう |
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米光 翔 ―上尾市立西小学校3年(埼玉県)― | |
講評: 引っ越しと転校というこどもにとって悲しい出来事を、主人公の心の成長と共に美しく描いている絵本です。空港に連れてきてくれた亀さんに励まされて、「ぼくはひっこす決心がついた」という場面は心に残ります。貼り絵によるくっきりとした色彩と、無駄のない画面構成と言葉がすばらしいです。 |
なっちゃんのふしぎなへや |
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金子 みのり ―五泉市立橋田小学校4年(新潟県)― | |
講評: 自分の理想の部屋を考えていた主人公が、いつのまにか空想の世界に入り込み、不思議な冒険をします。その楽しい経験は、きっと部屋のデザインにいかされることでしょう。色鉛筆と水彩絵の具による表現が、ほんとうに丁寧で心がこもっていて、心が安らぐ絵本です。 |
ぼくのいえ |
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関口 達也 ―松戸市立六実中学校3年(千葉県)― | |
講評: 石器時代の人は、どんな家に住んでいたんだろう? 人類の歴史とともに住居の歴史あり。各時代の特徴を調べ、丁寧に描かれた絵が、現代まで見開きごとに綴られます。住居の歴史をページ展開するとき、各時代をつなぐのは、「リフォームしましょう」というキーワード。「リフォーム」という作者のユーモラスなとらえ方に、センスを感じます。 |
沖縄 |
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松野 愛美莉 ―練馬区立光が丘第三中学校2年(東京都)― | |
講評: 透明な窓がある表紙は、次のページの海をのぞきこみたくなる期待感を持たせます。首里城、伝統工芸品、沖縄料理……。 ポップアップの手法を使って、大胆かつ繊細に表現。タイトルの置き方や色遣い、セロハンの使い方にも工夫があり、文字で多くを語らずとも、沖縄という地への愛情が感じられる絵本です。沖縄の地図で締めた裏表紙も、心憎い感性です。 |
暮しのかたちと間取り |
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植木 秀視 (埼玉県) | |
講評: 個別の経験を表現しながら、普遍的な住まいの暮らしの変遷を平面図だ けでなく立体図、イラスト、写真で丁寧に描いており、絵本で終わらせ るにはもったいない表現である。戦後70年の日本の住まいからみた戦後 史ともいえる、貴重な記録絵本である。 |
おいしいがいっぱい |
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永井 詩花 ―3歳(兵庫県)― 山本 絵理 |
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講評: 「じいじとばあばのおうちはたからばこ」という、魅力的な言葉でお話 が始まります。 春、夏、秋、冬、豊かに実る野菜や果物。それらを使っ た楽しい遊び−竹で作った流しそうめん、すいかわり、もちつきも登場。クレヨンと水彩、野菜版画や手型も使ったバラエティに富んだ表現が、わくわく感を盛り上げています。 |